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設定:人間が嫌い、人間に失望している。世界を壊そうとは思わない

「お姉ちゃん凄いじゃん!まさか森で伝説の剣を抜いてくるなんて!」 「そうでしょ!?私もまさか抜けるとは思ってなかったんだけど…チャレンジしたら抜けちゃったんだよね!」 「それ魔王を倒した英雄でも抜けなかったって有名だったのに…!本当に凄いよ!」 「えっへへ〜。そんなに褒めても何も出ないよ?」 私が16歳、高校1年生の頃だった。 私は偶然、いや、必然かも知れないが、そこはどうでもいい。 伝説の剣を抜いてしまった。 4mくらいある大剣を軽々と引き抜き、その神々しい光を森全体に轟かせた時は感動したし嬉しくなった。 それでも、この出来事が私をここまで変えるなんて思っても居なかった。 私が伝説の剣を抜いた事を知ったギルド、基国王は私を勇者として雇った。 当時の私は勇者と言われ浮かれて喜んで了承した。 ここが、人生の分岐点だったかも知れない。 それから私は高校に行けなくなった。 理由は単純、国王からの命令が劇的に多く、魔物を狩り尽くさなくてはいけなくなったからだ。 任務で疲弊した身体を癒そうとしても次々と任務、任務。 いつしか人との関わり方も、ご飯の味を堪能する方法も、剣の手入れ方法だって忘れていった。 無心に命令に従い、任務を遂行するようになった。 もっと… 「疲れた…」 もっと… 「休みたい…」 もっと… 「もう嫌だ…」 もっと… 「……もう、疲れたんだ」 大型魔物を狩って、解体班の解体を見守って居た時だった。 「ルルさん、魔物の食道から何かでてきました。巻物…?書物のようですが、ルルさん直したり解読できますか?」 「…やってみる」 私はベトベトなそれを素手で触り魔法を発動させる 「…まぁ解読はできた」 「まじすか!?なんて内容だったんですか!?」 「…グロくて君に話す事はとてもできない。」 「そうすか…ルルさんは大丈夫なんすか?」 「…魔物殺しまくって…慣れてる…から」 グロいと言うのは嘘だ。 内容は運の操り方と言う実に興味深い物だった。 どうやら運を操る為には神に勝てばいいらしい …神?そんな物、存在するわけ無いだろ。嘘もいい加減にしろ。 しかし、存在したのだ、神は。 神と言っても魔神と言う種族だった。 魔神族は神の種族の内の一種族であり最弱の神種族らしい。 私はその神との戦いに苦戦しつつも、勝利を手に掴んだ。 「はぁ…はぁ…これで…」 私は神に勝った。 「これで…運を克服できる」 私は、神の肉を喰らった。 最早、味など感じることは無かった。 感触はブヨブヨとした肉の中にあるきめ細かい糸みたいな物で最悪だった。 味は感じなくても、感触のみで吐き気を催す物だったが、私は魔神族の片腕を全て喰らい尽くした。 「げふっ…はぁ…食い切った…これで不運を操る力を…!?」 心臓の鼓動がジグリング程に速まるのを感じた。 「誰か…苦し…い…たす……け……」 地面に倒れた私は手を伸ばすが、いつの間にか意識を失ってしまう。 「─はっ!」 ドクンと心臓の鼓動で私は目覚めた。 身体に、特に耳に違和感を感じる。 触ってみる、触ってみると、確実に分かるほど耳が尖り、長くなっていた。 「私の身体…どうなって居るんだ…?」 神の血が溜まった血溜まりを覗くと、異様に長くなった耳と、光を失った目がそこにはあった。 それからも私は国王の命令に従い続けた 狩って… 「……」 狩って… 「あぁ…」 狩って…! 「っ…!」 狩って! 「なんで…!」 「なんで…!何も罪を犯していない魔物(こいつら)が人間のエゴで命を落とさなければならない!」 「…?どうしたんすか?ルルさん、最近ちょっと変じゃないすか?」 「あっ…そ…そうか?…普通…だと思うが」 「そうっすか?戦ってる間も何処か踏みとどまって時々ピンチになってません?」 「…なって無い」 「…まぁ、体調には気を付けてください。」 「…あぁ。」 苦しい…もう、解放されたい いや、違う… 私が解放を…『救済』をするんだ… 哀れな人間共を…この世から解放するんだ…! あぁ、私って…私って… なんて優しいんだろう! 「─って事なんで、国王、この世とさよならの覚悟をしてください」 「なっ…何を言っておる!次の任務だ!勇者ルルよ!ふざけてる暇など無い!」 「…国王、分が悪くなるといつも私を『勇者』っておだててましたよね。さようなら」 国王殿下が座っていた椅子は、真っ二つに割れた。 「お姉ちゃん!お帰り!そして久しぶり!六ヶ月ぶりじゃない?会いたかったよ〜!」 「あぁ…ララ…ただいま。ちょっと、散歩しない?」 「うん!良いよ!お姉ちゃんとの散歩なんて幼少期以来だね!」 「なぁ…ララ、昔この小さな崖で私が落ちて泣いて…お前に慰めて貰ったよな。」 「そんな事もあったね!懐かしいなぁ…」 …ララ、お前の事が好きだから私はお前を『救済』しようと思ったんだ。 お前をこの醜い人間の群れから…出すために… 「ララ、こっち向いてくれ」 「うん!いいよぉ?」 「─きゃっ、どうしたの?お姉ちゃん、いきなりハグなんて…?」 私は伝説の剣で最愛の妹を刺した。 「……」 これで、良かったのだろうか…? 私は伝説の剣を最愛の妹から抜くと、ララは崖下に落ちた。 「…ララ」 私は気がついた 「…ララ、どうして自分を殺した相手をそんな慈愛…愛の籠もった目で見つめる…?」 「辞めてくれ…そんな目で…見ないでくれ!」 「お姉ちゃん…何か…合ったんだよね…辛いことが…」 「辞めろ!それ以上喋るな…それ以上見つめるな!」 「ごめんね…私が気づけなくて…ごめん…」 「辞めて…辞めて…!微笑むな…死に相対してる筈だろ…?」 「なんでそんな状況で…他人の心配ができる!」 「…私は、お姉ちゃんの行動が正しいって…信じてるよ…」 「黙れ…!黙れ…!私は正しくなんか…正しくなんか……正しくなんか無いことなんて分かっているのに…どうして私は…最愛の妹を…」 「っ!今治療してやる…ララ!」 「よし…治った…起きろ…起きてくれ…ララ…」 ララは、目覚める事は無かった 私は最愛の妹を殺し、完全に狂ってしまった。 救済 「ごめんなさい…ごめんなさい…」 救済 「っ…」 救済 「……」 救済 「良かったな。ここで救済してもらえて」 そうして私はいつしか人間共から『魔王』と呼ばれるようになった