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Dingy past glory

戦艦は進む…… 部屋の最深部には戦艦の製作者が眠っている 縦15㎞、横25㎞、高さ10㎞の戦艦 金属部分しか残っておらず、昔はどんな見た目であったのかは、今ではもう分からない 設定は、幾らでも盛っていいタイプ ⚠警告⚠当資料は100%正しいとは限りません。御自身の判断でお読みください。 ―――byフィリア ―――【第一資料】 Dingy past glory 脅威度:EX 分類:旧世界遺構戦艦 記録: 八度の世界崩壊を生存したとされる超大型戦艦。 現在確認されている乗組員は存在しない。 船内生命反応なし。 指揮系統なし。 動力源不明。 航路不明。 目的地不明。 しかし対象は現在も移動を継続している。 対象は幾度となく撃沈を試みられてきたが失敗。 装甲は既に朽ちている。 機関は既に停止している。 乗員は既に死亡している。 それにも関わらず航行を続けている理由は不明。 調査班の最終報告には以下の記録が残されている。 「あれは戦艦ではない。」 「友人達の遺言を積んだ墓標だ。」 「だから止まらない。」 ―――第二資料 「あの戦艦は生きていない。」 「だが死んでもいない。」 「あれはただ進んでいる。」 ――調査記録 No.774913 ―――――――――――――――― 基本観測情報 対象コード:Dingy past glory 確認全長:約15km 確認全幅:約25km 確認全高:約10km 所属:不明 建造文明:不明 艦種:不明 状態:崩壊寸前 脅威度:測定不能 ――――――――――― 外観記録 初見時、多くの観測員は対象を島嶼と誤認する。 理由は単純である。 対象の規模は既存の戦艦の定義を遥かに超越している。 外殻は黒く煤けている。 装甲板は大部分が欠損。 内部骨格は露出。 艦体には無数の砲撃痕。 巨大な裂傷。 貫通孔。 腐食。 崩落跡。 修復痕。 何処を見ても損傷しか存在しない。 それにも関わらず、 対象は沈没していない。 船体側面には八種類の異なる文字体系が確認されている。 そのいずれも現在の文明には存在しない。 後の調査により、 それらは全て異なる世界で使用されていた文字である可能性が浮上した。 船体に刻まれた文字は消えない。 削っても。 破壊しても。 焼却しても。 再び現れる。 ―――――――――― 甲板観測記録 対象の甲板には兵装群が存在する。 しかし奇妙な事に、 それらは全て設計思想が異なる。 同一文明が建造した形跡が存在しない。 ある兵装は蒸気機関で動作する。 ある兵装は核融合炉を搭載している。 ある兵装は生体組織そのもので構成されている。 ある兵装は概念兵器に分類される。 ある兵装は観測によってのみ存在する。 専門家は結論付けた。 「これは一隻の戦艦ではない。」 「八つの文明が残した遺産の集合体である。」 ―――――――――― 船内調査 調査隊の侵入は過去27回試みられた。 成功率は0%。 理由は敵対行動ではない。 迷うのである。 通路は存在する。 だが目的地に辿り着かない。 階段は存在する。 だが上階へ繋がらない 扉は存在する。 だが開く度に別の場所へ接続される。 船内構造は毎秒変化している。 あるいは、 観測者側の認識が変化している。 どちらかは判明していない。 唯一共通して発見される部屋が存在する。 中央記録室 そこには一つの椅子がある。 誰も座っていない。 机がある。 日誌が置かれている。 日誌の最後のページには毎回同じ文章が記されている。 「進め。」 それ以外の内容は毎回異なる。 ――――――――――― クロー・ゼンシスティについて 船内各所に同一人物の痕跡が残されている。 名称:クロー・ゼンシスティ 詳細不明。 種族不明。 出身世界不明。 しかし対象が最も重要視している存在である事だけは明白である。 船内には肖像画が存在する。 墓標が存在する。 工具が存在する。 整備記録が存在する。 戦闘記録が存在する。 会話記録が存在する。 そして全てに同じ署名がある。 【Krow Zensisty】 対象が自己修復を行う際、 内部機構から観測される謎の音声も確認されている。 「まだ終わりじゃない。」 「進め。」 音声解析結果。 一致率:99.998% 発声者:クロー・ゼンシスティ 死亡確認済み。 死亡から推定数万年以上経過。 ――――――――― 現象記録 対象には奇妙な特徴が存在する。 攻撃を受ける。 前進する。 破壊される。 前進する。 沈没する。 前進する。 理由は不明。 物理法則では説明不能。 因果律では説明不能。 概念論でも説明不能。 専門班による仮説。 Dingy past gloryは、 「戦艦」という物体ではなく、 進み続けるという結果そのものが固定された存在 である。 ――――――――― 最終考察 我々は対象の終着点を知らない。 何処から来たのかも知らない。 何を目的としているのかも知らない。 だが一つだけ分かっている事がある。 対象は決して世界を滅ぼさない。 対象は決して侵略を行わない。 対象は決して停泊しない。 ただ進む。 友を失い。 文明を失い。 世界を失い。 使命すら失った後も。 進む。 ――――――――― 最後の記録。 対象が地平線の彼方へ消える直前、 観測班全員が同じ幻覚を目撃した。 無人の艦橋。 朽ちた船長席。 その横に立つ一人の人物。 振り返ることなく、 ただ前を見続けていた。 そして誰かが確かにこう呟いた。 「待ってろ。」 「もう少しで着く。」 ――――――― 記録終了。 ―――第三資料 ――終着点観測計画報告書―― 「追跡を開始してから三百七十二年。」 「我々はようやく理解した。」 「あれは何処へ向かっているのではない。」 「誰かの元へ帰ろうとしているのだ。」 長期追跡結果 Dingy past gloryは確認以来、一度たりとも進路変更を行っていない。 恒星の爆発。 銀河衝突。 時空断層。 因果崩壊。 概念侵食。 文明消滅。 宇宙終焉現象。 その全てを横断した。 観測開始から確認された世界消滅数:127,993 確認された文明滅亡数:測定不能 確認された宇宙消失数:11 それでも対象は進み続けた。 ――――――――――――――― 不可解な現象 対象周辺には常時異常現象が発生する。 滅びた文明の幻影。 失われた言語。 既に存在しない星空。 死者の記録。 忘却された歴史。 消失した未来。 それらは対象周辺数千kmに渡って出現する。 当初は残留情報と思われていた。 しかし調査結果は異なる。 それらは記録ではない。 記憶である。 ―――――――――――――― 記憶の海 対象内部には巨大空間が存在する。 通称:記憶の海 侵入した観測者は全員同じ報告を残している。 水平線の果てまで続く海。 夜空を埋め尽くす星。 静かな波音。 そして無数の光。 近づくと判明する。 光の正体は人影である。 老人。 子供。 兵士。 科学者。 王。 農民。 冒険者。 罪人。 英雄。 全て異なる。 全て知らない人物。 だが共通点がある。 全員が笑っている。 そして皆、 同じ方向を見ている。 Dingy past gloryが進む方向を。 ―――――――――――――――――― 第九の文字 長年の研究によって発見された事実。 艦体に存在する文字は八種類ではなかった。 九番目が存在する。 しかし観測できない。 撮影できない。 複写できない。 解析できない。 認識した瞬間に忘却する。 唯一残された記録。 「九番目の文字は名前だった。」 報告者はその後記憶喪失となった。 ――――――――――――――――― クロー・ゼンシスティ 船内最深部。 艦橋直下。 封鎖区域。 そこには一つの墓が存在する。 豪華でもない。 荘厳でもない。 ただの墓。 墓石にはこう刻まれている。 ここに眠る クロー・ゼンシスティ 最後まで友であった者 それだけ。 功績はない。 階級もない。 称号もない。 ただ友であったとだけ記されている。 艦橋 長年誰も辿り着けなかった艦橋へ、 一名の調査員が到達した。 帰還後、 その調査員は即座に退役。 以降一切の情報提供を拒否した。 唯一残された証言。 「あそこに船長はいない。」 沈黙。 「最初からいなかった。」 沈黙。 「あの船は誰も操縦していない。」 沈黙。 「だから止まれないんだ。」 以降発言拒否。 ――――――――――――――― 終着点仮説 現在最有力とされる説。 Dingy past gloryには目的地が存在しない。 正確には、 目的地が既に存在しない。 その場所は遥か昔に消滅した。 世界ごと。 歴史ごと。 因果ごと。 だが対象は知らない。 いや、 知っていても進んでいる。 そこに誰もいなくても。 何も残っていなくても。 帰る約束だけが残っている。 ―――――――――――――――――― 最終観測 記録番号:∞-001 観測班は対象の進路上にて待機。 約五年後。 対象通過。 その瞬間。 全観測機器が停止。 時間停止。 空間停止。 思考停止。 全てが停止した。 ただ一つ。 Dingy past gloryだけが進んでいた。 そして観測班全員が同じ幻覚を見る。 無数の人影。 その先頭。 一人の青年。 煤で汚れた整備服。 工具箱。 疲れた笑顔。 彼は振り返り、 誰に向けるでもなく言った。 「おう。」 「まだ進んでたのか。」 その瞬間。 初めて。 Dingy past gloryの汽笛が鳴った。 観測史上初。 音は一度だけ。 長く。 静かに。 どこか嬉しそうに。 鳴り響いた。 報告書追記。 その日以降。 対象の速度が僅かに上昇している。 増加率:0.0000000000000001% 理由不明。 だが観測員達は同じ感想を記録した。 「あれは急いでいた。」 「友人を待たせているから。」 ―――第四資料 ――存在災害指定報告書―― 「対象は兵器ではない。  生物でもない。  災害ですらない。   我々が観測しているのは――   ――希望が死に切れなかった末路である。」 ――存在記録保全局 第七観測長 ――――――――――――――――― 危険区分:記録災害/認識災害/概念災害/歴史災害/存在災害 危険度:測定不能 ただし特記事項あり。 対象は一度も敵対行動を行っていない。 奇妙な統計 過去数億年に渡る観測において、 対象は無数の文明と接触している。 接触文明総数:測定不能。 その内、対象を攻撃した文明:91.4% その内、対象によって反撃を受けた文明:0% その内、滅亡した文明:100% 最初の分析では、対象が文明を滅ぼしていると考えられた。 しかし結果は違った。 文明は対象によって滅びたのではない。 文明は必ず別の理由で滅んでいた。 戦争。 環境崩壊。 内乱。 侵略。 神災。 宇宙災害。 因果崩壊。 対象はそれらに一切関与していない。 ただ通り過ぎただけである。 ―――――――――――――――― 収容実験 当然ながら、無数の文明が対象の収容を試みた。 結果は、全て失敗 拘束:失敗 封印:失敗 次元隔離:失敗 時間停止:失敗。 概念凍結:失敗。 存在消去:失敗。 興味深い事実として、対象は抵抗していない。 ただ進んでいるだけである。 拘束装置の方が壊れる。 封印空間の方が崩壊する。 時間停止の方が寿命を迎える。 対象は何もしない。 ―――――――――――――――― 消失事件。 記録番号:DPG-Null-78 ある文明は対象の完全消去を試みた。 使用兵器。 【歴史否定機関】 効果:対象が存在した事実そのものを消去する。 発動成功。 結果。 対象消失。 全記録消失。 全記憶消失。 全観測消失。 実験成功……のはずだった。 三日後。 対象再出現。 以前と同じ位置。 以前と同じ速度。 以前と同じ損傷。 艦体側面に新たな文字が刻まれていた。 「忘れられても進む。」 以後、歴史改変系実験は禁止された。 ――――――――――――――――――― 八つの旧世界 現在確認されている事実。 対象は少なくとも八回、世界の終焉を経験している。 だがここで言う世界とは、 惑星ではない。 宇宙でもない。 次元でもない。 もっと大きい。 法則そのもの。 例えば、 ある世界では重力が存在した。 次の世界では存在しなかった。 ある世界では時間が流れていた。 次の世界では時間という概念自体がなかった。 ある世界では死が存在した。 次の世界では死が存在しなかった。 対象はそれら全てを横断している。 つまり。 Dingy past gloryは、八種類の現実を経験した存在である。 ――――――――――――――――――― 最深部記録 記録番号:LAST-01 艦体最下層。 通常ならば機関室が存在する位置。 しかしそこに機関は存在しない。 炉心も存在しない。 動力源も存在しない。 代わりに存在するもの。 巨大な部屋。 中央に一つの灯火。 それだけ。 炎は非常に小さい。 吹けば消えそうなほど弱い。 しかし。 観測班は理解した。 この灯火が消えれば、Dingy past gloryは止まる。 そして同時に理解した。 絶対に消えない。 なぜなら。 その炎には燃料が存在しない。 代わりに燃えているものがある。 無数の遺志。 ――――――――――――――――――― 存在定義 長年の研究の末、存在保全局は対象の定義を書き換えた。 旧定義【超大型戦艦】       ↓ 新定義【遺志運搬艦】 更なる研究の結果。 最終定義【終わらなかった約束】 ――――――――――――――――――― 最終追記 もし未来において、貴方が宇宙の果てで、世界の終わりで、誰もいない海を進む巨大な戦艦を見たなら。 攻撃してはならない。 進路を塞いではならない。 停泊を勧めてはならない。 慰めてもならない。 同情も不要である。 なぜなら。 あの戦艦は可哀想なのではない。 孤独なのでもない。 悲しいのでもない。 あれはただ、自ら選んだ道を進んでいる。 全てを失った後も。 全てが終わった後も。 ただ前へ。 ただ静かに。 ただ誇らしく。 その時は何も言わず、敬礼だけをしてやるといい。 きっと艦体のどこかで、誰にも聞こえないほど小さく、 古びた汽笛が鳴るだろう。 そしてDingy past gloryは、今日もまた。 無数の友人達の遺志を乗せて、 終わりの無い航海を続ける。