出会ったのは3年ぐらい前だった。 恐らくそこは豪邸だったのだろうと。ちゃんと豪邸だったということはつい最近知った。 ───────── 旅を始めて約半年の時。 修行だなんだと師匠へ書き残していたが、実際はそんな綺麗なものではない。 自分で自分に嘘をついて、それに親しい人を巻き込んで。何ともみっともない。あれだけ“ひとり”が怖かったのに、わざわざ自分から孤独に身を置きに行く。考えてみればなんともバカらしい。 しかし、始めてしまったことはもう事実としてそこに残ってしまっている。きっかけとしてはただ探し物をしたいだけだった。 えも言われぬ不安とモヤモヤに包まれたまま漠然と歩き続ける。そんな日々が続いていた。 ───────── ある日のこと。 明朝寝ぼけながら歩いていたら、いつの間にかかなり広い樹海に迷い込んでしまった。 広い樹海を彷徨っていると、何処かの比較的整備されている道に抜けた。結局は広い森の中の道なので近くにコレといった建造物は見当たらない。一向に車が通る気配はないし、人が住んでいる集落がありそうな気配もない。とりあえずここがどこなのかを知るために人に会いたい。道を辿れば人に会えるだろうか? ───────── 道を北西の方向に進んでゆく。 しかし進めば進むほどだんだんと“異常”を感じていた。微かな炭のにおい。進むにつれて濃く、大きく流れるウツロビ。どっと身体を締め付けられるような感じで気分はあまり良くない。 ただ足はとめない。 自分にとって大きな“何か”があると感じたから。くだらなくしょうもないただの興味本位で死地に足を踏み入れることになったとしても何の問題もない。今は“命”より“興味”の重さが勝っている。 ───────── しばらく進むと、いくつか建物が見えてきた。強そうな柵で仕切られた大きくて、それこそお金持ちの人達が住んでいたり、別荘として持っていそうな。しかし、人の気配はまったく無い。どこもかしこもウツロビに呑まれてしまっているよう。 ただ古い侵食域では無さそうで、比較的侵食されてからそこまで月日が経っているようなものは見られなかった。恐らく何ヶ月か前までは普通に人が暮らしていたのだろう。 ───────── 突然、ポンと侵食域が広がるというのはよくあることだ。そうなってしまうと、そこに居る逃げ遅れた人達は侵食でウツロビになって消えるかウツロになって化け物として彷徨うことになるか。 自分は耐性と術があるから生身で危険区域に入っても大丈夫だが一般的にはそれ専用の防護服を用意しなければならない。ウツロビが突然現れてしまうとそんなものを用意する暇もないのである程度の耐性をもつ者以外は全滅する。耐性を持っていたとしてもウツロビを中和できる訳では無いのでいずれは呑まれてしまう。それが災害の恐ろしいところ。 ───────── ひとつだけあきらかに様子がおかしい廃墟を見つけた。ウツロビがあり得ないほど溜まっている。この辺りの侵食域の核なのか。もしそうだとして、かつ突発的な災害だとしたのならここにいた人達はほとんど死んでしまったのだろう。貴金属の髪飾りやヒビの入った眼鏡、食器などの侵食に強い、または侵食が進んでも原型を保つ傾向にある物質でできたものが所々に投げ捨てられたように転がっているから、おおかたこの予想は間違っていないだろう。 ───────── この廃墟を囲うようにぐるっと塀が並んでいる。しかしこれがまた広い。落ちているものや朽ち欠けた看板をみてみると庭は訓練場だったり結構大きめな庭園になっていたりしたよう。少なくとも武芸を営む文化はあったみたいだ。 ───────── 舞い落ちてくる雪もここでは美しいだけにとどまらない。時には毒にもなり得る。 フワッと何かが頬を掠めて、過ぎていったかと振り向くと塀の上にソレは座っていた。 「フフッ。とっても時間がかかっちゃった。だいたい三日ってとこかしらね。」 ぱっと見た感じ黒い悪魔のような姿だ。 しかし、ソレをよく見ると色は真っ黒だし、ツノの形も違うが、顔立ちや髪型なんかは自分と瓜二つだった。 鎚を構えようとした瞬間、頭のてっぺんから足先まで全身にひどい痛みが走った。 そのまま意識は沈んでしまった。