ホワイトストーン神獣王国の極秘組織、秘密警察WWS(ダブルス)の警察官。 警法庁長官のラテリアから目を掛けられており、彼譲りの計算高い執拗な攻撃と確実に仕留めるための粘着質な作戦が特徴で、中でもその個人スキル“正却”は五神獣の面々からしても国を傾ける程のものであるらしい。 とても厳粛な性格で、普段は違法滞在者の捜索や国王庁の警護を行っており、要請があった時のみWWSとして強行捜査に移行する。 「彼を例えるなら死神だ。吹雪よりも冷たく静かに、一瞬で目的を消滅させる。白い死神だよ。」 ―警法庁長官 ラテリア・F・カプチ 該当:概念系能力 - 消滅 個人スキル “正却”(せいきゃく) 手に纏う青紫色の球に触れたものを“消滅”させる能力。消滅というのは、文字通りに消して滅することであり、この能力の餌食になったものはこの球に触れたところからカスも残らずに消え去ってしまう。 球は手から離すことはできず、努力次第で形や大きさを変えることもできない。また、自分自身には何の影響もない。 そして、この個人スキルのパワーは0.8である。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 概念系特別設置要項 実用に向けて 正却は劣化版ガオンと言える。削り取るとか細切れにするとかではなく、“消す”能力ではあるが、当たらなければ意味がない上に、パワーが他の個人スキルよりも低いという特徴を持つので簡単に他の個人スキルに打ち消されてしまう。 正却の消し去る力は、例えば…指が固くなってちょっと伸びるだけの能力に負ける。実際にどういうシステムで負けるのか説明しよう。 個人スキルのパワーは優先度と言い換えても良いだろう。だから、普通は対等な1:1だ。どちらの能力も同時に実現されるように動く。時止めだって、時を止めている間に相手の攻撃系の個人スキルにうっかり触れてしまえばしっかり被弾するだろう。(これはよその子にはもちろん強制しない。)しかし、無効化する能力などの相手の能力を否定する能力は“実現させない”ことを実現するので、どちらも実現する方向には動かないことに留意したい。さて、正却VS指固くなって伸びる(以下、スターフィンガー)の場合だが、この2つの能力を同時に放った場合、パワーすなわち優先度は0.8:1。スターフィンガーの方が能力として優先される。ということは、正却の消し去る能力よりもスターフィンガーの指を固くして伸ばす能力が優先するので、スターフィンガー使用者の指は正却の消し去る力を受けず、正却使用者の手をそのまま貫通することになる。 つまり、正却は基本的に個人スキルに対して何も出来ないのだ。魔法や特性を瞬殺できるものの、個人スキルに対しては使用者である特殊亜人のフィジカルと技量で躱すか迂回するかしかない。一見、正却はズルに見える能力だが、実際防ぎようのある能力なのである。 発現経緯 アニキトは元々人間であった。 それは確かなことだが、トカゲの頭では記憶力が持たないのか、人間時代の記憶はもう殆ど残っていない。病院で目覚めて、戦争で負傷したと聞いたが、胸の心臓の辺りに包帯が巻かれていた。 戦地で胸を負傷して助かるものなのか。そう疑問に思ったが、もう質問する気力は無機質なベッドのシルクに溶け落ちていった。体は軽いのに、何か大切なものを盗られたようなずっしりとした心持ちだった。 憂鬱な目覚め、簡単すぎるリハビリ、思い出せない戦争風景。退屈な福音書を聞かされて、やがて落ちる瞼。 また憂鬱な目覚め、亜人の力には簡単すぎるリハビリ、靄が立ち込めて行く自らの過去。覚えてしまった福音書を聞かされて、やがて落ちる瞼。 慣れてきた目覚め、簡単に熟せるリハビリ、どうでも良い人間の自分。福音書をなぞるように口に出しながら、有り余る活力に蓋をする瞼。 ―慣れた。 やがて、アニキトは新しい人生に慣れた。壁でも天井でも関係なく移動できるトカゲの体は便利だし、日に日に鮮明になって行く感覚はとても斬新で楽しくなってきた。新しい体ならなんでも出来そうな気分だ。 そして見事退院が認められ、アニキトに“獣”としての初めての仕事が割り当てられた。それは秘密警察WWS。まずは法律の勉強からしなくてはならない。まったく面倒なものだ、とアニキトは感じたが、実際やってみるとスラスラ頭に入ってきた。まるで一度読んだことのある本をもう一度読み返すみたいに、飛ばし飛ばしでも十分合格ラインに到達できた。 勉強は簡単だし、体力は有り余っているし、やりたいことが簡単に叶う。アニキトはこの王国をとても気に入っていたが、ふと、“今から全部壊したら間に合うんじゃないのか”と思うことがある。なぜそんなことを思うのかは分からない。自分はこの新たな人生を楽しんでいて、信頼できる上官にも恵まれて、何かあっても福音書の通りの神がこの国を護ってくれているのだ。 そんなことを思う必要はないはずだ。 なぜ、“間に合う”なんて思うのか。 その時、アニキトは自らの個人スキルを思い出した。名前だけはどうしても思い出せなかったが、触れたものをゴチャゴチャに縮めて、この球の中で跡形もなく消し去る力だ。 その禍々しい紫色の虚空を握ると同時に、過去が溢れ出て来る。 この力をアニキトは嫌っていた。野蛮すぎて好きじゃあなかった。しかし、この力に助けられもした。そうだ。妹だ。妹がいた。いいや、それは自分の妹ではない。クライアントの妹だ。確か自分は弁護士をしていた。そして私欲でクライアントの事件を再捜査していた。この消し去る力を悪用すらして、脅して、無理矢理再捜査していた。 その時にクライアントの妹が例の事件の、クライアントが犯人とされた事件と同一犯とされる事件の被害者となった。過去の自分はクライアントを守れなかった。そして、それからの日々はうやむやだ。生きているのか死んでいるのか分からないような憂鬱な日が続いている。 「あぁそうだ。俺、死んだんだ。」 「自殺したんだ。」 そして、床に倒れた自分を見下ろすクライアントの悲しそうな顔が、思い出した記憶の最後だった。 試しに近くの鉛筆を消してみると、記憶の中とは違ってゴチャゴチャに縮こまりもせず、一瞬で、まるで最初から居なかったように鉛筆は消え去った。 この瞬間、アニキトは過去を捨てることにした。この体なら分かる。今の五感ならはっきりと自覚している。 今この覚醒途上にあるスキルを、正却と名付けよう。 自分は今、このスキルのように成長しているのだ。あんな忌々しい過去など、成長する前のゴミ。間違った跡など忘却の彼方に滅して然るべきである。 元々間違っていたのだから、今更何にもならない。 正しくなければ価値は無い。弁護士でも、秘密警察でも、アニキトはアニキト。それは変わらないのだ。