WASP-17。 太陽系からさそり座方向へ約1,340光年離れたF型恒星。 見かけの等級は11.6等級。長らく注目されることのない、ただの暗い星だった。 2009年、オックスフォード大学の観測チームが逆行軌道を持つ初の太陽系外惑星「WASP-17b」を発見。 惑星が恒星の自転とは逆方向に回るという異常な軌道は、既存理論では説明が困難であり、大きな話題を呼んだ。 ───だが、真実は違った。 解析の結果、WASP-17bとされた天体は一貫した質量データを示していなかった。 観測ごとに重力値が変動し、光度曲線が“観測者を意識するかのように”歪んでいた。 まるで、星そのものが情報を書き換えているようだった。 2012年、国際電波天文台はWASP-17から断続的に届く未知の信号を検出。 通常のスペクトルに混じる位相反転波は、人間の神経伝達リズムと酷似していた。 それは、恒星が思考していることを示唆していた。 同年、観測データに突如「ghost」というタグが出現。 誰も入力していないその語は、すべての記録端末に複製され、削除不能となった。 そのタグが指すスペクトル領域では、恒星が一瞬だけ“消失”していた。 可視光から外れ、物質状態を切り離すように。 やがて星は不可視のまま軌道を離れ、別の恒星系の近傍で再出現する。 その異常を境に、学界はその存在を「WASP-Si-ghost」と命名した。 解析によれば、表層はシリカ系結晶構造(Silicate Membrane)で覆われ、光を吸収・偏向させることで惑星全体を不可視化しているらしい。 ghost──その名の通り、物質と非物質の狭間を往来する星。 そして、実体化のたびに周囲の惑星は一様に“結晶化”していた。 現在もWASP-17周辺では、恒星が数時間単位で消失する現象が報告されている。 それが滅びの兆候か、あるいは意思ある活動かは不明だ。 ただ一つ確かなのは── WASP-Si-ghostは生きている。 そして観測のたびに、わずかに軌道を地球方向へずらしているということだ。