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管理者

 世界の果ての塔、通称"壊れた管理塔"  貴方は塔へと踏み入った。  破壊された形跡がある門をくぐり抜け、管理塔内部で鳴り響く警告ランプの不協和音を無視して進んでいくと視界が少し開けた。床に散乱した無数の資料の束、それから首を捻じ切られた白骨死体が一つだけ。  骨に触れてみる。  「……ッ!?」  指先からパラパラと落ちる骨粒、持つと原型を留められずに崩れ落ちていく。  相当な年月が経っている、実感させられた。  しかし、骨の一部に鉄の破片?が見られるのが気になった。  「これは……?」  はっ、と来た道を振り返る。  恐らくは塔の入口、この鉄片は破壊された門の一部だろう。  そう、確信に近い納得を得た私は上を見上げる。塔の途中で崩落した螺旋階段を発見した、昔はこの床まで伸びていただろう階段を観察してみる。  経年劣化で脆くはあるが、瓦礫と壁の小さな隙間を使えば行けそうだ。  「やるしかないか……」  時間は有り余る程ある、私は手短な瓦礫を掴んだ。  汗が頬を伝って胸元に吸い込まれていく、また一滴、また一滴と……。  何時間、いや何日が経ったのだろうか。重機が必要になる程の作業を人の身のみで行なっている、狂気の沙汰である。  いや、既に私は狂っているのかもしれない。そんな事を考えながらも私の作業を進める手は止まらない。  どうにか、階段に辿り着く事ができた。私は自分自身を褒め称える、良い子 良い子、ふふっ。  汗の滲んだシャツで顔を拭く、ある疑問が私の脳裏を支配する。  ここ一ヶ月?近く食事や水分補給は愚か、排泄さえ必要としていない、しかし汗や唾液は何事もなかったかのように流れ続けている。妙だ、奇妙な現象を体験している自分自身に気づく。  いや、むしろ何事も無かったのかも?  これが夢ならば説明が付く、目の前の現象は実際に起きているように見えて現実には起きていない、それならば説明が付いた……筈だ。  しかし、私は溜息を漏らした。こういった事態に陥った場合は私の経験則上だと実際に起きている、という事がほとんどだからである。  私は冷静だ、落ち着け……。  壁にもたれかかる私の脚は震えていた、経験が多いというだけで私は慣れている訳でも専門家である訳でもない。  自分自身を抱きしめた、怖い……。  震える、震えている、震えが止まらない。  私は冷静さを欠いていた、大丈夫。この場合の解決方法は私の経験上は一つに絞られる。  "首謀者を倒す"  きっと管理者だ、そうに違いない。私には確信とも言える、直観が働いていた。だから私は上を目指すのだ、管理者に会う為に……。  次の階に着いたのだろうか?、すごく長い、果てしない廊下が続いている。暗いのも相まって少し怖い、だけど私の足取りは軽い、どうしてだ?、何かこう、酷く怯えたりする場面である。まるで私が私ではない、そんな気さえしてきた。  廊下の途中、また死体を発見した。死体の近くには破損した眼鏡が落ちていた、死体は劣化が酷いが小柄で女性モノの眼鏡を所持していた事から性別の予想は用意であった。両手爪が酷く捲れ上がっており、何かを引っ掻いていたのだろうか?  爪に腐臭を放つ正体不明の肉片が付着していた。少なからず対象は生物であった可能性が高い。また、指には血液が付着した後があるが先程の白骨死体と比べると死後からそこまで経っていない筈だ、一カ月か……それ未満しか経っていないだろう。  "彼女は少し前まで生きていた?"  しかし、私には分からない事が多すぎる、壁に身を任せて俯いた。呼吸する度に鼻をつく腐臭、彼女の臭いが染み付いて離れない。  気がつくと、また死体を発見していた。それまでに至るプロセスを私は覚えてはいなかった、ただ死体を見下ろす私に気が付いた。  死体は廊下の最終地点、重厚な鉄扉に力無く座っているかの様子で置かれていた。死因は出欠多量だろうか、多く見積もって死んでから数日経過した程度だ。  床一面と服に血がこびり付いている以外には状態は良く、これがドッキリだとしたら今にも動き出すかと錯覚してしまう程である。  手にはタバコが握られている、というよりかは握らされたと表現した方が遜色ないだろう。無理に握らせた為か、手には複数箇所に人の手形が残っている。  管理者はこの奥にいる、私は死体を乗り越えて次へと進む。  暗がりの部屋に女性が一人、今回は死体ではないが様子がおかしい。宙に坐禅を組むように鎮座しており、動かない。身に纏う装飾品も異様に豪華で、部屋の雰囲気とは噛み合わない。  私は身構えた、怪物が目を覚ます。  「……管理塔システム権限を開示、認証。」  開かれた両目がこちらを凝視する、数秒の時が経過。  「認識……敵生命体。対話及び戦闘態勢を配備」  得たいが知れない、瞬きでさえ奴から目を離す瞬間が怖い。呼吸が浅くなってきたのか、息をするのがとても苦しい。  「貴方は……誰かしら?」  !?……会話はできる、らしいな。  「わ、私は怪しい者ではない。ただ、その……迷った、迷ってしまったんだ」  「死体を見てきた癖に迷った?、ただ迷って来たのなら、とっくの前に逃げてるわよ」  背筋に悪寒が走る、奴は知っている。はなから私が敵である事を……。  「純粋に帰り道を知りたい、という言い分は見苦しい……かな?」  …………。  「悪くない言い訳だわ……でも残念、私はその選択を棄てた身、そして貴方はこの世界の特異点、大人しく排除されなさい」  「はぁぁ…………、、、嫌ダッ!!」  その言葉に管理者は少しだけ笑みを溢した。  「そう、そうね、それが貴方の選択……ならば、私に逆らうか、愚か者よ」  部屋が光で満たされる、高エネルギーの活性的収縮反応、私は……呑まれる、管理者の掌の上。 https://ai-battler.com/battle/97ad623d-f406-4b8e-a983-01c6aada3155