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【unchained】ネイキッド・サバンナ

 その善悪は横に置いておいて、多くの場合プロレスには筋書きが存在し、プロレスの競技者には役割が割り振られる。 ベビーフェイスにはベビーフェイスの、ヒールにはヒールの役割が存在し、プロレスはそれらを競技者が全身を限界まで追い込みながら演じ、もしくは逸脱することによって完成する舞台芸術のようなものだ。  さて、ここに一人のレスラーがいた。彼女は顔を隠し、その役割を地道にこなしながらキャリアを積み重ねてきた。ベビーの役割を負っていれば、苦闘の末に輝かしく勝利する役割を、ヒールの役割を負っていれば観客を怖がらせ、相手を無慈悲に追い込み、逆転を許して敗北する役割を…そして、時折その役割をいい塩梅で逸脱し、それでも観客を沸かせる熟練のパフォーマンス力も身に着けた。だが、彼女の内なる血は、役割に繋がれ、その通りに生きる自身の姿にジリジリとした不満をため込んでいた…  そして、彼女はプロレスラーと言う『一人の表現者』として一つの決断をするに至った。「役割と言う鎖を引きちぎり、全身で自由を表現する事」…彼女は団体の長やプロモーターらと綿密に話し合い、この決断はついにある日のスペシャルマッチとして結実した。 マスクを脱ぎ、主役でも悪役でもない、一匹の獣としてリングに立つ時が来たのだ。