人生をそつなくこなしている。 誰からも愛される自信がある。 大抵の事は自分の思うように進む。 この、衝動以外は。 叩きつける様な音と共に壁が軋む。一発、二発。壁に掛かる絵画がガタリと傾いた。外の喧騒が遠くに感じるほど、明かりが差さない部屋の中。青年は、打ち付けていた頭をゆっくりと壁から離す。 彼の名前は「ジャック」。少なくともこの街で、半年前から彼はそう名乗っている。この土地には引っ越して来たばかりだが、人畜無害だと評判の面構えと温厚な物腰のお陰で、厄介なトラブルに見舞われた事もない。……しかしそれは今“ここ”にいる彼の話ではない。 人畜無害とは程遠い、興奮と苦悩が入り混じった表情で、彼は己の掌をじっと見つめていた。自身を落ち着けるための呼吸は深く、長く。欲しいのは本物の友愛か、それをダシにした興奮か、それともその先にある罰なのか。彼自身にも判然としない。積み上げたものを崩す時はいつも一瞬だ。お陰でまた、“欲しく”なっている。 数拍置いて、先程までの狂気を置き去りに無表情になったジャックは、おもむろにキッチンへと向かった。普段は飲み物に余計なものを入れないタチだが、今日はミルクを入れるのも悪くないと思えた。 そう、これはこの街で新しく出来た友人の影響だ。瞼の裏に浮かぶ、見目に似合わず無糖の珈琲に顔を顰める彼の顔に、彼は心から愛しげに目尻を下げる。 湖面に流れ込んだ白はあっという間に黒に呑まれ、渦になって消えていく。多少のミルクを注いだところで、味の違いはちっともわからなかった。 ————————————————————— オリジナルキャラの創作小説です©️yoko 【関連人物】 ブライアン https://ai-battler.com/battle/d1fe051e-da9c-4e60-b9e8-8e89fedf83ef