【舞い散る竜胆は紫霧の夜に】 貴殿が今回私に依頼をしてきた人でお間違いないでしょうか? 依頼内容は私の取材、こんなただの狼を取材して何になるんだか… まぁいいでしょう、隠すものでもありませんし 元々私はとある森で生きてました。 狼の獣人が集まった20人程度の小さな集落、狩りをして生きてきました。 4か5、何歳の時かは忘れましたが人間が森に攻めてきた事がありましてその時集落を襲われました。 貴方も知ってるのでは?10年程前に撤廃された「人間種以外の人権保持の禁忌」あれによって私たちは捕らえられました。 人権保持を許されない私たちはもはや奴隷と大差ない状態、私もそこで親や兄弟とはぐれました。今もどこにいるか、まず生きてるのか死んでるのかすら分かりません。 集落の中で1番若かった私は物好きな貴族に買われましてね、雑用から言葉に出したくないものまで、まだ雑巾の方が人権がありましたね。 13くらいになった頃にその貴族に飽きられたのかまた売られましてね、今度はなんとも怪しい教会に買われました。 そこは獣人を集めてるのか私以外にも大量の獣人がいましてね、ここの事務所で働いてる獣人の9割はあの教会で出会いました。 教会は表向きは薬剤を施す物だったようですが裏では私たちを使った実験ばかりでした。 私の一部の能力、これは先天性の能力では無くあの教会が魂に編み込まれた後天性の能力 取り出すことは不可能の地獄、適正の無い者は死んでいきました。 ですが貴族の元よりは生活は豊かで言葉を交わす機会もかなりありました。そしてその中で私は友と呼べるものに出会ったのです。 名はラル、明るく皆に生きる活力を与えている獣人の中でも誰よりも優しい子 私も手伝いたく二人で試行錯誤して少なくとも子供は保証される制度を教会に受理させました。 そこから3年程は獣人の扱いは良く、稀に戦場に叩き出されましたがその程度苦ではありません。 ですがある日を境に獣人が姿を消すようになりました。 どれだけ調べても消えた獣人の行方は分からない、何も出来ずに足踏みしている間にも1人2人と居なくなっていきました。 そして私の運命を変えたあの日、事件は起こったのです。 鳴り響く轟音と揺れる牢、爆風と共に檻の鉄格子が吹き飛び脱走のチャンスが巡って来たのだ。 私は同じ牢に入れられていた獣人達を逃がし、ラルを探しに教会内を走り回りとある研究室にたどり着いたのです。 獣人に神々の神秘を注ぎ込む研究、神秘を体内で生成し自分たちの都合のいい神を創り出す研究。 カルテの中には今まで居なくなっていった獣人や見たことの無い獣人達の写真とその上に書かれたバツ印、そしてその中から見つけたラルのカルテ ラルのカルテにはバツ印は着いておらずそして神秘の注ぎ込みが今日である事が書かれていた。 気付くと私は全速力で走り出していました。嫌な予感が全身を駆け巡り冷や汗が流れる。 振動が強くなり轟音の地点にたどり着くとそこには筋肉がアンバランスに肥大化した肉体と骨が見える程に溶けた頭、ぐちゃぐちゃに踏み潰された様にボロボロな片翼と背後に浮かぶ穢れたヘイロー、間違いないあれは神である。 神父やシスター達が魔法や道具でその神を攻撃するが神は痛がるだけでダメージは無い 振り回した腕が起こす風圧近くに立っていたシスターが2人風船のように弾け飛び、神父達も蹂躙されてゆく。 気がつくとその空間には私と神の2人だけ、崩れた天井からは月明かりが差し込み、異形の神は神々しく佇む。 神も私も動かない中私は気づいてしまった。溶けている顔、今までもよく見ていた顔、間違いない、いや間違えるはずがない、あれはラルだ。 注がれた神秘は器を超え溢れ出る、溢れた神秘は意思なき欲望となって広がり零れる。 私は神となったラルに近づいた、なぜだか攻撃されない気がしたからだ。 目の前に立ってもラルは動かない、そして心で理解する。ラルはもう戻ってこない。 私は先程までの場所に戻って腕を構えました。このままラルに罪を背負わせないために。 そこからは長く、そして辛い戦いが続きました。 どちらも攻撃を避けない純粋な殴り合い、痛みは無視し気合いで食らいつく、ラルもまた一歩も引かずお互いに殴り合う。 十、二十、三十とお互いを殴る。ラルと私の最後の対話。 2日ほど私達は殴りあった、終わらせたくなかった、この戦いを終わらせるとラルは完全に死ぬ。それをわかっていたが故に私は引けなかった。 だがどんなものにも終わりは来る。回復は間に合わず遂に私も膝を着き、ラルも私と同じくらいの大きさになる。 理解した、次の一発で全てが終わる。正真正銘最後の対話。 残っている全ての力を右腕に集める。否力だけではない、ここまで来るまでのラルとの思い出。良いものだけではなく全てを噛み締め一点に集める。 ラルも同じ考えだったのか力をため始める。終わりまであと…… 覚悟を決めて私は解き放つ。喜びも後悔も全部のせた最後のプレゼント。 お互いの拳が顔を捉える。思いという名のプレゼント交換は一瞬の静寂の後、ラルが倒れ終幕となった。 まぁこれが私が便利屋を始めるまでですね、今では懐かしい記憶ですが。 取材はこれでよろしいですか?ところでこんな私を取材した理由を聞いてもよろしいでしょうか? なるほど本の題材、でしたら事務所総出でもっと細かくお話しましょう。ラルにも見せたいのでね。 楽しみにしてますよ? 誰だって心に闇はある。 その闇をどう受け止めるか、それは本人が決めるもの。 従うか跳ね除けるか、それによって生じる道は無数にある。 だがどうか、欲望に溺れることの無い様に…… ちなみに、この後しっかりと本は出版され、出版と同時に事務所に来る仕事も増え、何故かイラストが送られてくる事が増えた。 そしてレクスとラルのBL同人誌が大量に出てきてレクスは頭を抱える羽目になるのはまた別のお話。