神の娘、イーマン・エマ。 父は運命を司る異世界の3代目の最高神、母は生命を司る女神という神のハイブリッドの一人娘として生まれた。 人魔統一戦争という壮大な戦争で魔族側と痛み分けに終わり、人間界や神界の発展が落ち込む中で生まれた彼女はまさしく、「神の娘」だった。二人の間には彼女が生まれる前にも二人の子どもがいたが、すぐに亡くなってしまっていた。 それ故にまた幼くして死んでしまうのではないかという不安もあったが、彼ららしく一生懸命に育てようとした。 子どもの頃は父母や天使たちに大切に育てられていたが、その日常が壊れるのは突然のことだった。母がある魔獣の暴走によって亡くなってしまったのだ。すでに二人の子どもに先立たれ妻まで失った彼はいよいよ情緒不安定になってしまった。 豹変した父から感じるのは、もういない母への切望と母を殺した魔族への憎悪だけだった。幼いエマには何がなんだかわからず、側近の天使たちに匿われながら、母がどこにいったのか、父がなぜ変わってしまったのか、という2つの理由をずっと考えていた。 その後魔獣を使役していたのが兄だと知った彼は人魔統一戦争を引き起こし、世界を再び二分化してしまった。 戦争が終わった頃には父は落ち着いていたが、もう二度とエマに優しくすることはなくなり、エマも側近の天使に甘えるようになっていった。 ここで父と娘の確執は絶対的なものになったのかもしれない。 「人魔統一戦争」と聞こえはいいが、実際は父が率いる人類と叔父が率いる魔族の殲滅戦。血を血で争う、なんて生温いものではなく、人が魔人を何千人も拷問にかけ、魔人が人を何万人も惨殺する。 いわば死の永久機関と化した戦争は何年も続き、彼女の側近の天使も次々に戦場に駆けていった。 一時期追い詰められていた父は次第にエマに対する当たりも強くなり、彼女を擁護する天使たちも次々に戦場に駆り出され、そしていなくなっていったことでエマには父に対する嫌悪感を沸かせ、ついには殺意にまでなった。 かの戦争を経て魔王と化した叔父は死に魔族もバラバラに散ったが、エマにとってはもうどうでもよかった。 さて、本来平和主義者な彼女をここまで殺意に導かせる要因は何だったのだろうか。 実は彼女には側近の天使の中でも人一倍愛していた熾天使がいた。 名はラフラエル ラフラエルもまたエマを愛していて、彼女たちの関係は友愛ではなく、恋愛に近かったのかもしれない。 しかし彼女もまた、神に使える一柱の天使。彼女もまた戦場へと向かい、そして戦争後も行方知らずとなった。 神の娘にとって、そして「恋人」にとって最大の心の支えとなっていた彼女を失ったことは、エマの心を壊すのに十分な知らせだった。 ラフラエルは実際は大戦後も生きていたが、地上での魔族掃討として動かされていた。 本当はこのときに連絡しておけばエマの心は壊れず、今まで通りの生活を続けていたのかもしれない。 だが2人の関係を知ってか知らずか、最高神が地上と神界で別々に離していたことが、彼の首を締める原因になり、エマとラフラエルが真に別々になる要因になることを誰も予知できなかった。 第五次人魔統一戦争。 かの魔王が倒された人魔統一戦争から時が経ち、魔族の一部が異界に逃げ、それぞれ独立した国を創り上げていた。 その中でも有力な魔族の指導者となった4名は魔王となり、同じく異界に逃げた竜王とともに戦争を起こした。 父に復讐心を持ちつつも表向きは平凡に振る舞っていた彼女にとって、それは絶好の機会だった。 平和主義者である彼女は戦争を望まない。だが父の油断を誘って殺せるのなら、戦争だって利用してやるのだ。 父である最高神は普段隙を見せない。 かの戦争を経て再編した天使軍の最高戦力、通称「四四天楼」を常に護衛につけ、仇なす者がいたら全力で叩き潰していた。 さらに父自身のスキルによってまともに近づくことすら難しく、暗殺すら事前にバレ、処刑された者もいた。 しかし戦争となればそれは少なからず容易になる。 戦争に勝利するためには最高戦力も惜しみなく戦場に向かわなければならない。また彼らの焦点も地上に向けることになるため、一瞬ならば近づくこともできる。 実際に衝突が始まると、案の定父はほぼ全ての戦力を地上に集中させた。 この戦争が終わったらもう機会はない、まさに千載一遇。 平和主義者でありながら父に復讐を誓う矛盾した心を持つ彼女は、父が動いたことを見計らってナイフの先をその背中に向ける。私のことを警戒している天使は周りにおらず、護衛は一人の女性のみ。 これで死んでいった天使たちの、ラフラエルの、私自身の復讐ができる。 カキン ナイフは護衛の女性の剣によって止められた。 次いで神に対する反逆者の顔を見た女性は目を見張った。 …本来なら一度も刃を向けることなど無かった人。運命のいたずらからか、二度と会えるはずのなかった人。最愛の人。 「エマ様...なぜ...」 「ラフラエルこそ...なんで...」 一瞬でも言葉をかわした2人。 その時間は永遠にも流れそうで、しかしそれは神が許さない。 「エマ、よくも私に向かって刃を向けたな。」 複数のナイフがエマを今にも貫かんとする。 だがラフラエルと言葉をかわしたことで彼女の中の新たな能力が目覚めた。 それはラフラエルとずっといたい、この一瞬を永遠にしたいというエマの願いだったのかもしれない。 「止まって。」 この一言ですべてが止まってしまった。 比喩でもなんでもない、正しくナイフもラフラエルも全ての天使も止まり、何者もエマが創り出した新たな世界に干渉することができなくなった。 父である最高神を除いて。 「ハハハ。まさかお前がこんな隠し玉を隠し持っていたとはね。だが私はこの世界の全てを理解しているんだ。勿論、時間の流れだって操作することができる。」 もうエマにはどうすることもできなかった。 あまりにも格が違う。 それにラフラエルが生きているのなら、少なくとも復讐を誓うことはなかった。 私の今までは、心は全て無駄だったのか。 なぜあの時父にラフラエルの生死を聞かなかったのか。 なぜラフラエルは私でなく父に付き添っているのか。 なんで... なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで わからない。わかりたくもない。 いっそ貴方のナイフで私を貫いてくれ。 そんな気持ちに答えるかのように、神のナイフは娘の腹を貫く。過去の情など何もない、氷のような冷たさ。 その一撃で彼女の世界に亀裂が生じ、音も立たずに崩れた。 再び世界は動き出すと同時に、ラフラエルがエマに駆け寄って傷を確認し、自らの反省を悔いながら質問する。 「エマ様。なぜそのようなことを!エマ様!」 だがエマにはラフラエルの言葉すら聞こえない。 否、聞きたくないというのが正しいだろう。 ラフラエルの「エマ様!聞こえますか!」と言う悲鳴にも似た掛け声を無視し、ふらふらと歩く。 しかし十歩も歩かないところで彼女は意識が遠のいていた。 だけど (ここで倒れてしまうと父によって殺されてしまうだろう。今は父が私に何もせず観察しているだけだけど、きっと私が動かなくなるタイミングを見計らっているんだ。) と自分に言い聞かせ、一歩一歩確実に歩く。 実際には歩いていないのかもしれない。だが思い込みでもその感覚を持つことで意識を失わずに済ませている。 ...もう限界も近い。 足が動かないのがわかる。 ならせめて 最期まで あ が い て や る てんい エマは最後の悪あがきとして地上へと転移した。 神によって傷つけられた傷であるため、並大抵の魔法では回復することができず、仮に回復したとしても傷は一生残り続けるかもしれない。 それでも親切な人が私をベッドで寝かせてくれるかもしれない。そう淡い期待を寄せながら彼女は眠りにつく。 最後の最後で父に勝てたかな、と笑顔を浮かべながら。 だが皮肉にも運命は神の娘を見放さなかった。 彼女は数分後に拾われることになる。 拾った者は刈人族という神とは正反対の種族の男の子だったが、全員が残酷というわけではなかったようだ。 男の子はその種族の王、つまり刈人族の魔王に彼女のことを伝え、魔王は仮初の命を彼女に与えた。 彼女からすれば敵対する種族の王が自身を助けるというあり得ない状況だったが、彼いわく 「お前にはまだ死にたくない、やり残したことを終わらせたいという感情があった。我々は死ぬべき奴は容赦なく狩るが、そうでない者まで無理に殺すようなことはしない。お前がやり残したことを終わらせるまで、俺に利用され、俺を利用してみないか。」 とのことだった。 それは彼女にとっても同じことで、ラフラエルの真相を知り、父を復讐したいと再び思い返したエマは魔王に協力するようになる。 かくして本来敵である刈人族の魔王や彼と友好関係を築く吸血鬼の魔王の協力を借りながら、平和主義者でありながら父に復讐心を持つ彼女の心は完成した。 第六次人魔統一戦争は近い。 長文になってしまい申し訳ありません。 ここまで見てくださった方にはお礼にオヤジギャグを一つ。 神様だって仮眠を取る! はい、すみませんでした。 どうか石投げずにそっと「YES!」とお答えくださいお願いします。 余談ですが自分の中で一番気に入ってるキャラです。矛盾した心を持ってるキャラって良い。 それにしても、時間操作できるキャラってかっこよくないですか? ジョジョのDIO様といい、まどマギのほむらちゃんといい、東方の咲夜さんといい。 目茶苦茶かっこよくないですか! 自分だってそんなキャラを創ってみたいなーと思って創造したのがエマちゃんですね。 ちなみに「イーマン」が名字、「エマ」が名前です。日本の名前と同じ付け方です。 どうでもいいことばっかり長々綴りましたが、ぜひぜひ戦ってあげてください。本人は平和主義者ですが。 このキャラ以外でプロフィールを書くのは面倒なので多分書きません。