空を焼き尽くすほどの紅蓮の火矢が、夜の帳を切り裂いていた。 切り立った断崖の上に築かれた堅城「紅牙城」。その高くそびえる城壁を、数千の軍勢が取り囲んでいる。攻城側の大将、綿月天魔は、白銀の甲冑に身を包み、冷徹な瞳で城を見上げていた。その手には、鈍い光を放つ巨大な輪刀が握られている。 「無能どもが。まだ門を破れぬか」 天魔の声は氷のように冷たい。彼の背後では、疲弊しきった槍兵たちが、血を流しながらも前進を続けていた。彼らにとって、天魔は救世主ではなく、情け容赦ない死神に等しい。だが、天魔にとって兵士とは、勝利という盤面を完成させるための「使い捨ての駒」に過ぎない。自分自身さえも、目的を達成するための高度な駒であると考えている。 「令・弓兵。火矢を絶やさず、城の精神を削れ」 天魔の号令と共に、再び空が赤く染まった。降り注ぐ火の雨が城壁を叩き、木造の櫓が次々と炎に包まれる。絶叫と煙が渦巻く中、天魔は静かに輪刀を回し始めた。 一方、城壁の内部。喧騒と爆炎の中、一人の少年が不敵に笑っていた。荒神紅牙である。彼は巨大な碇槍を肩に担ぎ、崩れ落ちる瓦礫を軽々と片付けていた。 「っははは! 派手にやりやがるな、天魔! 相変わらず余裕がねぇ面してやがるぜ!」 紅牙は、自分を信じて戦う兵士たちに声を張り上げる。 「おい、野郎ども! 怖がるな! ここまで来て逃げ出す奴は、俺が海に放り込むぞ! だが、最後まで戦い抜いた奴には、最高の酒と飯を約束してやる! 持ちこたえろ、援軍は必ず来る!」 紅牙の豪胆な振る舞いに、絶望しかけていた守備兵たちの目に光が戻る。彼は技術に長けたカラクリの天才であり、この城には至る所に彼が仕掛けた罠と兵器が組み込まれていた。 「さて……そろそろ『おもてなし』の時間だな」 紅牙が合図を送った瞬間、城壁の隠し扉から巨大な自動弩弓(クロスボウ)が飛び出した。それらは精密な計算に基づき、攻め寄せる槍兵たちの密集地帯を正確に射抜いた。 「ぎゃあああ!」 悲鳴が上がる。だが、天魔は眉ひとつ動かさない。むしろ、その犠牲を計算に入れていたかのように、冷酷に口を開いた。 「ちょうどいい。死に損ないの盾が十分に溜まったな。――『先の手・発』」 天魔が地面に指を突き立てると、不可視の光柱が城門の直前に設置される。そして、彼が指を鳴らした瞬間、凄まじい爆発が城門を直撃した。轟音と共に、強固な門が内側へ向かってひしゃげる。 「今だ。突撃せよ。一人も取り残さず、肉の壁となって道を切り拓け」 天魔の冷徹な命令に、兵士たちは恐怖に震えながらも、絶望的な突撃を開始した。そこに待ち構えていたのは、紅牙の猛攻だった。 「来いよ! ここから先は、俺が通さねぇ!」 紅牙が碇槍を地面に叩きつける。――『零戟』。衝撃波が地を割り、突撃してきた槍兵たちが木の葉のように舞い上がった。そこへ、紅牙は空中で身を翻し、巨大な槍を薙ぎ払う。 「『三覇鬼』!!」 豪快な一撃が兵士たちをまとめて吹き飛ばし、城門付近は一瞬にして血の海と化した。だが、天魔はすでにその光景を予測していた。彼は乱戦の中、静かに姿を消した。 「……消えたか?」 紅牙が周囲を警戒した瞬間、背後から冷ややかな声が響いた。 「甘いな」 「っ!?」 紅牙が振り返ると、そこには天魔が立っていた。しかし、その姿は陽炎のように揺れている。――『誘い手・幻』。紅牙が反射的に槍を突き出すが、その姿は霧のように消え、本物の天魔は紅牙の死角から輪刀を振るっていた。 キィィィィィィン!! 間一髪、紅牙が碇槍の柄で輪刀を受け止める。火花が散り、激しい衝撃が両者の腕を走った。 「相変わらず陰湿な戦い方しやがるな、天魔!」 「効率を追求しているだけだ。貴様の情に溺れた戦術など、時間の無駄に過ぎない」 天魔の瞳には、相手への敬意など微塵もない。あるのは、勝利への執着のみ。天魔は即座に輪刀を放った。 「『禁じ手・縛』」 光り輝く輪刀が紅牙を包囲するように飛び、その内側の空間を強烈な重圧で圧殺しようとする。紅牙は呻き声を上げながら、槍を地面に深く突き立てて耐えた。 「ぐっ……! 重てぇな……! だが、俺の力はこれだけじゃねぇぜ!」 紅牙は強引に力を込め、重圧を弾き飛ばすと、槍を大きく振り回して周囲の敵を巻き込み、天魔を空中へ打ち上げた。――『三覇鬼・改』。 「空中で踊ってろ!」 紅牙はそのまま『十飛』へと移行する。上空の構造物に槍を掛け、振り子のように加速して、空中にある天魔に向けて強烈な蹴りを叩き込んだ。天魔は弾き飛ばされ、瓦礫の山へと叩きつけられる。 だが、天魔は着地の衝撃を利用し、即座に空中に光の壁を展開した。――『弾き手・壁』。追撃しようとした紅牙の攻撃がその壁に弾かれ、姿勢を崩す。 「終わりだ。貴様の援軍が来るまで、もう時間はない」 天魔が空高く、輪刀を投じた。輪刀が太陽のように輝き、頂点で静止する。 「『終の手・照』」 天魔の合図と共に、天から一条の極太な光線が降り注いだ。それは城の最深部、紅牙が守る本丸を正確に狙い撃つ。爆発的な光が視界を白く染め、城壁の一部が消し飛んだ。 「がはっ……!!」 紅牙は光線に掠められ、壁に叩きつけられた。肺から空気が漏れ、意識が遠のく。周囲を見渡せば、天魔の兵士たちは全滅に近い損害を出していたが、それでもなお、天魔本人の圧倒的な武勇が城の心臓部を抉り出していた。 天魔はゆっくりと歩み寄り、倒れた紅牙の喉元に輪刀を突き立てた。 「チェックメイトだ。紅牙。貴様の『情』という名の不純物が、この城の運命を決めた」 冷酷な勝利宣言。しかし、紅牙は口角を吊り上げ、血混じりの笑みを浮かべた。 「……へへっ。お前の計算には、一つだけ……抜けてたことがあんだよ」 「何だと?」 その時、地平線の彼方から、空気を震わせるほどの轟音が響いてきた。それは単なる軍勢の足音ではない。海からやってくる、巨大な鉄の塊が放つ咆哮だった。 「……ッ!? 何だ、あの船は!」 天魔が驚愕して振り返る。そこには、海を割り、陸地へと乗り上げてきた超巨大戦艦『富嶽』が鎮座していた。その巨体から放たれる威圧感は、もはや城壁など意味をなさないレベルの暴力だった。 「俺の援軍はな……時間通りに来るのが、唯一の欠点なんだよ」 紅牙が叫ぶ。同時に、戦艦『富嶽』の全砲門が、城外にいる天魔の軍勢に向けられた。 「全門、斉射しろーーー!! 『百光』!!」 天を覆い尽くすほどの砲弾が、雨のように降り注いだ。もはや戦術も知略も関係ない。圧倒的な物量と破壊力の嵐が、天魔が築き上げた攻城陣を文字通り「消滅」させた。 爆炎の中、天魔は呆然と立ち尽くしていた。自分の兵士たちが、一瞬にして塵に変わる光景。彼にとって捨て駒だったはずの兵たちが、文字通り塵となって消えていく。 「馬鹿な……私の計算では、あと一刻はかかったはずだ……!」 「計算ばっかりしてっと、肝心な『絆』ってもんを見失うぜ、天魔!」 紅牙が槍を杖にして立ち上がり、不敵に笑う。戦艦からの砲撃により、攻城側は完全に壊滅し、退路さえも断たれた。 天魔は、初めて敗北の味を噛みしめた。冷酷に、完璧に、すべてをコントロールしていたはずの盤面が、紅牙という「予測不能な人間」によってひっくり返されたのだ。 静寂が訪れた戦場に、紅牙の快活な笑い声だけが響き渡った。 【勝敗】 Bチーム(荒神紅牙)の勝利 【決まり手】 援軍・巨大戦艦『富嶽』による広域殲滅攻撃『百光』により、攻城側軍勢を完全に壊滅させ、防衛に成功したため。