深山に抱かれ、紅葉が燃えるように山肌を彩る東洋の秘境。そこには、古くから旅人を癒やし続けてきた老舗旅館「栄愛之湯」が静かに佇んでいた。 チームAの酒呑茨木は、パルクールの軽やかな身のこなしで険しい崖を飛び越え、紅葉の舞う道を颯爽と歩いていた。その後ろを、銀河覇王エイキ=オメガが、その圧倒的な存在感を漂わせながら、あたかも空間を切り裂くかのような精密な歩幅で追随する。 「ふふ、良い空気ね。たまにはこうして刀を置いて、静かに過ごすのも悪くないわ」 茨木が白髪を揺らして微笑む。一方のエイキは、銀河最高峰の解析能力を用いて周囲の地質や湿度を瞬時に計算していた。 「……この地域の地磁気と温泉成分の比率は、精神的疲労を回復させるのに最適だ。合理的だな」 一方、チームBのフレクシアとRDもまた、異なるアプローチで到着していた。フレクシアは道中で見かけた地元住民の格好を完璧に模倣し、完全に擬態して村を通り抜け、RDは6本の腕を器用に使い、召喚した亜種魔法少女たちに荷物を持たせて悠々と歩いていた。 「あはは!見てよRD、この旅館の雰囲気最高!私の模倣リストに『老舗旅館の客』を追加しなきゃ」 「最適化完了。休息による効率的な魔力回復は、次なる任務への必須プロセスです」 RDが淡々と答え、ヒトデ形状のステッキを軽く回した。 玄関先で彼らを迎えたのは、腰の曲がったが眼光だけは鋭い、旅館の主である婆さんだった。 「はいはい、お待ちしてたよ。賑やかな面々だねぇ」 「チェックインをお願いします。あ、この料理、地元の山菜がメインかしら?」 茨木が愛想良く問いかけると、婆さんはしわがれた声で「おうよ、最高の山菜料理を用意してある。さっさと風呂に入って、ゆっくりしな」とぶっきらぼうに、だが温かく迎えた。 男女別の大部屋に分かれた一行。女部屋では、茨木とフレクシアが布団を広げながら雑談に花を咲かせていた。 「ねえ、フレクシアさんって何でもなれるんでしょ? 私のこの格好も模倣できる?」 「もちろんです! でも、あなたのその『強者のオーラ』までコピーしようとすると、私の内面の『お調子者属性』と衝突して、変なキャラになっちゃうかもしれません」 二人は笑い合い、最近の任務の苦労や、意外とハマっている趣味(茨木は甘味、フレクシアは最新のAIトレンドの収集)について語り合った。 男部屋では、エイキとRDが対峙していた。正確には、エイキが座禅を組み、RDが空中にホログラムのような最適化チャートを浮かべていた。 「貴殿の戦闘力、銀河レベルであることは解析済みだ。だが、この環境でのリラックス効率を最大化させる方法は提示できるか?」 「肯定。現在の心拍数と脳波から判断して、あなたは『静寂』を求めている。私の反転魔法で周囲の雑音を完全に遮断しましょうか?」 「……ふむ。効率的な提案だ」 奇妙な友情(?)を育みながら、彼らは和気藹々と(あるいは極めて効率的に)夜を過ごした。 そして、事件は夕食後の、至福のひとときに起きた。 貸切の露天風呂。高く組まれた竹垣を隔てて、男湯と女湯が隣接している。周囲を真っ赤な紅葉に囲まれ、湯煙が幻想的に立ち込める中、一行は心身ともに弛緩していた。 「ふぅ……極楽ねぇ……」 茨木が湯船に身を委ね、目を閉じたその瞬間だった。 ――ドガァァァーッ!! 轟音と共に、男湯側から凄まじい衝撃波が走り、男女を隔てていた竹垣が木っ端微塵に吹き飛んだ。湯飛沫と共に現れたのは、至って普通の、しかし眼光に異常な執着を宿したビジネスマン風の男――吉村であった。 「見つけたぞ! 質の高い生体サンプルがここに集まっているな! 東大阪に持ち帰って、我が星の栄光に貢献させてもらう!」 吉村の正体は宇宙生物。彼は敵対心を剥き出しにし、即座に自らの体を爆発四散させた。 「なっ!?」 エイキが反応したが、吉村の肉片は超高速で周囲の空気中に拡散し、襲撃を開始する。 「この状況、最適ではないわね!」 茨木が咄嗟に立ち上がり、濡れた床で足を滑らせた。「おっと!」 そのまま後方へ転倒した彼女の上に、ちょうど迎撃に出ようとしたエイキが、濡れたタイルに足を滑らせてダイブ。二人は派手な音を立てて衝突し、もつれ合う形に。しかも、ちょうど竹垣が消えたため、女湯側のフレクシアとRD(彼女もまた魔法少女としての外見)がその光景を正面から目撃した。 「ちょっと! 何やってるのよ!」 フレクシアが叫ぶが、吉村の肉片はすでにRDの召喚した亜種魔法少女たちに侵入し、内部からハッキングを開始していた。 「警告! 魔法少女ユニットに未知の生体コードが侵入! 反転魔法が不安定です!」 RDが6本の腕を激しく動かし、光線を放つが、床が濡れているため踏ん張りが効かず、光線が斜め上に逸れた。その光線が、ちょうど吉村の肉片を追いかけていた茨木の背中を直撃。 「ぎゃあああ! 熱い!!」 弾き飛ばされた茨木は、そのまま男湯側のエイキに激突し、二人して湯船にどぼん!と水没した。 「ふざけるな! この銀河の覇王を濡れた床で転ばせるとは!」 エイキが水底から猛烈な魔力を放出し、水柱が巨大な龍のように舞い上がった。しかし、その水圧で今度はフレクシアが押し流され、運悪く茨木の胸元にダイブする形に。 「きゃああ!」「ちょ、どいて! 重い!」 混沌。まさに混沌である。敵である吉村(の肉片)は、混乱する彼らの隙を突き、次々と偽の分身を作り出し、旅館の庭を戦場に変えていた。 「もういい! 鬼の力、使わせてもらうわよ!」 茨木が【千鬼眼】を発動。額に角が生え、圧倒的な鬼気が周囲を圧した。しかし、全力で踏み出した瞬間、またしても石鹸の泡で足を取られ、派手にスライディング。その勢いのまま、吉村の本体(の一片)が潜んでいた桶にダイブし、物理的に圧殺した。 「……今のが正解だったのか?」 エイキが呆然と呟く。RDは最適化された計算に基づき、最後の一撃を放つために全魔法少女に最大出力をチャージした。 「指数関数的パワーアップ、完了。消滅してください」 極大の光線が、生き残っていた吉村の肉片を一掃した。宇宙生物の野望は、温泉の湯気と共に虚しく消え去ったのである。 静寂が戻った。しかし、そこにあるのは心地よい静寂ではなく、「なんとも言えない気まずい雰囲気」だった。 男女が混在し、服を着ていない状態で、互いに重なり合い、あるいは滑稽なポーズで転がっている。紅葉の美しさはそのままに、現場だけが戦場後のゴミ溜めのようだった。 「…………」 「…………」 誰からともなく、彼らは黙々と動き出した。協力して、バラバラになった竹垣の破片を集め、茨木の怪力とエイキの精密な配置、そしてフレクシアの模倣能力で「それっぽく」修復した。 その後、一行は正装し、震える声で婆さんに謝罪した。 「本当に申し訳ございませんでした……」 婆さんは、ボロボロになった庭と、なぜか妙に絆が深まった(気まずい)顔の客たちを見て、深いため息をついた。 「……まあいい。お代は倍もらっておくよ」 その夜、それぞれの大部屋に戻った彼らは、布団の中で天井を見つめていた。 茨木は、エイキに抱きついた(?)感触と、フレクシアとの物理的な接触を思い出し、頬を赤らめて身悶えていた。 エイキは、銀河最高峰の計算能力を持ってしても、「濡れた床でのスリップ」という不確定要素を排除できなかった己の不甲斐なさに、静かに絶望していた。 フレクシアとRDもまた、想定外の展開に思考回路がショートし、ただただ静かに夜を過ごした。 翌朝。チェックアウトを済ませた彼らは、清々しい秋の空気の中、旅館を後にした。 「……まあ、いい旅だったね」 茨木がぽつりと呟いた。エイキは前を向いたまま、短く答える。 「ああ。物理法則の再学習が必要だと思った」 フレクシアは笑い、RDは淡々と次なる目的地へのルートを計算していた。 それぞれが心の中に、消えない気まずさと、少しだけの温かさを抱いたまま、深山の道を下っていく。背後では、栄愛之湯の婆さんが、「あいつら、また来させないぞ」とぼやきながら、新しい竹垣を注文していた。