勉強好きだったノーツは、同級生のミリィから度々いじめを受けていた。 ある日、ノーツが描いた怪物の絵を見つけたミリィは、それを笑いながら掲げて言った。 「怪物なんて描いてる。あんたの方が怪物じゃん」 ノーツは反論できなかった。 本当の怪物はお前だ。 そう思っていても、口に出す勇気はなかった。 そんな日々が続くうちに、ノーツは何度も彼女へ殺意を抱くようになる。 ⸻ それから幾年。 青年となったノーツは、遺伝子工学の分野で優秀な研究者へと成長していた。 そしてある日、彼は前人未到の偉業を成し遂げる。 新たな生命の創造。 生み出されたそれは、粘液質の身体を持つ異形の存在だった。 見た目こそ怪物そのもの。 しかし、その体はあまりにも脆弱だった。 大きさは膝下ほどしかなく、自力では生き延びることすら難しい。 他の生物へ寄生しなければ、やがて消えてしまうだろう。 成功のはずだった。 だがノーツの胸を満たしたのは達成感ではなく、深い失望と命への後悔だった。 研究所の仲間たちに断りを入れ、せめて最期だけでも見届けようと、その小さな生命を連れて帰路につく。 ⸻ 車を走らせながら、ノーツは考えていた。 何年もの研究。 積み重ねた努力。 その果てに生まれた命は、あまりにも弱かった。 やるせなさに任せ、アクセルを踏み込む。 その時だった。 一人の女性が視界に入る。 ミリィだった。 偶然にも。 まるで運命のように。 車の進行方向、その先に立っていた。 アクセルは踏んだまま、 「他の生物への寄生」 そんな言葉が脳裏によぎる。 ミリィがこちらを見た。 まだ止まれる。 まだ間に合う。 ――まだ。 ノーツは、天を仰いだ。 ⸻ その日から、ノーツの家には一人の女性がいる。 それは、かつて憎んだ相手。 それは、かつて生み出した愛しい命。 それは、怪物。 果たして今日もまた、怪物たちの奇妙な二人暮らしが続いている。