ログイン

《大きな空のお嫁さん》微笑みのチトニア

大きな海がありました 大きな海は いつも わくわくしていました くだらないことが面白くて 毎日が楽しくて もしも顔があったなら きっと笑っていました 大きな海は 計り知れない大きさでした 一番長いものさしを使っても 測り切れません 大きな海に比べたら どんなものも小さく見えました 大きな人 大きな船 大きなクジラ 大きな骨付き肉 大きな海に比べたら 小さなものでした 大きな海と大きさを比べられるものは 大きな空だけでした 大きな空だけは 大きな海と比べても小さく見えません そういう理由で 二人は友達でした 大きな空は 気分の移り変わりが激しい子でした 日の出の様に明るい時もあれば 真夜中の様に暗く落ち込んだり 悲しくて大雨の涙を流したり 怒りの嵐で大暴れしたり そういう子でしたから 皆から疎ましく思われていました 機嫌を悪くされても面倒なので あまり関わらない様にしていました 大きな空の相手をするのは 大きな海だけです 大きな空の機嫌に合わせて 大きな海も暴れたりしました 大きな海には そういう事が楽しくて仕方がないのでした ところで 大きな海の一番深い所 大きな海の底には 黄金の国があることが 古くから人々の間で知られていました 黄金の国には 本物の黄金で作られた宝物が沢山あって 誰かが 大きな海の底から引き揚げてくれる日を ずっと待っているという話でした なぜ 大きな海の底なんかに黄金の国があるのでしょうか? その理由を知っている黄金の国の人々も 既に大きな海の底で 魚やタコのごちそうとして 美味しく食べられてしまった後でした もう 黄金の国には誰もいないのです 黄金の国にある黄金の宝物を 皆が欲しがりました 何とかして黄金の宝物を手に入れたいと皆が思いました ある人は 大きな海に底にある宝物をくださいとお願いしました でも 大きな海は話を聞いてはくれません 大きな海には 人の話を聞くために必要な耳がありませんでした ある人は 大きな海の底を目指して潜りました でも 潜った人は誰一人として帰ってきませんでした 潜った人がどうなったのかは 誰にも分かりませんが きっと 大きな海に住む恐ろしい生き物にやられたのでしょう 黄金の宝物が大きな海の底にある限り 人々は諦めるしかなさそうです 諦めればよかったのに 人々は諦めませんでした 自分達の力ではどうにもならないので 大きな空に頼ろうとしました でも 大きな空は大きな海の友達ですから 普通にお願いしても断られるでしょう 人々は 精一杯の知恵をしぼって考えました 人々の中から特にかわいい人を選んで キレイにおめかししました 色じかけです かわいい人は大きな空に言いました 「好きです 結婚してください」 大きな空は困りました 大きな空に対して かわいい人はあまりにも若過ぎました 大きな空は言いました 「せめて 今のボクくらいの歳になってから 相談してくれませんか?」 かわいい人は悲しい顔になりました 「おいくつですか?」 大きな空は答えました 「46億歳です」 かわいい人はわんわんと泣きました 「そんなに長く待てません」 大きな空は更に困りました どんなに優しく慰めても かわいい人は泣き止んでくれません 仕方がないので 大きな空はかわいい人と 結婚を前提にお付き合いすることになりました 大きな空は かわいい人を雲の手の平に乗せて 世界中を散歩しました 雲の手の平から見渡す景色は ステキで不思議なものばかり かわいい人は夢中になって 黄金の宝物のことをスッカリ忘れてしまいました 実は 人々の企みは大きな空にバレていました 全てを見渡せる大きな空に隠し事ができるのは どこまでも深い大きな海だけです 大きな空は黄金の宝物に興味がありません そんなものよりも素晴らしいものが 世界中に沢山あることを知っています 大きな空は かわいい人に世界の美しさを教えてあげました 美しいものと出会う度に かわいい人は驚いたり 感動したり せわしなく目を真ん丸くしました 大きな空は嬉しくなりました なんで嬉しくなったのか 自分でもよく分かりません ただ かわいい人とずっと一緒にいたいと思いました 世界にはステキで不思議なものが数え切れないくらい 沢山 沢山 あります どこでも一緒でした 全てを見るまで 散歩は続くのです 大きな空は知りません 人の命はみじかいのです 大きな空は真っ暗でした 雲の手の平の上で かわいい人は しわしわのおばあちゃんになって 力なく 横になっていました まだ 散歩の途中なのに まだ 見せたいものが沢山あるのに 時間は 僅かにも残っていませんでした かわいい人は言いました 「どうか 穏やかでいてください 世界中のどんな景色よりも 優しいあなたが一番ステキです」 かわいい人は微笑みました どんなに老いても かわいい人は かわいい人でした 大きな空は言いました 「好きです 結婚してください」 かわいい人は応えませんでした ずっと微笑んだままでした そういうことがあって 大きな空は大きな海に会いに行きました あんなに気分の移り変わりの激しい子が 泣くことも怒ることもしないで 真っ青になって 大きな海に言いました 「今度 結婚式を行うことになりました」 実に嬉しそうに言いました 大きな海は わくわくしました 大きな海には耳がありませんが 大きな空が嬉しそうにしているので嬉しい話なのだと分かりました 「いとしい人と幸せになります どうか祝福してください」 大きな空は嬉しい気持ちが高まって もう空全体がひっくり返るかのように震えました その様子を見て 大きな海も激しく波立ちました 大きな海の底がひっくり返るほど 大きく 大きく 震えました 大きな海は 楽しくて仕方がないのでした その勢いに載せられて 大きな海の底にあった黄金の国は 空の方へと吐き出されました 大きな空を埋め尽くすかのように キラキラと 沢山の黄金の宝物が舞い上がりました 「ありがとう!」 大きな空は喜びました 大きな海も喜びました こうして 大きな空とかわいい人の結婚式は 盛大に執り行われました 真っ黒の夜は 大きなお婿さんのタキシード姿 黄金の宝物は 星となって散りばめられて かわいいお嫁さんは 優しく微笑んで お婿さんに寄り添う星座になりました 幸せな結婚式は 毎晩 いつまでも続くのでした めでたし めでたし