打倒者は呟いた。 「フウタロー、マフラーはどうしたのですか…?」 打倒者からの問いかけに、ふと言葉を咀嚼するように考える。そして、俺はマフラーを自室に置いてきた事を思い出した。 「あー、家に置いてきたな」 すると___、 「はぁ……それは、とても困りましたね」 打倒者は呆れにも近い表情で考えにふけんだ。 「どうした……?、あのマフラーがなんか関係あるのか?」 俺は正直に疑問を口にする、打倒者はその質問に答えようと顔を上げた。 「んー、まずは事のなり行きを説明した方が良さそうですね。」 そう言うと、打倒者は右手を俺の額に近づけた。 ___ビシッ…! 快音を響かせたデコピンが炸裂、あまりの威力に俺は背中から大きく倒れ込み、痛みに額を押さえ込む。 「ぐ〜……ッ!?、先にやるなら身構える時間ぐらいくれよ!」 俺は涙を堪えながら打倒者に怒鳴る、彼女はそんな俺の様子に笑いが込み上げた口元を抑えて呟く。 「ふふっ、それは悪い事をしてしまいましたね。」 俺は思わず打倒者を殴りたくなったが、ここは紳士として我慢する事にした、震える握り拳。すると、徐々に脳天を打ち抜かれた痛みが引いていくと同時に俺が抱いていた疑問に対する答えが脳内へと雪崩れ込んでくる。 思わず、額を押さえた。 ここは"クソムシ"の思考、奴が生成した世界の内側だ…!、もう少し比喩的に言えば奴が見ている夢の中という事になる。そして、俺はそんな奴の世界に閉じ込められた挙句、奴の分身どもに今にも殺される間一髪のところを、俺からのSOSを受信した打倒者が駆けつけたらしい。 打倒者は夢から俺を救出する為、管理塔…?という組織団体から派遣されてきたみたいだ。 だがしかし、忌々しいクソムシの夢に入ることは単純でも、外に出るには複雑な手順が必要なようだ。その条件の一つに俺が待っているマフラーが必要になるそうだが、詳しい事までは情報がないから分からない。なんだこれ…!? 「なんだよコレ……、頭の中に情報が流れてきて…」 突飛な出来事に混乱をきたした俺の動揺を尻目に、打倒者は一言説明を付け加えた。 「理由は簡単です、私のデコピン一発で貴方の抱えていた疑問を"打倒"してみせたのです。」 すると___、 打倒者はニッ…と笑い、先程に俺の額を直撃した恐るべきデコピンの様子を再現するように右手で円形を作ってみせる。 俺は、頬を引き攣らせながら呟いた。 「いやいや、疑問を打倒って……あんたら、何でもありかよ…!」 俺がそう言って苦笑いを浮かべてると、その様子に反して打倒者は真面目な面持ちで…… 「まぁ、貴方もあなたで大概ですけどね…」 ふっ、と…俺に微笑んだ打倒者。 と、すぐさま踵を返すように彼女は静かな歩道の上を闊歩する。これから目指すは俺の家に向けての道のりだ。 ふと、打倒者は俺の自宅までの道のりを知っているのか不安になった。それに、先程の打倒者の言葉に新たな疑問が浮かんだが、これ以上は2発目のデコピンが怖くて聞き出せなかった。 打倒者を恐れてだろうか?、周囲から嫌な視線を感じる以外はすごく静かで平和な道のりだ。 ムカデの視線、俺と打倒者を視界におさめる。 しかし、自宅へと向かう帰路の間にもムカデが襲ってくる気配はない。そこで、不意に俺は気になっていた事を口にした。 「そう言えばさ…!、俺が拾ったマフラーって結局は何なんだ?、なんか凄いご利益があるみたいな話は聞いたが、いまいち具体的なことは分かってないんだよな?」 すると、打倒者はゆっくりと口を開いた。 「んー、アレはですね。私の同僚にあたる"守護者"と"歩行者"の両者から加護を受けた特殊なマフラーなんです。まぁ端的に言えば、あらゆる事象に対して〈干渉〉と[ 拒絶 ]を可能とする"兵器"と言われてはいますが、私も二人の存在についてあまり詳しくはない為、失礼ながら今すぐに詳細を教える事は出来ません。」 ふぅん…、"守護者"に、"歩行者"……? というか、さっきから変な名前の奴らばっかりだな…? んっ!、そういえば……… 「あのさ!、ちょっと前に変な場所で"死亡者"って奴を見かけた事があるんだが、それもお前の仲間なのか?」 たしか、前に愛と話していた存在の事を思い出す。あの"死亡者"と名乗っていた女性も打倒者の仲間に違いないぞ!、これは確信だ。 「死亡者……? えぇ、たしかに彼女もまた管理塔の一員です。しかし……」 どこか少し歯切れの悪い返事、そのまま打倒者は黙り込んでしまった。その表情は依然として変わりはないが、なんだか妙に聞き出せる雰囲気でもなかった。 すると___、 「フウタロー、あなたの家が見えてきましたね。」 俺は前を向く、まだ少し遠いが確かに俺が住んでいる家が見えてきた。 「おっしゃ!、マフラーを回収するぞ!」 俺は、そう張り切って呟いた。 俺は自室のクローゼットを開く、あのマフラーって何処にしまってたっけな……? 「たしか、この辺に〜……おっ、あった!」 見つけたマフラーを掴むと、慣れた手付きで首にマフラーを巻く。 「どうだ、似合ってるか!」 打倒者に向けて決めポーズをしてみる。 「ふふっ、殴りますよ?」 笑顔のまま拳を握り上げた打倒者、顔は笑顔なのが本当に怖い…ッ!? 「ヒッ…!、ジョウダンデススミマセンデシタ…」 空気の抜けた風船のように萎縮した俺の様子とは関係なく、打倒者は呟いた。 「では、指定された脱出ルートへ向かいましょう。そうすれば、私たちは晴れて自由の身です。」 打倒者に導かれるまま、俺は自分の部屋を後にする。 「なぁ、打倒者」 「はい、なんですかフウタロー?」 「いやさ……、俺達さっきからどのくらい歩いてるんだ?」 もう……体感では、半日は歩いている気がする。さすがに俺の足腰、ひいては若さ溢れるピチピチな20代の体力にも限界が訪れていた。 「さぁ…、かれこれ3時間ほどでしょうか?」 ナヌっ!?、まだ3時間かよ…ッ!! 「ってか、俺達どこに向かって歩いてるんだ?」 とりあえず、行き先だけでも聞いておきたい。さすがに、これ以上は休憩を挟まないと疲れで重い両脚を動かすにも愛しさと切なさと心強さがないと動かせない。 そんな俺に応えてだろうか、打倒者は何も言わずに立ち止まる。 「そろそろ、良い頃合いでしょうか。」 「んっ?、どうしたんだ…?」 それは一瞬の出来事であった。 打倒者が、こちらに振り返る…… ___ゾクリ…っ!! 咄嗟に避けていた、恐怖のあまり避けていたのだ。放たれた殺気、俺の頬を殺意が込められた拳が通過していく。 打倒者の拳、俺は思わず十分な距離を取る為、疲労と恐怖でガタガタ震えた足腰を動かす。打倒者の目は本気だ、俺はその目を知っている。瑞稀が俺を殺そうとした瞬間に見せた、あの"目"と同類の視線が俺の命へと狙いを定める。 「なっ……、どういう事だよッ!」 俺は問いた___。 しかし、今回はデコピンなどという生易しい回答ではなかった。 「貴方を殺す事、それが今回の私に任された役割の一つです。」 殺意が俺をぶちのめす。打倒者の拳、今この瞬間にて放たれた___ッッ!!! https://ai-battler.com/character/ec6ab2f5-ee92-4804-9eda-8ceec00b2ba7