「……随分と、追われていますね」 「でも大丈夫。 ここでは、彼女――赫の少女は、あなたに触れられません」 蒼の少女が何かを言う前に、 白き夢見の少女は、まるで昔話をするように語り始める。 ⸻ 「すべては、とても単純な話です」 「現実世界に、一人の少女がいます。 生まれつき身体が弱く、 多くの時間を眠って過ごしてきた、ただの少女」 「彼女は孤独でした。 現実でも、夢の中でも」 「だから――空想を始めたのです」 ⸻ 「最初は、ただの遊びでした。 童話を思い出し、物語をなぞり、 “こんな子がいたら”と、考えるだけ」 「けれど夢は、思考よりも正直です」 「感情は形を持ち、 役割を与えられ、 やがて人格を持つようになりました」 ⸻ 「私も、その一人」 「あなたが立っているこの白い庭園も、 ここにいる“白い少女たち”も、 すべて彼女の内側から生まれたものです」 「――つまり」 白き夢見の少女は、蒼の少女を見る。 「あなたも、赫の少女も、 同じ一人の少女の空想から生まれた存在」 ⸻ 「違いがあるとすれば、 赫の少女は“気づいてしまった”」 「自分が現実に存在しないことを」 「その自覚は、彼女を強くし、 同時に歪ませました」 ⸻ 「彼女は、 “物語である自分”を否定しませんでした」 「むしろ誇ったのです」 「ならば私は、 より多くの物語を喰らい、 より強い虚構になればいい、と」 ⸻ 「そして、あなたの世界―― “不思議の国”に、辿り着いた」 蒼の少女の懐中時計と鍵を、一瞥する。 「彼女は、物語を丸ごと壊すことはしません」 「それでは、味がしない」 「彼女は歩き、触れ、 役割や象徴を“設定として”奪います」 「名前。 役目。 意味」 「だからあなたは、 “自分が誰だったか”を思い出せない」 ⸻ 「あなたは壊されてはいません」 「ただ――未完成になった」 ⸻ 白き夢見の少女は、少しだけ声を柔らかくする。 「あなたが逃げているのは、 命を奪われるからではありません」 「“吸収される”からです」 「完全に取り込まれれば、 あなたは赫の少女の一部となり、 独立した存在ではなくなる」 ⸻ 「それでも、あなたには希望があります」 「あなたは、 完全には奪われていない」 「鍵も、時計も、 あなた自身が“物語の中で掴んだ象徴”です」 「彼女は、それを奪い損ねた」 ⸻ 「戻りたいですか?」 白き夢見の少女は、問いかける。 「元の物語に。 元の役割に。 元の名前に」 ⸻ 「その答えが“はい”なら」 「赫の少女を否定する必要はありません」 「彼女を倒すことも、 消すことも、 必須ではない」 ⸻ 「あなたがするべきなのは、ただ一つ」 「自分が誰だったのかを、 思い出すこと」 「物語は、 名を呼ばれて完成するのですから」 ⸻ 「私は、ここからは干渉できません」 「私は“管理する側”であって、 物語を進める存在ではない」 「でも、そうですね――」 白き夢見の少女は、微笑む。 「少しぐらいなら、許されるでしょうか」 言葉と同時に、世界が端から崩れていく。 戻る先は、元の世界。 目の前には、赫い少女。 https://ai-battler.com/battle/e80d3df6-0095-4ee8-983f-0c22d41d8045