裏路地の夜が消えれば、裏路地は今よりも阿鼻叫喚の図へと変貌するだろう。つまり、裏路地の夜こそ裏路地の手綱だということだ。夜があるからみんな裏路地で最低限の人間らしい礼儀というものを払うことができる。 1つ例を挙げてみようか。今日も地獄みたいな1日を過ごして家に帰ってきたあなた。疲れ切った身体を引きずりソファーの上に寝転んで、安っぽいバラエティ番組を見ながら、ささやかな休息を楽しむ事を考えながら足を進める。しかし、なんということでしょう。上の階に住むとあるクソ野郎がスピーカーで音楽をガンガン掛け、わざと困らせようとでもしているかのような喧ましい音を出しながら天井を揺さぶる。楽しもうと思っていた休息はもう台無しに。振動が頭まで響いてくるあなたは、もうちょっと他人に配慮して静かに暮らしてくれ、と話をしにいくことにする。できれば争わないように話をつけたいあなたは優しい気持ちで上の階に行く。でもこの野郎は私に向かって訳の分からない事を言った。こっちも自由な時間を楽しまないといけないんだ、こっちだって我慢してるんだしお前も我慢して生きろ。そんなに大きくもない音で騒ぐな……。話にすらならない。でもどうしろと?沸き上がる感情をなんとか押さえつけて自分の家に帰り、枕で耳を塞いだままベッドの上で罵声を吐き捨てながら眠りにつく。建物の管理人もそうかぁと聞き流して良い顔をするだけだから誰かにぶちまけることもできない。 これでようやく裏路地の夜の出番が来る。とりあえず、あなたはその野郎が帰ってくる前にドアを塞ぐ。どんなもので塞いでも良い。溶接で塞ごうが木の板を釘で打ち付けようが、南京錠を掛けようが何でも良い。どんな方法を使ってでもその野郎が家に入れないように妨げて、あなたは家に帰る。しばらくして、自分の家の扉が塞がれているわけの分からない状況を目の当たりにしたあの野郎は扉を開けようと力を振り絞るが諦める。そしてこんな事をやらかしたヤツが誰なのかをゆっくり考えるのかのように、真剣な顔つきになる。どう考えても昨日トラブルのあったあなたしか居ないということを悟ったそのときにはもう遅い。あなたがレンガや重い何かで頭を殴ったからだ。今すぐ殺してしまえば当然規則に引っかかってしまうため、あなたはその野郎を連れて家に帰り、静かな休憩を楽しむ。 午前3時になればあなたはその野郎を外へと引きずって、適当に広い道端にでも捨てておく。13分になる前にあなたは家に帰り、窓からその場を眺める。3時13分。裏路地のどこからかうじゃうじゃ湧いてきた掃除屋が前にあるものを全部掃除しながら、うるさかったその人も片付けてくれるだろう。