ゴア表現ありまち ______________ 私は怠け者だ。だから幼い頃から親の言う事に全てを委ねて流されるままに今までの人生を過ごしてきた。多分、この世で1番愚かな怠け方だ。 「晴、オマエの賢い頭ならこの高校でも受かるんじゃないか?この高校で運動部に入って……」 「……」 無言で頷いて、父や母の言う通りに人生をなぞっていく。それが私、セイだ。 _____________ 私はずっと自分から親の思い通りに動く人形だ。きっと、これからも。言いなりに、言いなりに、言いなりに、言いなりに。親の人形でいれば、きっと私は何も考えなくて済む。 _____________ 「オマエは天才だ、晴。そんなに頭も良くて多才なんだ。医者でも目指したらどうだ?」 「そうね、うちの子なら今世紀最強の医者になれるかもねぇ」 「……うん…」 いつからだろうか、親の言いなりになることに少しばかりの抵抗感を覚えたのは。でもそんなことは関係ない。親の言いなりになっていれば、少なくとも辛い思いはしなくて済むはずだ。 _____________ 私は医者になれた。治療もほぼ確実に完遂して、実質的に無料で働くブラックジャックみたいになった。院内でのあだ名も白いブラックジャックだし。 ある日、同僚からこんな話をされた。 「晴ちゃんって、自分を表に出したことないっぽいよね。ほぼ常に無表情だしさ?」 「………」 「ごめん!なんかアレな話だったかな!?でもなんだか心配でさ………ずっと何か塞ぎ込んでるみたいで………晴ちゃんの悲しそうな顔初めて見たぁ………」 『自分を表に出したことがない』…ずっと自分は言いなりで居ることが一番いいと思い込んでいた。私の心の中に自我が芽生えていたとしたら?いつの間にか怠け者ではなくなっていて、怠け者を演じるのを辞める機会がどこにも無くなってしまっているとしたら…… 怠け者という精神的な病気を患った患者の私に私がトドメを刺して、内に居る本当の怠け者を殺し続けていたとしたら…… _____________ 「はあ!?医者を辞めたぁ!?何を考えているんだ!!晴!!!」 「私なんかがメスを握ってもトドメ刺してるだけって気づいちゃったからさぁ…私がオペった子全員もれなく死んでるんだよ?普通辞めるよねぇ…?」 「晴はそんな子じゃないでしょ!?あなたはどんな障害があっても前に進む子だった!」 「過去に妄想を上乗せした話をしないでよ…本当に面倒くさいなぁ……あんたらの思うがままに暮らすのはもうやめにするよ、期待が重くのしかかってツラいだけだからさ。」 「あんたらって…親をあんた呼びなんてしていい訳ッ 「はいはい…面倒くさい面倒くさい…ついでに縁も切るし家も出るから、二度と電話もしてこないでよね……」 ______________ 「はぁ…もうちょい良い子ぶって定期的な仕送りでも貰えばよかったかなぁ……見事に職に就く気も失せてなんもできない………」 「唯一の手持ちはスマホだけ…親が医者になった記念とか言って渡してきたものだけ………」 結局私は親の力をずっと借りているんだな…なんて思うのはやめにした。縁も切って、もう無関係な人なんだから、ボランティアや寄付で貰ったと思おう。 少し臭い橋の下、晴は野ざらしでSNSを見漁っていた。医者時代の給料でまだ生きながらえているのが救いだ。 「……なにこれ?超能力者のテロ……?手の込んだフェイク動画だなぁ……」 晴はその動画が偽物だと信じていた。本物だとしたら、いつどこで命が危険に晒されるかわからない世界になってしまうから。こんな野ざらしで過ごしていたら、いつ巻き添えで殺されるかなんてわからない世界になってしまうから。 だけど、運命は常に不幸な者を狙いに行く。 突如として晴は壁に打ち付けられ、スマホを近くの川に落とす。そのまま壁で磔にされ、身動きひとつ取れなくなってしまった。 「う゛ッ………!?なに……こ……れ……?」 「おお〜!これ凄いッすね姉御ッす!」 「ふふ、そうだろう?この「超越」の力は素晴らしい!私たち選ばれし者達にしか扱えない神の力!!」 「か゛…み゛……?」 「姉御が何言ってんのか全然理解出来ねえけど、とりあえず試し打ちでこのやせ細ってる女をボコボコにしてやろうじゃんっッす!」 (意味がわかんない……私の人生はこんな所で、こんなふざけた語尾してるヤンキーと私より体つきの良いエロい女に殺されて終わるの…?) ____そんなの嫌だ。 せっかく自由になったのに、こんな所で死ぬなんてゴメンだ。 「う゛ッ……!!う゛う゛ぅ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛!!!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」 首を絞められながら、全力で叫ぶ。誰かが助けに来る事を願って、全力で叫ぶ。結局自分の人生は他力本願なんだって思いながら、そんな気持ちも全て吐き出すように叫び続ける。 「チッ、早くそいつを絞め殺せ!」 「わかりましたよ姉御ッす!」 ギリギリと首元で音を立て、何も見えないのに晴を締め付ける手形がくっきりと映る。 「ァ゛……ッ!!!ガ……ァ……ッ………」 人間とは思えない音を絞り出し、晴の口から出ていた音が途絶える。それと比例するように目もゆっくりと閉じられていく。 死の感覚が近づいてくると共に、晴の体を恐怖が包む。地面についてない足がガクガクと震え、股から黄色い液体を垂れ流す。滝のように涙を流している目はほぼ白目を剥き、顔は赤くなる。全身がビクビクと震えて、口からは涎も溢れている。 「うわっ!汚ねえッす!」 「人間なんて死ぬ時はこんな物よ。まぁ…医者で、それも良いとこのお嬢様がこんな所で浮浪者になって、こんな死に様なんて無様にも程があるけれど…ふふ。」 晴を含めた全員が晴の死を感じ取る中、晴はその感じ取った死に抗い、脳内で対抗策をフル回転させていた。だが、こんな化け物相手では何も思い浮かばない。スマホで少しやっていたゲームのように2次元なら、ペラペラになってこんな拘束から抜け出せたのに。 そんな非現実的な思考を巡らせ続け、朦朧としていく意識の中で、唯一まだ抗おうと動かしていた指や足の感覚がおかしくなっていることに気がつく。まるで自分の指や足が線のように、細くなっているような感覚がある。 「あら…?もしかしてその子………」 この感覚を全身に回せたりしたら、何かが起こる気がした。死にゆくこの時間にできる最後の足掻きが成功したら、自分の体がどうなるのか晴にはわからなかった。それでも助かるために謎の感覚に身体を委ねた。 (結局委ねてばっかり、昔の怠け者と同じじゃんか…) 脳内で悪態をつき、全身にその感覚が回っていく。 その感覚が全身に回った瞬間、ヤンキーの男の見えない手から外れて地面へ落下した。 「アぁっ!!はぁ……はぁ……ゲホッ………オエェッ…………」 「なっ……このクソガキがぁあッす!!!」 「『待て』」 「はぁ!?待つわけないでし ヤンキーが女の命令に逆らい晴に追撃しようとするとヤンキーの体が突如として消え、ヤンキーが居た場所に血溜まりができていた。 「……は?」 線になった晴はその光景を目の当たりにし、目の前に転がってきた眼球を女が踏みつけて潰し、晴に笑顔を見せる。 「あんた、良い才能があるようね。どう?私の仲間にならない?丁度仲間が1人減ってしまったところだし………」 「嫌だね……面倒くさいし。」 晴は今まで自分を苦しめてきた「面倒くさい」を盾にして自己防衛をする。きっとこの女の仲間になればあのヤンキーのように言いなりになるのだろう。そして逆らえば血溜まりという、常に命を握られている生活を送ることになる。 「なら…死んでもらおうかしら。」 女がどこから取り出したのかもわからない刀を手に持つ。 「まだ死ぬ気はないかな………」 線になったヒョロヒョロの体でファイティングポーズを取る晴。かなり不格好だが、女は力の全容が見えるまで警戒を怠らない。晴とは真逆の性格だ。 「あんた…動かないのね。怯えて動けない?なら私から行かせてもらうわよ!」 意外と早く動いた。やっぱり性格が似ていたのかな? 女は刀を振りかぶり、晴を両断しようとする。しかし刀は晴をすり抜け、逆に刀が完全に切れる。 「…は?」 女は理解できないという様子で切れた刀を見つめる。そんな隙だらけの女を晴は逃さなかった。 「っでええぇええええやああ!!!!」 ちょっと情けない掛け声と共に女の腹に手を突っ込み、その細い体が女の胸を貫き、心臓も一緒に刺す。そしてその手を勢いよく引っこ抜き、女は胸から大量に血を噴き出す。 「……な…………るほど……ね………」 女は意味深な言葉を遺して息絶えていく。 咄嗟の判断で人を刺し殺した自分の倫理観を疑いながらも、生き延びたことにありがたく思う晴。 ____________ 「どうやって元の体に戻るんだろう……」 晴はバカみたいに細い体で胡座をかいて思考を続ける。 「そういえば私が叫んだ時、見るからに焦ってた……ならああいう化け物に対抗できる組織とかあるって事かな……」 スマホはなくなってしまったので、殺した相手からスマホを奪い取って調べる。 「うーん、公安にそういう組織があるっていう噂しかないなぁ…………どうしたものか……」 ふと思いつく晴。明らかにあの「超越」がどうこう言っていた女と同じような力の影響を受けているんだから、「なんか体が線になっちゃった」とか言えば何かしらの措置をしてくれるかも。 ___________ 「ってワケなんですけど……どうにかなったりします……?」 「〜〜ッwwwwいやwwwwあるにはwwwあるんwwwだけどさwwwwッはははww待ってwwwwお腹痛いwwwヤバいwwwwww」 公安の人間を見かけたので話しかけると、めちゃくちゃに爆笑されながら「戻す方法があるにはある」と言われ、少し複雑な気分になった。私の体ってそんなに面白いことになってるの? 「ひ〜ッwwごめんごめんwww……ふぅ〜ッ………ふふっw……うちの部署ならそういうの抱えてる人多いから…w一緒に働いてたりしたら治し方とか力の扱い方も見について行くと思うよ…………w」 「ところどころ笑ってるのは何…」 「いや君の体めちゃくちゃ面白いんだよ……w……まあこっちで試験とか飛ばすようゴネてみるから、後は俺に任せといてくれ……w」 _____________ 数年後… 「そういえばハルちゃんさ、本名ってハルじゃなくてセイなんだよね?」 「ん〜……親と縁切ってるし、その時セイって名前は捨てたと思ってたんだけどね…ちゃんと改名しないとダメかなぁ……」 「そういうとこ面倒くさがるよねハルちゃん…」 「実際ダルいんだから仕方なくない…?」 「あ、そういえばあれやってよ、めちゃくちゃ細くなるやつ」 「まだあれ好きなのね…」 「うんあれまだ面白……ブッハwwwマジでエグいwwwヤバすぎwww待ってwww死ぬwww死ぬwwwww」 「自分でも見て見たけどそんな面白いかなぁ……」 「そのフォーム強くて面白いとかガチで最強でしょwwwww」 「笑われると調子狂うから実戦で全然使ってないんだけどねぇ……」 「使った方がいいってww笑顔が絶えない戦闘がwwww増えるよwwwwwww」 「まったくもう……」 今日も対異能行動部二課は元気に治安維持活動中、そしてサボるために同僚募集中! ___________ 突発、ハルちゃんのQ&Aコーナー‼️ Q1.たまに『次元超え』を失敗して紐みたいなクソ面白い姿になるのはなんで? A.次元超えの本来の姿はあの1次元の姿 Q2.なんで『半超越』なの? A.自分は人間の姿になれるから中途半端で半超越。先輩たちは体のどっかが異形のまま。二課の先輩も右手がドリルだよ Q3.超越なんて名乗ってる化け物は消えろ A.次元超えで消えますね Q4.次元超えってなんで息が詰まるんですか? A.別の次元には空気がないから仕方ない Q5.ぶっちゃけ同僚に好きな人いる? A.恋愛に興味なし Q6.あなたの先輩です、もうちょっとファン獲得のためにSNSや文面で感情出してください A.インターネットに差別的な家庭だったので不可能。組織の意向を無視して内部事情オープンにするのやめてください。 Q7.サボり魔が加速してほぼ仕事に出ていないって話は本当ですか? A.自分がいないとダメな仕事の時だけは必ず行くようにしてる Q8.対異能行動部でいちばん強いのは? A.自分 Q9.ファンです、あなたに命を救われました A.その命を大事にして、絶対に自分と同じ職場に来ようなんて考えないで。それだけ守ってくれればグッズなりファンクラブなり作ってくれてもいいよ。 Q10.好きな食べ物は?理由もお願いします。 A.ガム。やることがない時に無心で噛んでいられるから。 Q11.二課の青さんから『小便女』と呼ばれているのを見ました。あれは何でそう呼ばれていたんですか? A.なんでだろうね。ヒントは初対面の自分。 Q12.対異能行動部の知名度をどう思ってる? A.妥当だと思ってる。ド派手にドンパチやってるんだからそりゃあ名が知れ渡るだろうなって感じ。