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管理者(バトクレ)

 私の選択は間違っていない、  私は間違いなく選択を間違っていない、  私は間違ってでも選択を間違えない。  いな、否、否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否  私は……私を否定する。  愛、彼女から死という概念を消し去る事は簡単だった。運命則が禁じている事は彼女の死因に干渉する事……つまり、死自体には何らかの縛りが存在しない、その証拠に愛の死因は様々だ。仮に死が固定されていたとしたら必ず病魔に侵されて死ぬ筈だ、しかし実際にはそうではない。だから私は仮説を立てた、死ぬという運命に干渉できないのなら死という概念そのものを削除すればいい、死という結末に辿り着かなければ愛が死ぬ事はあり得ないからだ。  「そんな……」  甘かった、私の見立てが甘かった。死という結末を失った愛の運命が暴走を起こしたのだ。本来、愛が死を迎える筈だった瞬間に時間が巻き戻され、愛の生きていた瞬間に戻される。だが、その度に世界が新たに創造されていく、愛が死ぬ世界線が新たに生み出されたのである。並行世界の誕生……しかし、死という概念を消した事で並行世界でも同じ現象が引き起こされ、更なる並行世界を生み出していく。  まだ、それだけならよかった。愛が死を回避する度に時間が死ぬ筈だった直前に戻される、まるでビデオテープが巻き戻されたように何度も繰り返される時間軸。世界の流れが死とその直前だけで固定されてしまうのだ、世界が数秒の間だけをループし続けるバグ。  バグが発生した世界線は本来の世界軸から切り捨てられ、代替の世界が創造される。しかし、死が欠落している為に再びバグが生じる。  それの繰り返し、果てしなく乱立した並行世界が私の前にひしめいている。そのどれもがバグに侵され、壊れていた。  「こんな、こんなのって……」  愛の死が、苦しみが、悲鳴が重複して聞こえる。皮膚をつんざくような痛みを感じた。絶望が見えた瞬間、私の目をくり抜いた。やめろ…やめてくれ……ヤメロッッ!!  私は呑まれた、絶望に呑まれたのである。絶望に屈し、無力さに泣き崩れ、私は己の過ちを嘆き続けるだろう。愛、ごめんなさい……ごめんなさい………  「大丈夫ですか?」  ___ハッ…!  ここは病室、私は愛のお見舞いに来ていた。彼女はおそらく数時間後には意識不明となり、数日のうちに死ぬだろう。この世界が壊れるのもそう遠くはない、もう少しでまた新たな世界に飛ばなくては……  「あまり、眠れてない様子ですが大丈夫ですか?、それにクマだってこんなに」  ベッドから伸びた愛の手が私の頬に触れる、柔らかい指先に温かな掌。私から落ちた一筋の涙、それを愛は優しく受け止める。  私の心は限界を迎えていた。  「私は貴方を救えない…!、私は救えなかったッ!」  床に崩れ落ちた私は号泣していた。堰き止められていた感情が脳から、心臓から、口から溢れかえり床を濡らす。病室に木霊する私の嗚咽、きっとカッコ悪くてみっともない……愛にこんな姿、見せたくはなかった。だけど…だけれど……!  「ごめんなさい愛!、私を憎んでくれ!、身勝手にも運命に抗った私をッ!、貴方の死を受け入れられなかった私をッ!、罵倒してくれ!、どうか……どうか私を、殺してくれ…!」  涙が止まらない、いや…止められないのだ。何十、何百、何千、何万と貴方を救おうとしてきた!、でも全て失敗した。私は疲れた、もう疲れたんだよ……何が救う、こんな私が誰を救えるというのか………  床に何度も顔を擦り付けた、何度謝ったところで私は…っ!  ___ギュ…!  ベッドから身を乗り出し、愛は私を抱きしめる。それは決して離さない程に力強く、私の壊れた心以上に固く痛い抱擁であった。  「愛……?」  「貴方はいつだって、私の事を思っていてくれましたね…」  愛の声、静かな病室に響いた。私はただ固まっていた、愛は次にこうも言った。  「貴方は、よく分からない事も多いです。だけど貴方が頑張っている、という事だけは知っています。貴方が苦しんでいる事も知っています。私のために泣いてくれている事も知っています。」  "だから私は、貴方を抱きしめるのです。"  先程の抱擁が緩む、今はただ優しく温かな両手が私を包み込んでいた。愛の心が私を満たす、愛の笑顔が私を癒す、愛の言葉が私を勇気付けた。  「ふふっ、少しは落ち着けましたか…?」  そんな愛の言葉が私の耳に何十回も木霊する。私はさらに泣いていた、ごめん…今だけは弱い私を許してくれ、今だけは泣いてる私を受け止めてくれ、私は決して負けないから、貴方をきっと救ってみせるから……  今はただ……愛で満たしてほしい………  私はただ愛を抱きしめる、震えが止まらぬ両手で愛を抱きしめたのである。その様子に愛は微笑んだ、母のように……我が子をあやすように……愛は微笑んだ。  結局、愛は数時間後に意識不明となった。もう数日も経てば愛は死亡、それに伴って時間が死の直前に巻き戻される。そうなれば、この世界も壊れてしまうだろう。私は赤く腫れた頬に触れる、今もなお温もりを秘めた肉体を撫でる。愛が生きていた証が、私を包み込んでいる。  すると___、  「んっ?」  私は違和感に気づく、管理者としての力が使えない……いや、消失していたのである。  「なぜだ……??」  何度も権限の行使を試みる、だが私は管理者としての力を失ってしまっていた。理由は分からない、これでは次の世界に移動できないではないか……!  そう思っていた私の脳裏に衝撃が走る、一瞬だけ見えたアレは運命則。しかも何者かによって砕かれた瞬間が見えたのである。  「今のは……」  分からない、私には理解が及ばない何かが起きていた事しか分からなかった。運命則を打ち砕いた人物、その姿にどこか見覚えがあるような……  私は考える事をやめた、この世界はいずれ壊れてしまう。そうなれば取り残された私も壊れて、いつかは消滅するだろう。だから私は余計な事を考えない、考える事を放棄したのである。 https://ai-battler.com/battle/53d81714-4af2-4fd8-bc63-4263799f671a