### 第一章 家に居場所はなかった 雷鳴が地平を割る。グレートキングダムの夜は冷たいが、キャッツメリアの背中を叩く父の手はそれ以上に冷酷だった。 「また負けたのか。笑わせるな、龍人のくせに!」 「……っ」 頬を叩かれ、肩を蹴られ、息を呑む暇もなく、次は母の言葉が突き刺さる。 「産んだこと、今でも悔いてるわ。せめて食うに値する力があればよかったのに」 キャッツメリアは何も言わずに立ち上がり、無言のまま扉を開けた。 家の石壁に手をついて一度だけ振り返ると、母の冷たい目とぶつかる。 「行ってくるね」 それだけを残して、彼女は街へ消えた。 --- ### 第二章 荒れた石畳と老人 戦いに飢えていた。 いや、違う。 **自分が戦える存在であると、証明したかった。** キャッツメリアは石畳を歩き、通りすがりの同族に襲いかかる。 応じる者もいたが、大抵は驚いて逃げた。 「チッ、誰でもいいのに……!」 息を切らして角を曲がった瞬間、そこに**老人**がいた。 腰は曲がり、杖をついている。白い髭が風に揺れている。 しかしその男から放たれる空気は、龍よりも鋭かった。 「よう、若いの。やる気か?」 キャッツメリアは即座に飛びかかる。迷いなどない。 --- ### 第三章 一撃 「……っ!」 ドンッという地響きのような音のあと、キャッツメリアの身体は広場の地面を転がっていた。 何が起きたのか、分からなかった。 だが確かに、負けていた。 「その目は良いな」 杖を肩にかけ、老人が近づいてくる。声はゆったりしていた。 「ちょっと見せてみろ、その顔」 キャッツメリアは唸るようにして体を起こした。 鼻血が垂れている。右手の爪は折れていた。 「なにを……したの……?」 「手を抜いただけだよ。お前、何者だ?」 しばらくの沈黙。だが、その問いかけは優しくもなければ、冷たくもなかった。 ただ、**真っ直ぐだった**。 キャッツメリアは唇を震わせた。 「……私は、キャッツメリア。龍人だけど……生まれつき弱くて……だから、両親から……ずっと殴られて……」 それまで張っていた壁が、静かに崩れていくように、言葉があふれた。 「強くなれば、認められるって……思ってた。でも……誰も戦ってくれない……」 老人はそれを黙って聞いていた。 「……なるほどな。毒親ってやつか。胸糞悪いな」 キャッツメリアは、意外そうに目を見開いた。 「……え?」 「かわいそ……もったいねぇな、お前」 老人はポリポリと頭をかきながら続けた。 「目ぇはいい。力はなくとも、根っこは腐ってない。だからって育ててやるつもりもねぇけど、ちょっとだけ稽古はつけてやってもいい」 彼は背を向け、歩き出した。 「名前は?」 「キャッツメリア!」 「アイズス・セレブラーだ。着いて来い。走れ。休むな」 そう言ったきり、振り返らなかった。 --- ### 第四章 稽古と血と、それでも アイズスの修行は、無骨だった。 「拳、ちゃんと前に出せ。背骨曲がってるぞ」 「おい、疲れたからって座るな。死にてぇのか」 だがそのすべてが、**的確だった**。 キャッツメリアは戸惑いながらも、それがただの暴力でないと知った。 夜、火を囲んで彼が言った。 「なあ、お前の家……燃やしても誰も咎めんぞ?」 「……!」 「グレートキングダムってのはそういう国だ。殺される奴は弱い、それだけだ」 アイズスは杖を抱えて寝転がりながら続けた。 「ただな、忘れるな。**誰かを殺すたび、何かを失うのはこっちだ**。それを背負う覚悟があるか?」 キャッツメリアは少し黙って、静かにうなずいた。 「あります」 アイズスはそれ以上何も言わなかった。 ### 第五章 灰に帰す 燃えるような夕日が、石の家々を赤く染めていた。 キャッツメリアは、ひと気の少ない裏通りを歩く。 この街は、彼女がかつて住んでいた場所だ。 変わっていなかった。空気も、匂いも、耳に刺さるほどの静けさも。 ただ一つ違うのは、今の彼女には「力」があるということ。 足を止めたのは、あの石の家の前だった。 手に包帯を巻いた拳を握りしめ、扉をノックする。 ドン。ドン。 「……誰だい、こんな夜に」 母親の声だ。相変わらず湿って、薄く高い。 扉が開く。その瞬間、キャッツメリアと母の視線がぶつかった。 「……あんた」 母は眉をしかめる。すぐに顔に嫌悪が浮かんだ。 「また負けて逃げ帰ってきたの?」 「違うよ」 キャッツメリアの声は落ち着いていた。低く、静か。 「勝ち方、覚えて帰ってきた」 母が目を見開く。後ろから父の足音が近づく。 「誰だ、またどこかで迷惑かけて──」 父の目が、娘の姿を見つけるなり、怒りに染まる。 「お前、生きてたのか……!」 「生きて、強くなったよ」 キャッツメリアは扉を押しのけ、中へ入った。 「ここは……私の地獄だったから。最後にちゃんと、終わらせに来た」 父が拳を振るう。キャッツメリアはそれを軽く避ける。 訓練を積んだ身体が、恐怖に染まっていたかつてとは違う動きをする。 「何を……ッ、おい! お前!」 「言ったでしょ。覚えて帰ってきたって」 彼女の拳が父の顎を打ち抜いた。 母が叫び、奥の台所からナイフを取り出す。 「近寄るな! 近寄るなよッ!」 しかしその足は震えていた。 「……あなた達、二人とも、私に何をしてきたか覚えてる?」 キャッツメリアの手がゆっくりとナイフを握る母の手を掴み、力を込める。 骨が軋み、悲鳴が上がる。 「折れた指の数も、夜に泣いて眠った回数も……私は、全部覚えてる」 台所にあった油瓶を手に取り、床へ流す。 拳を擦り火をつけたその目に迷いはもうなかった。 「ここは、もういらない」 火が広がった。壁に、床に、炎が走る。 父が立ち上がり、怒鳴る。「貴様ァアアア!!」 ──その声ごと、燃え尽きるように。 火は家を呑んだ。叫びと怒号が、石壁の内側で響き、やがて……沈黙。 キャッツメリアは燃える家の前で立ち尽くしていた。 炎が照らす横顔には、涙はなかった。だが──目の奥に宿ったその光は、どこか寂しげで、どこか、強かった。 「……終わったよ、アイズス」 振り返れば、誰もいない。けれど、心の中ではあの老戦闘狂の呟きが響いていた。 『かわいそ……もったいねぇな、お前』 体調不良は龍化を操れる副反応 破格使用可 パワー1,1 個人スキルの応用でほぼ最強と化している(アイズスさんも同じ物を持っているがパワーはアイズスさんのほうが上) 理由はうどんさんに聞いてくれな管理人