第一章:草原の震動と不吉な胎動(序盤) 見渡す限り、青々とした草が波打つ広大な草原。中世の風景を思わせるその静寂は、場違いな四人の男女によって破られていた。互いに目的こそ違えど、今はただこの地に集い、不可思議な緊張感に包まれている。 「ひぃ……! な、なんで私がこんなところに……。きっと、私みたいなゴミがいても、誰も気にしないと思うけど……キミたち、大丈夫かな……?」 灰色パーカーに身を包んだ少女、セードは、震える手で自らの身を縮めていた。かつて海を統べた古貴海竜としての矜持は、ある強者への恐怖によって完全に塗り潰され、今はただの臆病な少女として振る舞っている。だが、その瞳には時折、隠しきれない底知れぬ力が宿っていた。 その傍らで、聖職者の装束に身を包み、不気味な半面ガスマスクを装着した男、VeN.Xが冷徹に周囲を睥睨する。手には身の丈ほどもある、禍々しい緑青色の銅鎌が握られていた。 「……静かにしろ。不浄な震えが耳障りだ。神などという幻想に祈る暇があるなら、足元の不穏な気配に集中しろ」 冷酷な声が響く。彼にとって、この世界に救いなどない。あるのはただ、断絶させる力のみである。 一方、水色の毛並みを持つ狼の獣人、よっしぃは、どこか飄々とした様子で肩をすくめていた。彼は変わり者であり、同時に恐ろしいほどの忍耐強さを備えている。軽く拳を打ち鳴らし、いつでも飛び出せるよう重心を低く構えた。 そして、少し離れた場所で淡々と手帳にペンを走らせる人物がいた。イグジステンス研究員である。彼はこの状況を「観測」していた。研究服に身を包み、周囲の異変を詳細に記録する。彼自身は戦う意思を見せていないが、その腰には一本の刀が静かに添えられていた。彼にとって、ここにあるのはただの「サンプル」に過ぎない。 その時だった。地面が、不自然に大きく盛り上がった。 ドォォォォォン!! 爆発のような衝撃と共に、大地を突き破って「それ」は現れた。山のような巨躯、おぞましいほどに太い節を持つ芋虫のような生物――『大芽食らい』である。背丈の高い草をことごとく押し潰し、あるいは食い散らかしながら、その巨体が太陽を遮った。 「ひぎゃあああああ!? な、なに、あの化け物!! 助けてぇ!」 セードが悲鳴を上げて飛び上がる。しかし、大芽食らいは止まらない。その巨大な顎が、周囲の新芽をまとめて飲み込み、不気味な唸り声を上げた。その皮膚は異常に厚く、岩のように硬い質感を帯びている。 「……ふん、神なき世界に相応しい醜悪な虫けらだ。我が鎌で、その生を断絶させてやろう」 VeN.Xが静かに鎌を構えた。同時に、よっしぃが鋭い踏み込みで加速する。研究員は、手帳にこう書き記した。『被検体:大芽食らい。初動の攻撃性を確認。対応する異常存在の選定に入る』。 研究員の思考に呼応するように、空間が歪み、異形の存在が召喚される。 【異常存在:剛殻の守護者】 【異常性:あらゆる衝撃を吸収し、物理的な圧殺を無効化する硬質皮膚を持つ】 研究員が安全圏から指示を出すまでもなく、戦いの幕は切って落とされた。 第二章:硬い甲殻と錯綜する攻防(中盤) 「おおおおっ!」 よっしぃが咆哮と共に飛び出した。彼は自身の筋力を極限まで高め、大芽食らいの側面に肉薄する。「インファイト」――巨体の懐に潜り込み、全力の拳を叩き込んだ。ドゴォッ! と激しい衝撃音が響くが、大芽食らいの厚い肉壁に阻まれ、よっしぃの腕に激しい衝撃が跳ね返った。 「なっ、結構硬いな! でも、まだまだだ!」 よっしぃは止まらない。さらに筋力を上乗せし、今度は鋭い「ローキック」を巨躯の足元に叩き込む。バランスを崩した大芽食らいがよろめいた瞬間、VeN.Xが影のように滑り込んだ。 「消えろ」 【神嗤う死神の大鎌】。銅鎌が異様な軌道を描き、大芽食らいの側面を深く切り裂く。しかし、肉が厚すぎる。深い切り傷はできたものの、致命傷には至らず、逆に大芽食らいは激昂した。 「ギガァァァァッ!!」 被弾した大芽食らいが、巨体を生かして激しく暴れ出した。周囲の草地がなぎ倒され、土煙が舞う。近くにいたセードがその衝撃に巻き込まれそうになり、「ひぃぃ! ごめんなさい! 私が悪かったですから、どうか潰さないでくださいぃ!」と涙目で逃げ惑う。 だが、大芽食らいの攻撃は止まらない。突然、巨体が地面へと潜り込んだ。土煙が消え、静寂が訪れる。だが、それは嵐の前の静けさに過ぎなかった。 「どこへ行った……?」 VeN.Xが鎌を構え直した瞬間、彼の真下から大芽食らいが猛烈な勢いで突き出た。奇襲である。ガスマスクの男は間一髪で跳躍し回避したが、その勢いのまま、大芽食らいは地上へ戻ると同時に猛烈な「突進」を開始した。 「うわあああ!」 不気味な速度で迫る肉の壁。よっしぃが咄嗟に「氷生成」を行い、足場を固めて迎撃しようとするが、突進の威力は想定を超えていた。氷の壁が粉砕され、よっしぃは後方へ弾き飛ばされる。 「ふぅ……ふぅ……。やっぱり、私みたいな雑魚には無理なんだ……。でも……でも……っ!」 逃げ回っていたセードだったが、仲間たちが翻弄される姿に、心の奥底にある「海竜」としての本能がわずかに疼いた。彼女は震えながらも、無意識に指先から魔力を練り上げる。彼女自身は自らをゴミだと称しているが、その存在自体が天災に近い古貴海竜なのだ。 一方、研究員は冷静だった。彼は手帳に、大芽食らいの防御力と突進速度を記録し、次の駒を出す。 【特殊部隊:穿孔の猟犬】 【異常性:超高振動の牙を持ち、いかなる硬質皮膚をも容易く貫通させる】 「さて、次は『貫通』の検証だ」 研究員の冷徹な指示と共に、猟犬が戦場へ解き放たれた。猟犬の鋭い牙が大芽食らいの厚い肉に食い込み、ついにその巨体に深刻なダメージが刻まれ始める。 第三章:暴食の嵐と絶望の果てに(終盤) 戦いは泥沼化していた。よっしぃは「吸い取る」ことで傷を癒しながら何度も肉薄し、VeN.Xは死神の如き速さで急所を狙い、異常存在たちがその肉を削り取る。だが、大芽食らいはしぶとい。どれほど攻撃を受けても、その巨体は崩れず、むしろ怒りを増していく。 そして、ついに大芽食らいが「最終段階」に入った。 「ギィィィィィーーーッ!!」 地響きが草原全体を揺らした。大芽食らいはもはや特定の個体を狙うことをやめ、ただひたすらに暴れ散らかしながら突進する【暴食の突進】を開始した。それは攻撃というより、生きる災害そのものだった。回避不能な速度で、全てを蹴散らす肉の津波が押し寄せる。 「くっ、この速度……避けきれんか!」 VeN.Xが鎌を盾のように構えるが、その衝撃で後方へ激しく吹き飛ばされる。よっしぃもまた、全力で氷の防壁を築いたが、暴食の突進はその壁を紙のように引き裂き、彼を地面へと叩きつけた。 「あ……あぁ……」 セードは呆然としていた。目の前で仲間たちがなぎ倒される。その光景を見た瞬間、彼女の中で何かが弾けた。恐怖が、怒りへと変わる。いや、それは「守らなければならない」という、かつての支配者としての責任感に近い感情だった。 「……もう、いい加減にしてよぉ!!!」 セードの叫びと共に、彼女の周囲に猛烈な風が巻き起こる。藍色の鱗が淡く光り、臆病な少女の姿から、古貴海竜の威厳が漏れ出した。彼女は空へ舞い上がり、大芽食らいの突進ルートに真正面から立ちはだかった。 ドォォォォォン!! 正面衝突。草原に巨大なクレーターができ、衝撃波が周囲の草をすべてなぎ倒した。セードは心臓の古傷に激痛を走らせながらも、その巨体を力ずくで受け止めていた。 「今だ!!」 セードの隙を作った瞬間を、よっしぃが見逃さなかった。彼は自身の全ての生命力を攻撃に転換する禁忌の技「命懸け」を起動させた。全身から血が噴き出すほどの負荷をかけ、一点に集中した打撃を大芽食らいの頭頂部に叩き込む。 同時に、VeN.Xが空中で回転し、最大出力の断絶の一撃を放つ。そして研究員が放った【穿孔の猟犬】が、大芽食らいの心臓部を正確に貫いた。 「……チェックメイトだ」 研究員が静かにペンを置いた瞬間、大芽食らいの巨体がゆっくりと崩れ落ちた。山のような肉体が地面に激突し、長い沈黙が訪れる。 セードはそのまま地面に倒れ込み、「やっぱり……私、ダメダメだぁ……」と情けない声を出しながら、安堵に浸っていた。 * 【戦闘終了理由】 よっしぃの捨て身の攻撃、VeN.Xの断絶撃、および研究員が派遣した異常存在による同時多角的な攻撃が決定打となり、『大芽食らい』が完全に戦闘不能(死亡)となったため。