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【朽ちた悪役】ベアロック軍曹

 ある時、ある場所、ある怪人がおりました。  ___名は"ベアロック"……!  偉大なる"ベアロック軍曹"である。  "彼"は名前の通り"ベア(熊)"の怪人、それも悪の組織に属する大幹部の一人であった。  ___ん?、で…あった……??  えっ、過去形……?  ベアロック軍曹の身に一体何が___!?  ___それでは、  【⏳時を戻そう⏳】  ある日、ある場所、ベアロック軍曹は暴れていた。  「ガオーーー!」  人々は荒れ果てた街を逃げ惑う。  「ベアロック軍曹!、あなたの悪事もここまでよ!」  怪人の視界、その真ん中に輝く人影。  ___変身!  「貴様はッ!、魔法少女ハナかっ!?」  空に舞い散る桜吹雪、桜を模した魔法少女がそこには立っていた。  ___魔法少女ハナ、参上!  一斉に周囲から巻き上がる歓声。  「ハナよ、魔法少女が来てくれた!」  「ハナちゃん、負けないで〜!」  「きゃー!、ハナちゃん今日も可愛い〜!」  溢れんばかりの声援、怪人は嘲笑うように喉を低く鳴らす。  「貴様か、我ら"ゴクアーク"の地球侵略を阻む不届き者は…!」  怪人は手を大きく突き出し、爪をギラつかせる。  「ワハハハ…!、貴様こそ我の実力の前にボロ雑巾にでも………グホッ…!」  魔法少女の拳、怪人の顔面を穿つ。  「悪いけど私、今すごく急いでるんです!」  魔法少女の容赦なき連打、その細腕に似合わず威力は強かった。  「待てぃ!、怪人が話し終わる前に殴るヒーローがあるか!」  怪人からのツッコミ、たしかにそうだな。  しかし、魔法少女は聞く耳を持たない。  「これで決めるよ!、チェリーボンバー!」  魔法少女の両腕から放たれた魔法、怪人を吹き飛ばした。  ___グォ〜〜〜!  「それじゃあ私、授業に戻らないとだから!」  魔法少女は立ち去ろうとする、だが怪人は笑った。  「フハハハ…!、ぬるい!」  立ち込める煙の中、怪人が無傷のまま現れた。  「うそ……っ!?」  「我はゴクアークの大幹部、ベアロック軍曹である!」  その瞬間、怪人の咆哮が街を支配する。  「くっ、なんなの……この嫌な感じ!」  「フハハハ…!、我は恐怖を糧として人間を襲う怪人!、我の放つ雄叫びは人々の心にある恐怖やトラウマを呼び覚ますのだ!」  途端に人々から恐怖の声が響き渡る。  「くっ、じつは妻に内緒でパチンコに全財産を注ぎ込んだなんて言えないよ〜!」  「うぅ……私の美貌、そしてこの身に宿る才能が本当に恐ろしすぎて二代目ダヴィンチになりそうだわ!」  「ママ〜、チョウチョ〜」  「フハハハ…!、どうだ人間!、その恐怖が我をさらに強くするのだ!」  ベアロック軍曹の実力が格段に増していき、その体格もみるみる肥大化していく。  「ちょ……、これはマズいかも…」  魔法少女はあまりの状況に冷や汗を垂らす、だけど逃げたりなど決してしない。  ___だって……、  「私は魔法少女!、魔法少女ハナなんだから!」  魔法少女は自身の胸に手を当てた、その瞬間に彼女の中に眠る魔法が新たな形へと変化する。  その手には可愛いらしい玩具のピストル、その引き金を今この瞬間に撃ち鳴らす。  ___ラズベリーブレッド……ッッ!!!  怪人を吹き飛ばす魔法、魔法少女は顔を引き攣らせた。  「フハハハ…!、効かぬ!」  ベアロック軍曹の分厚い毛皮の装甲の前に魔法少女の一撃は為すすべなく弾かれたのであった。  「うそォーーー!?」  魔法少女は驚愕の声を上げる、怪人の一撃が襲いくる。  ___ベアベアーパァンチ…ッ!!!  魔法少女が咄嗟に張った防御壁、それを意図も容易く貫通したパンチが轟いた。  「フハハハ…!、どうだ!、この我のベアベアーパンチの威力は!」  「くっ……、こんな…の」  魔法少女はそれでも立ち上がる、フラフラな足で立ち上がったのだ。  「フハハハ…!、我の雄叫びが止まらぬ限り、この恐怖の波は止まる事を知らないのだ!」  怪人の雄叫び、なんて恐ろしい雄叫びなの!?  魔法少女は考える。その恐ろしげな声が原因ならば、魔法少女として出来る事はただ一つ!    「フハハハ…!、降参しろ!、魔法少女ハナ!」  ___諦めない…!  「諦めたくない!、だって私は魔法少女!、街の皆んなを守る為に立ち上がった魔法少女ハナなんだから!」  「フハハハ…!、ならば死ぬがいい」  怪人が駆け出す、それに合わせて魔法少女も駆け出した。  怪人は拳を握り、対する魔法少女は己の胸に手を当てた。  ___ベアベアーパァンチ…ッ!!!  魔法少女の肉体を吹き飛ばした一撃、しかし今の一撃には違和感があった。  なんと……、  「な、なんだ!、われの体が…!?」  先程までの凶悪な見た目に反して、今はただの幼女、なんと怪人の姿は小柄で金髪なただの一般幼女に変貌していたのである。  「われの声が!、われのオソろしい声が…!?」  怪人は可愛い悲鳴を挙げて自身の喉元に触れる、なんと恐怖の源であった声を奪われてしまったのだ。  そんな慌てふためく幼女に反して、人々の反応は……  「きゃー、可愛い〜!」  「幼女だ!、金髪ロリっ娘が降臨なされたぞ!」  「ねぇ、あの子めちゃくちゃ可愛くない?」  「まじでヤバいんですけど〜!」  誰も彼を、もとい彼女を全く怖がらないのである。  「くっ、なんて事だ!、何が起きたのだ!」  怪人…、いや今は幼女である彼女は先程に吹き飛ばした筈の魔法少女の方を向く。  ___その手には……、  「恐怖とは、いつか乗り越える為にあるのよ!」  ハナの手には魔法の鏡、その効果は[鏡写し:対象の特徴を反転する魔法]。なんとベアロック軍曹の恐怖の象徴であるという特徴を反転して、全く怖くない……むしろ可愛いという姿に変換したのであった。  「くっ!、われをナメルナ〜!」  幼女は駆け出した、憎き魔法少女から自分自身の尊厳を取り返すために駆け出したのである。  ___決着の時である。  「皆んなを恐怖のどん底に叩き落とした罪、その悪業を懺悔する時よ…!」  ___チェリーボンバー……ッッ!!!  怪人を吹き飛ばす魔法、ベアロック軍曹を直撃する。  「ウギャアぁぁぁ〜〜〜!??」  こうして悪しき怪人、ベアロック軍曹は倒されたのである。  ___が、しかし…何故か彼、もとい彼女は生きていたのである!? 【時を進めよう↓】  魔法少女ハナ、もとい"櫛村アリス(くしむら ありす)"という少女は夕焼けを背にして帰宅する。それは学校からの帰り道の事である。  「んぅ〜!、もう今日はクタクタだよー」  背伸びをする、全身が痛くてしょうがない。怪人ベアロック軍曹は今まで戦ってきた中でも指折りの強敵であったからである。  「というかフラワー、私テスト中に抜け出したせいで時間ギリギリで解いたんだからね!」  フラワー、つまりは妖精兼相棒の花に向けて少女は呟いた。  「テストの一つや二つ、魔法少女の責務と比べれば大した問題ではないのさ」  少女の鞄の中から顔を出したフラワー、それに対して少女は頬を膨らませて呟いた。  「最近は怪人退治のせいで成績がガタ落ちなんです〜!」  「それは君の努力次第、つまり君という存在が怪人退治を言い訳に勉強をサボった結果じゃないのかい?」  「ぐっ…、ごもっとも」  聞きたくない現実の代わりに、見知った笑い方という幻聴が聞こえてく。  「わはははっ!、見つけたぞ!、魔法少女ハナ!」  なんと幼女が立っていた。  「あっ、あなたは!」  「そうだ、われこそは…!」  「って、誰でしたっけ?」  ___ガクシッ…  幼女がコケる。  「われだよ!、きさまにひどい目にあわされたベアロック軍曹だ!」  幼女は威嚇するように両腕を掲げてアライグマの威嚇ポーズのような威嚇をする。  「___いや、われはクマはクマでも、アライグマではないわ!」  なぜかキレている幼女、アリスは気にせず頭を撫でた。  「えー迷子?、お母さんとは一緒に来たの?」  「われを子どもあつかいするでない!」  「えっ、でも子供じゃん?」  「ま、まぁ…たしかに………って!、違うぞ!、われはベアロック軍曹である!、今日きさまと戦ったばかりであろう!」  「あれれ?、こんな幼女な見た目だったかな?」  アリスは首を傾げた。  「きさまが幼女に変えたのではないか…!」  幼女がキレた。  「あれ?、そうだっけ?、最近なんか怪人退治ばかり忙しくてあんまり戦った相手の顔なんて覚えられないよ」  アリスは眠そうな様子で欠伸する。  「くっ、この卑怯者どもめ!、われの姿をかえすのだ!」  「いや、戻し方なんて分からないんだけど?」  「へっ………、まじ?」  幼女の目が丸くなる。  「うおーーー!、ちきしょー!?」  幼女は絶望した。  「ほらほら〜、そんなに落ち込まないで、飴ちゃんいる?」  「……うん、いる。」  【🍬幼女は"アメ"をGETした.🍬】  「というか、ベアロック軍曹って私の魔法で吹き飛ばした筈だよね?」  アリスの疑問、そこに相棒のフラワーが割って入る。  「君が放った魔法はチェリーボンバー:"怪人を吹き飛ばす魔法"だからさ」  「つまり…?」  「"怪人"しか倒せない魔法で【人間】は倒せないだろ?」  なるほど、ようは目の前の幼女は怪人ではなく完全な人間という事らしい。  ___グ〜〜〜!  誰かの腹の虫が鳴る、その視線は全て目の前にいる幼女へと注がれていた。  「わ、わわ、われではないぞ!、ちかって違うぞ!」  ___グ〜〜〜!  「こ、これはだな……」  カァ…、と幼女の両頬が赤く染まった。  「とりあえず、ファミレス行こっか?」  アリスはそう言って笑った。  ___ファミレスにて、、、  「ほ、ほんとうに良いんだな!、好きなもの頼んでいいんだな!」  「だから大丈夫だって、高校生の財力を舐めないの!」  アリスは自慢気に胸を張った。  「そ、そうか…!、ならば!」  次から次へと告げられる注文、まさかメニュー表に書かれた料理全部を注文する気ではないだろうか。  ___アリスは張った胸を引っ込めて言った。  「うぅ、少しぐらい高校生の懐事情に気遣ってよォ〜」  半分涙目、残り半分は諦めである。  「フラワーは何か頼む?」  「僕は水を一杯ほしいかな」  「花だけに?」  「いやいや〜、花だからさ」  そうこうしている内にファミレスの利点が発揮される。第一に、ファミレスは手頃な価格設定なのが特徴だ。第二に、ファミレスの料理が到着するまでの速度は非常に早いのだ。  テーブル並べられていく料理、その様子に幼女の視線が踊った。  「い、いただきますのだ!」  テーブルマナーはどこ吹く風、手掴みによる野生的な食べっぷりが際立つ。幼女の口周りはミートソースでぐちょぐちょだ。  「ところでさ、ええと…ベアロック……なんだっけ?」  「べならっくぐんぞうだ!(…ムシャムシャ」  「ちょっ、落ち着いて食べてよ。別に料理は逃げないんだしさ?」  そう言ってアリスは頼んだイタリアンピアを一切れ齧った、そして残りは全て目の前にいる幼女に全部食べられてしまったのだ。  帰り道、幼女はお腹を大きくさする。  「げふっ、生き返ったのじゃ〜!、今日は何度も死ぬ思いをしたからの」  幼女は満足そうである。  「それで、ベアロック艦長だっけ?」  「軍曹だ!、ベアロック軍曹!」  「それ長いからベアとかどう?、名前がベアちゃんの方が可愛いし」  「われは誇りたかき怪人であるぞ!、可愛いなど不要だ!」  「じゃあファミレス代かえしてよ」  「ぐっ、ベアちゃんで良いです。」  「それでベアちゃん、これからどうする気なの?」  「なにがだ…?」  「だって、このまま人間として暮らすんでしょ?」  アリスの言葉に幼女は固まる。  「忘れてた〜〜〜!」  どうやら人間であった事を忘れていた様子。  「ま、まぁ……どうにかなる、…のかな?」  かなり曖昧な返事、アリスは頬を掻いて呟いた。  「お互い今日は色々とあった訳だし、一日ぐらいなら泊めてもいいけど……」  アリスの言葉に幼女は目を輝かせる。  「本当か!、きさま良いやつだな!」  幼女の眼差しが眩しい。  「い…一日だけだからね!」  無事に帰宅したアリス、その後ろを金髪幼女が追いかける。  「ほほう!、ここがきさまのアジトか!」  「しっ!、静かにしないと気づかれちゃうから」  慌てるアリスに反して、フラワーは冷静に告げる。  「大丈夫さ、君が普段から授業を抜け出しても周りが全く気にしないように、今この瞬間も僕の魔法で周囲の認識を逸らしているから安全なのさ」  「えっ、そんなの初めて聞いたんですけど…!?」  「うん、だって初めて君に話したもん」  きょとん、とした様子でそうフラワーは語った。  「あ、こら!、暴れない!」  「わはははっ!、くすぐったいのだ!」  お風呂上がり、ベアの髪を乾かそうと悪戦苦闘するアリスの姿。  「もう、急に大きく歳の離れた妹か何かができた気分よ」  一人っ娘のアリス、年下の扱いには慣れていなかった。  「人間よ、きさまらは毎日水浴びをしていて不便であるな」  「あんたが不潔なだけよ…!」  ドライヤーの温風、ありものでベアに着させたアリスのTシャツが風になびく。  「だがしかし、人間であるという事も、そう悪いことではないのかもしれんな」  「えっ………?」  ドライヤーを動かす手が止まる。  「なんだ?、怪人がそんなことを言ったらヘンか?」  「ま、まぁ……ヘン、かな?」  アリスは迷った末にフラワーに視線を送った。  「おいおい僕は妖精だぞ?、君らみたいな人間的な価値観を求められても困るだけさ」  「はいはい、フラワーに聞いたのが間違いでした」  アリスは呆れた様子でそう返事を返したのであった。  今は深夜、ベッドの上。なかなか眠らないベアを拘束するように両腕で抱きしめているアリス、その顔は一日のハードスケジュールの影響ですごく眠たそうである。  「わはははっ!、人間!、これは何というのだ?」  あらゆる物事に興味関心が湧いてくる年頃、しかしアリスからの返事は曖昧であった。  「んぅー、そう……そう…ね」  「??、どうしたのじゃ?、具合でも悪いのか?」  心配するが、代わりにアリスに頭を撫でられた。  「おやすみなさい、ベア……」  そこでアリスの意識は完全に事切れていた。  つまり、復讐するならば今こそチャンスなのである。  ___だがしかし、、、  「あぁ、おやすみ…だ……な」  ベアも、ふと襲われた眠気に重たい瞼を閉じていく。  ___明日の事など分からない、そして現在の自分自身が何者かすらも分からない。そんな状況の中、ただ一つ安心という名の温もりの中で彼女は人間としての【一日目】に別れを告げたのであった。  この先もどうか、眩いばかりの幸福が彼女に訪れる事を心より願うばかりである。 [終。]