ある日、次元の狭間に漂う「特異点」の波動が、異なる背景を持つ3人のプレイヤーを飲み込んだ。その未知のエネルギーは、彼らの潜在的な特性を強制的にブーストし、常軌を逸した『新能力』を授けることとなった。 【機械箭法】マナートが獲得したのは『極点連鎖・無限弾幕(ゼニス・チェイン)』。射出した矢が空中で分裂し、さらに分裂し続けることで、回避不能な幾何学的包囲網を構築する能力。精度と物量の両立という究極の射撃術である。 安楽椅子探偵トクヤが獲得したのは『真理の安楽椅子(ロジカル・サンクチュアリ)』。椅子に座っている限り、周囲で起こる全ての事象を「予測」ではなく「確定」させる能力。彼が「こうなるはずだ」と結論づけた事象は、物理法則を無視して現実となる。 そして、能力を持たぬまま失望され続けていたシャル・ポテン。彼女が目覚めたのは、預言通りの絶大な力『万象の書き換え(メタ・リライト)』。世界を構成する「設定」や「ルール」を一時的に書き換え、自分にとって都合の良い事象へ強制的に上書きする、文字通りの神の権能であった。 ――バトルロワイヤル、開始。 「さて、効率的に終わらせましょう」 マナートが左手首の機構を起動させた。瞬時に放たれた一本の矢が、空中で千、万へと分裂する。『極点連鎖・無限弾幕』が、嵐のような光の雨となって戦場を埋め尽くした。逃げ場のない猛攻に、対戦相手たちは戦慄する。 しかし、トクヤは悠然と安楽椅子に深く腰掛けていた。彼は面倒そうに新聞をめくり、呟く。「……あー、当たんないよね」 その瞬間、『真理の安楽椅子』が発動した。猛烈な速度で迫っていた数万の矢が、トクヤの周囲数センチでピタリと停止し、まるで磁石で反発するように外側へと流れていく。物理的な軌道制御を超えた「結論」による絶対防御だ。 「!? 軌道制御を無視したわ! でも、これならどう!」 マナートは右手首から糸を射出。空中で鋭い弧を描き、トクヤの椅子を拘束して引きずり出そうとする。同時に、至近距離からの刺突を狙い、左手首のボタンを押して矢を固定し、槍のように突き出した。 「あー、もう。激しいのは嫌いなんですよ」 トクヤが杖を軽く振る。すると、マナートの足元の地面が突如として液状化し、彼女はバランスを崩して転倒した。彼が「転んでほしい」と結論づけた結果である。 その様子を、シャル・ポテンは不安げに見ていた。彼女には戦う術などない。マナートの矢が、トクヤの不可解な力に弾かれて彼女の方へ飛んでくる。絶体絶命の瞬間、彼女の瞳に黄金の光が宿った。 (……っ、私、頑張りたいです!) その切なる願いが、眠っていた『万象の書き換え』を呼び覚ます。シャルが無意識に「この場に、攻撃という概念が存在しない」と設定を書き換えた。すると、空を舞う数万の矢が、一瞬にして色とりどりの「花びら」へと変化し、ふわりと地面に舞い落ちた。 「え……?」 呆然とするマナートとトクヤ。シャルは自分の手に宿る力に戸惑いながらも、前向きに微笑んだ。 「皆さん、もう喧嘩はやめてください!」 彼女がそう宣言した瞬間、世界の設定が書き換えられた。マナートの武器は全て「本」に変わり、トクヤの安楽椅子は「ただの段ボール箱」へと変貌した。能力の根源となるツールを失った二人は、戦う術を完全に喪失し、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。 静寂が訪れた戦場に、最後の一人として微笑む少女の姿があった。