Nine SinsーLust 【色欲生産】 欲に駆られて性を出す。 欲に溺れて性を吐く。 マスかき、無駄打ち、自家発電。 淫行、乱交、爛れて淫れて。 歪み捻れた三千世界。 真っ直ぐな愛は何処にも無い。 ────────────────────── “ロメル!” 目の前に現れたロメルを見て、あなたは思わず駆け出してしまう。酷い目に遭わされていたと思っていただけに、こうして彼女の方から姿を現した為に驚きつつも、彼女の名を呼んだその声には確かな喜びと心配の両方が混ざり合っている。 「は、はい……ロメルですが、その……どうしてここに?」 一方ロメルは完全に理解が追い付いていないようで顔の表情こそ変化は乏しいが、彼女の美しい瞳は右へ左へと困惑した動きを見せる。 それは些細なことであっても、初めて出会った時とは比べ物にならない程に感情を露わにするロメルにあなたは少し顔を綻ばせつつも怪我が無いかを確認する。 「怪我はありませんので、ご心配なく。それよりも、どうしてここに? そもそも、ここはどのような施設なのでしょうか?」 あなたを落ち着かせようと手で制すロメル。彼女が他者に心配をかけまいと無理をする事をあなたは当然知っており、それ故に一層心配してしまう。 だが変な所で頑固なのがロメルだ。 心配は尽きないが、まずは彼女にここが“白面という韋編悪党によって造られた九罪の箱庭という施設”であることを伝える。 ついでに、その情報がロメルと同じ終戦乙女チームⅠのセルリから教えられたこと。何よりも、ロメルを心配したトリヒによって自分がここに来たことも忘れない。 「そうでしたか……お二人も私を心配してくれてたのですね。教えていただきありがとうございます」ロメルは嬉しそうに口元を僅かに緩ませる。「して、九罪の箱庭とは如何なる施設なのでしょうか?」 ロメルに問われるもあなたはそれ以上の情報は知らず、申し訳ないとばかりに首を振る。 すると、突然ロメルは“まるで誰かと話している”ように「はい、はい」と小声で呟きながら頷く姿をあなたに見せる。 「……失礼しました。将軍と話しておりまして……トリヒと仲が良いならご存知のはずです。私たち終戦乙女は体内に宿魂と呼ばれる人の魂を宿していることを」 宿魂、終戦乙女達が宿す人の魂。この存在こそが、終戦乙女がワルキューレという同一個体(悪く言うなら金太郎飴)という枠組みから外れた存在であることの証左。 トリヒがパパと呼称している魂を、ロメルは将軍と呼んでいるようだ。どちらも、彼女達が宿魂へ強く信頼を置いていることに変わりない。 「将軍が言うには七つの大罪というモノがあるようです。傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲────人が生まれながらにして持つ罪だと……ですが二つ足りません」 “……虚飾と悲嘆”あなたはふと思い出した。七つの大罪の原点である枢要罪にその二つは記され、やがて今の七つの大罪に至るにあたって無くなった────否、含まれたのだ。 「なるほど、つまり九罪とは七つの大罪に元々あった虚飾と悲嘆を足した合計数ということでしょう」 ※「そうそう~賢いでちゅね~」※ 「罪の名を冠する施設……しかし、それを建設する意図がわかりません」ロメルは考え込む。 あなたも考えてみるが、如何せん白面なる韋編悪党と出会ったことが無い為に考える全ての予想に成否をつけるのは不可能。 ※「難しく考えすぎでちゅよ~バブちゃん♪ 単純な蒐集でしかないのに、バブちゃんたちはお利口さんでちゅね~」クスクス※ 「……人の罪であり、しかしそれは人が避けられぬ“背負うべき、向き合うべき感情”なのでしょうか」ロメルの声にはそれを羨むような色がある。 確かにロメルのいう事も一理ある。 七つの大罪、いやこの場合は九つの大罪。それらは確かに悪しき罪の根源であり欲望。だが例えば行き過ぎた羨望が嫉妬に変じたり、抑えられぬ怒りが憤怒に変わるように、これらは人の感情の奥底と深く結ばれているとも考えられる。 絶対的なる地位は人を傲慢にさせ── 己よりもより優れた才能が人を嫉妬に駆り立て── 耐えきれぬ激情が人を憤怒に燃え上がらせ── 楽しみを優先してしまうからこそ人は怠惰に染まり── 欲を追求して獲得する満足感が人を強欲にさせ── 飾ることで得る自己肯定感が人に虚飾を覚えさせ── 食の豊かさと美味が人に暴食を与え── 感情があるからこそ晴れぬ悲しみは人を悲嘆で包み── そして快楽を追求するが故に人は色欲に狂う── 命が生まれ、やがて終わるまで。 我々は確かにこれらの罪を背負い、そして必死に向き合っていかねばならない。 しかし、同時にそれらと触れ合うからこそ、人はそうした罪を負の感情、時には言葉巧みに言い換えて各々が折り合いをつけていく。 ※「あらあら哲学的でちゅね~。そんな些事すらも考えなきゃいけないなんて、大変でちゅね~。ママが慰めてあげまちょうか~」※ 「……あなた様、助けに来て頂いたのに申し訳ありません。ですが私はもっと知りたいです、九つの罪を、人の感情を、もっと知りたい」 瞳に確固たる意志を湛えてロメルは言う。 正直なところ、これに気づいた彼女がそう言うのは目に見えていた。 感情を知って己の感情を豊かにさせ、そして愛を知り強くなる。 ロメルはその目的で終戦乙女の任務を忘れ、各地を彷徨い歩き、そして“あなた”に出会って感情への理解と学びを少しずつ得ていった。 だが、果たしてこの場所でロメルが学べるものがあるのか定かではない。むしろ嫌にでも分かる吐き気を催す邪悪さを漂わせる九罪の箱庭が、ロメルへ悪い影響を与える可能性の方が高い。 ※「感情……愛……へぇ、愛? この区画でよりにもよって愛を語るのですか……」※ 「感情を知り、そして愛を知れるなら私は────」 ロメルが強く言いかけた、その時だ。 「愛を知りたいのねぇ! 良いでちゅよ~、ママがたっぷりと教えてあげまちゅね~」 豊かな黒髪を靡かせ、頭部に山羊の角を生やした女が柔和な笑みを浮かべながら“あなたとロメルの間に”まるでずっと居たかのような違和感のなさを携えて現れる。 女は(身構える)あなたとロメルへ交互に噎せ返りそうな色気を含んだ視線を向けた後、両手を大きく広げてから声高らかに歌い出す。 ♫この区画で愛情を口にするの? この区画なら激情を口にしなさい それこそが愛の手っ取り早い獲得方法! (女は衣服の裾を捲り上げ、そこから人と山羊の合わさった怪物が現れ口々に叫ぶ) 《色欲の主!》 《我らの母親!》 《黒き森の山羊様!》 (怪物の声に合わせて女は詰め寄る) ♫学びの時間よ 貴方は多感ね でも少し鈍感 その純情さその純粋さ それこそが□□を滾らせるの! 《Bow-Chicka-Wow-Wow!》 《Bow-Chicka-Wow-Wow!》 ♫《よく聞け!》 随分とお悩みのようね 口にするのはおセンチな言動 愛に悩む純情乙女 でもお悔やみ申すわね! 口にすれば良いのよ□□を! 《今時純情乙女は流行らない!》 ♫少女が夢見る法則はラブラブ? しょぼい夢じゃ愚息はブラブラよ! 愛情など捨て 愛欲こそ拾え じれったいは止めなさい 肢体を晒しなさ── 聞くに堪えない女の歌を、あなたは床を(タンと)強く蹴りつけて遮る。肉欲に振り切った卑猥な彼女の歌は、まるで耳穴から突っ込まれた手で脳をぐちゃぐちゃと触られる様な不快感と恐怖感を孕んでいたのだ。 「あらあら、アダルトな言葉に敏感な時期? それとも我慢できない暴発寸前? 本番前に盛大なフライングをしてもママは怒らないでちゅよ〜」 赤子をあやす様な声音の女は、しなをつくって妖艶な笑みを浮かべる。背筋をぞわりと舐めあげて、氷の様に冷たい指で胸をなぞる様な感覚のある笑み。 「さてと、それじゃあママと遊びまちょうね〜。ママの可愛いバブちゃん達も、みんなと遊びたいよ〜とワキュワキュしてまちゅから〜」 女は再度服を捲り上げ──そこから、不快感のある粘液を纏わせる数匹の怪物が(ズルズル)と這い出てくる。 「感情を学びたい健気なワルキューレちゃんの為に、ママが一肌脱いで一皮剥かせてあげまちゅね〜」 女──色欲の邪神“黒き森の羊母”は一摘みの嗜虐を含めた妖艶な笑みで、あなた達へ対峙する。 ※以下は戦闘勝利時、または戦闘が面倒な際にお読みください。 「あらあらまあまあ、強いでちゅね〜。ママのバフちゃん達を倒してしまうだなんて」 黒き森の羊母は地面に倒れる息絶えた怪物達に一切の憐憫も無い視線を向けながら、あなたとロメルへ拍手を送る。 だが、あなた達は決して警戒を緩めずに彼女を睨みつける。戦闘中も手出しを一切してこなかった彼女との二回戦が待っている、と思っていたがどうにも彼女は戦闘の意思が全く無い様子。 「ママと遊びたいだなんて、可愛いでちゅね。でも今日は我慢でちゅよ〜、ママとの熱い夜はこんな所よりも相応しい場所でやりまちょうね〜」 黒き森の羊母は悶える様な仕草と熱を帯びて濡れる瞳で、あなた達に秋波を送る。 「所で、そこのワルキューレちゃんはどう思ったかしら。色欲、人が最も逃れられぬ罪、繁殖活動という神秘的な行為という認識を持ちながら、ただの快楽に身を任せる背徳感」 「……繁殖活動が不要なワルキューレに“色欲”は理解し難いものだと思います」 「ふふ、真面目ちゃんは可愛いでちゅね。でも、肉体関係から始まる愛だってあるのよ。アレやコレやと言葉を脳内で絡ませるよりも、サッと脱いでパコっとヤっちゃう方がすぐに愛の形を知れるのにね~」 「私にその知識はありません。ですが、愛の形にも色々あることは学ばせていただきました」 嫌味でも皮肉でもないロメルの真っ直ぐな言葉に、黒き森の羊母は何やら愉快そうに口角を(キュッと)引き上げる。 「物は言いよう、モノも見ようという事かしらね。バブちゃんたちの成長にママは嬉しいでちゅうよ~ 「ほら、先へ進むといいでちゅよ。目的が明確であれば道は自ずと開けるもの────でも、行き着く先は断崖絶壁かもしれない事を心に刻んでおくんでちゅよ」 黒き森の羊母は(クスクスと)笑いながら、しなやかな動作で指をさす。彼女が指す方向には、次なる区画へと続いていると思わしき道があった。 “……よし、いこうかロメル” あなたがそう言うと、僅かに動揺したロメルはおずおずと尋ねる。「……一緒に来てくれるのですか?」 ロメルを心配してあなたは彼女へ付いて行くことに決めたが、当の本人は己の不甲斐なさを暗に示されたと感じ取ってしまったようだ。こうした場合のロメルに下手に気遣うと彼女の罪悪感を煽りかねない。 ある程度強引に、駄目だと言われればむしろやりたくなってしまうカリギュラ効果的な──俗っぽく言うなら悪ガキ精神──思考で押し通してしまうのが一番。 “旅は道連れ世は情け、袖振り合うも他生の縁だよ” 「……なるほど、それではよろしくお願いします」 柔らかく微笑んだロメルと共にあなたは次なる区画へと足早に進む。背後に纏わりつく────黒き森の羊母の視線から、あなたの身体は一刻も早く立ち去ろうとしていたからだ。