___ある日、ある場所、ある人物、とある悲劇と遭遇しました。 生臭い血の匂いが辺り一帯を覆い、無数の死肉が無惨に無作為に地面に拡がる。ここは、とある村……いや、ここは少し前まで村"だった"。 狼の遠吠え、それが廃墟に鳴り迫る。 ___ワォォォォォォーーーーーーーーッ!! ここは辺境にして、魔境。 化け物どもの跋扈する世界、夜が絶望を呼び、昼が希望を告げる世界の御話。 「あら……っ」 鈴を鳴らしたような可愛らしい声、栗毛の髪が夜風に揺れた。 ___そして、とある少女は微笑んだ。 とある惨劇、そしてその跡地___。 とある一人の少年、今にも崩れそうな廃墟に息を潜める。 「来ないで……、もう来ないでよ……、、」 ……外からの物音。 「ひっ___!」 獣の喉笛、近くにいる。少年の首筋が恐怖で震える。鼻先で感じるは死臭、固く閉じた瞳の向こうには死体、その耳に聞こえるのは死人の嘆きだろうか? ___いや違う!、これは………!? ………ガッシャァァァンン_ッッ!!! ガラスと木片が吹き飛ぶ破壊音、背後からの衝撃に思わず少年は半狂乱になりながら、その場を大きく飛び退いた。 「うあぁぁァァ〜〜〜ッ!??」 ___ズザザ ザ…… 底抜けした床板に擦り剥く形で全身を倒れ込み、慌てふためき体勢の整わないまま瓦礫の散乱する背後を振り向く。 ___すると、、、 「ヤ…………、、、」 少年の口が半開く、それもその筈……。 "人狼"、それは半浪。これこそ世にも奇妙な狼人間、口からボタボタ垂れているのは赤い塩水、その口周りにベッタリと塗られた返り血という名の口紅を…ポタ…ポタ…と、床を湿らせて拍をとる。 その熟れたリンゴより赤い目が、ギラリとこちらを見た、少年を視た、獲物を観た、弱者を看た。その月夜に照らされた巨躯が、頑なに閉じた目へと少年の抵抗虚しく視界にスッポリおさまった。 こうして少年、その少年は恐怖に抜けた腰をへっぴりと翻して泣き叫び、その頼りない手足で精一杯に地面をバタつき、水中に溺れたように這っていく。 「イヤだッ!、こないで!、来ないで!、こないでと言ったのに!」 クリッと丸い瞳から溢れた涙、高い音程で悲鳴を掻き鳴らす。そして、言うことを聞かない手足を血の滲む爪先で腐った床板に半狂乱に突き立て、何度も何度も掻き毟る。いやはや、なんとも煩い、なんとも虫酸が走ることでしょうか。 ___人狼は、そう思いました。 今宵の晩酌、又の宴。再び巡り会える事のできた餌に舌を舐める。これは一種の通過儀礼、人間がご馳走を前にして手を合わせる行為に似ている。ただし、その行為の後は人間には似ても似つかないほどの八つ裂き、滅多刺し。 ___人狼の宴、いざ行かん。 「待って!、待ってよ!、僕はおいしくないからなッ!!、アァァァァ〜〜〜ッ!!!」 ___バッ…! 人狼は飛び出した、その巨体が雲に覆われた月下で宙に浮いた、飛んでいた。少年へと迫り来る顔面、せり出した長い爪先、涎の飛び散った牙が少年へとズル剥けた。 ___しかシ……ッッ!!? 鳴り響いた轟音、鉄の大きくタワむ重低音。それが人狼の顔面を殴打した、頬骨の砕けた音と共に折れた牙が空高く舞い上がる。 ___ドバァン…! そして、今しがた折れた牙が空中で異様に回転しながら床へと落チタ。 ___コトン…ッ 少年は小便を漏らした顔で目を見開いた。 地獄の沙汰も金次第、金は無くとも神は居た。 "剛剣"、そんな言葉が相応しい巨大で尊大、大いなる十字剣を振りかざした存在が一人、こちらに優しく微笑んだ。間違いない、確信した、彼女は天使である! 「て、天使だ……」 一拍を置いて……、、、 「お困りですか?、そんな時は暴力に限りますね。ニコッ」 __スッ、と彼女は軽々と大剣を静かに降ろした。 これは天使は天使でも、正確には脳筋!屈強!暴力!の3点セットが揃った純度100%のヴァルキリーの方かもしれない。 少年、混乱の末に___。 「ハッ…! じ、人狼がッ!、早く逃げなきゃ!?」 物音がした。彼女が振り向くと、先程に殴り飛ばした人狼の姿。そうだ、その醜い顔が更に酷く歪んだ可哀想な人狼が鼻息を荒げて立っていたのである。そして、人狼の赤目が更に紅く輝いた。間違いない、ブチギレたのだ。 天使…?、アマゾネス?、ゴリ……げふん!げふん!、可憐な立ち振る舞いの少女は微笑みを絶やす事なく己が握った剣を、床に深々と叩き刺した。 ___ズバン…! 一呼吸を置いて……、 「ならば私は暴力で対抗しましょう。」 ___と、拳を構えたゴリr、いや…天使。 すると、人狼は夜空に向かって大きく遠吠えた。 ___ワォォォォォォーーーーーーーーッ!! つまり、これは……ぜったいにゆるさんぞ虫ケラども!!!!!、じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!!!! ……と、いう人狼の意思表示である。頑張れ! 人狼が跳ねた。 ___バッ!! 人狼の踏み出した瞬間の方が速かった、硬く強く地面を蹴り砕き、その勢いの余力で憎き少女へと牙を剥いた。 「危ない……ッ!?」 少年の声、咄嗟の叫び声である。 ゴリラの拳……。 ___ゴパン…ッ/// 顎に一発、快音を響かせた少女の一撃。人狼の弱った顎に左アッパーが見事に炸裂ッ!!、イける!いけるゾッ! ふらつく人狼の足元、すかさず優雅に回った少女の足元、間髪入れずの足払い一閃。 ___ステン…// 肩から倒れた人狼の頭部、古い床下に沈み込む。 そのまま少女の握り拳、…ググッ! ___ズバァン……ッ!!? 決まった一撃、トドメの一撃。 人狼の体がさらに沈み込み、その肉体が大の字に無残に横たわる。 ___少女は、パッと振り返る。 「もう大丈夫です……ヨ…?」 その背後___、、 見開かれた少年の瞳、彼女の背後、その後ろから放たれた巨大な一撃。 ___ズゴッ…!! 少女の脇腹、そこに拳が深く入り込んだ。 「グフッ__!??」 不意を突かれた少女の肉体、軽々と横一文字に振り払われた。その華奢で身軽な体躯が、出来の悪い土壁を壊して、遠くに吹き飛ばされていく。 途端に立ち込めた土煙、そびえ立つ人狼という名の絶望に屈するように平伏した存在が一人、先程の少年が己の手で頭を守るように丸めて床に臥していた。 人狼の唸り声、意味は分からずとも、意図は解る。 ___お前を殺す。 言葉を介さない少年と化け物の短い会話劇。すると、少年の肝から這い出してきた嗚咽、死に直面した瞬間に込み上げた恐怖の感覚が全身を駆け巡った。 「いやだ!イヤだ!イヤダ!、死ニタクナイ!」 少年は発狂した様子で泣き叫び、天を仰いだ。 だが然して、絶望を前にして希望せよ。神はお前を見捨てない。 ___瓦礫が揺れた。 「ご機嫌よう、先程のお話は端的に言って暴力の話ですね?」 ……と、瓦礫の中から彼女がヒョッコリと顔を覗かせた。 その瞬間、その場に立ち込めた空気は緊張。そう、これは人狼が感じた恐怖の味である。さすがの人狼も、これには面食らったのか開いた口が塞がらない。一歩、二歩と彼女から離れるように後退した。 彼女が瓦礫の山から立ち上がる、そして歩き出した。 ___ト…ト…トォ、…スッ! 刺してあった己の十字剣を引き抜き、少女は改めて微笑みを浮かべた。 「やはり暴力!、暴力は全てを解決しますね♪」 両肩に担がれた十字剣、審判の時が差し迫る。 天高くに振り上げた大剣…ッ!! 「暴力のお返しです♪」 ___ズア……ッ!! 真上からの一発、一刀両断。 人狼の眉間から股間までを、一撃のうちに斬り伏せた。 地面を深く抉って突き刺さる十字剣、飛び散った血飛沫が少年と少女、そのどちらもまるで勝利の美酒で祝うかのように、二人の頭上から血の雨となって赤く鮮明に両者を染め上げた。 「ふふっ、大丈夫でしたか?、お怪我はありませんか?」 少女からの伸びた手、血で滑りやすくなっていた事に呆気に取られつつも少年は、その柔らかな手に優しく引き起こされた。 「ぁ、あり……がとぅ……ございます…」 完全に萎縮したままの感謝、か細い声で少年はお礼を述べる。 「それでは、私はこれで……♪」 「あっ、ちょっ…!、これから何処に行くの!」 放心状態だった少年の意識が、離れていく少女に引き戻され、その細い背中のシルエットに思わず問いかけていた。 ___ピタッ… 少女は立ち止まった、そして……! 「新たな暴力が私を呼んでいます!、だから私は向かうのです。」 少女は微笑む、また再び少年は問いかける。 「でも!、そんな事を続けてて何になるの!」 少年からの意外な質問、こんな自らの命への冒涜。自殺まがいな少女の凶行に対して問いかけたのだ。そんな少年の姿に気圧されたのか、少女は一瞬だけキョトンとした表情を見せると…… 「暴力を止められます!、やはり暴力を止めるには暴力ですね♪」 迷いの無い言葉、躊躇いの無い瞳が少年に優しく微笑んだ。 ___どうしてだろう……、 ……少年は、歩き出した。 躊躇はある、迷いもある、恐怖もある。 ___だけど…、、、!!! 「ぼ、僕もついて行っていいかな!」 少年からの申し出、再び少女は面食らったのか驚いた顔で少年を見返した。でも、次の瞬間には笑っていた。 「ええっ、勿論! 貴方のような人は大歓迎です。」 ___そして、二人の手が重なった。 こうして始まった二人の物語、これは奇妙な世界で交差した、不可解にして、奇怪な二人の歩みを記した出会いの物語。 はてさて、この先の二人の旅路はどうなる事やら、ここは一つ暴力にでも訴えかけてみましょうかね? ___なんてね…♪ [完。]