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【揺れる正義の剣】騎士ライゼル

炎が揺らぐ。視界一面を覆う程の巨大な炎が。 あれは北部のとある村の討伐命令だった。 「村に潜む反乱分子を討て」 正義の名の下に与えられた命、それに従う王の剣としての己にライゼルは誇りを持っていた。 村に到着したライゼルは、目の前に広がる光景に愕然とした。 家々が焼け落ち、煙が天を覆い、焼け爛れた土の上に横たわるのは少年や老女、刃を持たぬ者達の姿だった。 これが「正義」なのか? だが、ライゼルは命令を拒む事はできなかった。 震える手で剣を振るうその時に、彼の中の正義は音を立て崩れた。 燃えゆく村を無言で見つめ、心の中で何度も問いかける。 「これは本当に正義なのか?」 それでも彼は剣を置く事ができなかった。 何故なら、もし剣を捨てれば彼がそれまで信じてきた全ての物───救われた命、誓い、王国、そして無垢な自分が、ただの夢だった事を認める事になるからだ。 それがたまらなく恐ろしかった。