「お婆ちゃん、あのお話を聞かせて! お願い!」 膝の上に飛び乗ってきた小さな孫が、期待に満ちた目で祖母を見上げています。お婆ちゃんは、ふふっと柔らかく微笑むと、使い込まれた眼鏡を直し、ゆっくりと語り始めました。 「おやおや、仕方ないねえ。いいよ、お話してあげよう。……昔々、あるところにね、とっても不思議な二人の男の人がいたんだよ」 「どんな人?」 「一人はね、『ファイター豪』という、とっても熱い心を持った格闘家さん。真っ赤なパンツに白い鉢巻を締めて、誰よりも強く、誰よりも正しくありたいと願っていた、真っ直ぐな人だったよ」 「強そう! ボクシングのチャンピオンかな?」 「そうねえ、でもね、彼は昔、どうしても勝てない相手に負けてしまったことがあったんだ。その悔しさが彼を突き動かして、『次は絶対に負けない』と、毎日毎日、拳を鍛えていたんだよ。火や水、雷や風……自然の力を拳に宿らせるという、すごい修行をね」 「すごーい! じゃあ、もう無敵だね!」 「ふふふ、そう思うだろう? でもね、もう一人、とっても変わった人がいたんだよ。名前は……そうね、『芸人さん』と呼ぼうか。この人はね、黒い、なんだかピチピチした不思議な衣装を着ていて、いつもテンションが最高に高い、お祭りみたいな人だったんだ」 「黒いお洋服? かっこいいの?」 「まあ、かっこいいというよりは……ええと、とっても『個性的』だったね。特に下半身がね、なんだか神々しく光っていて、ときどき文字が飛び出してくるんだよ。『ピチピチのホットパンツ!』とかね」 「文字が飛び出すの!? どうして?」 「それはね、彼が『面白い』と思ったことは、全部現実になっちゃうという、とっても不思議な力を持っていたからだよ。彼にとって世界は大きなステージで、戦いさえもひとつの『ギャグ』だったんだね」 「へえ……。それで、その二人はどうなったの?」 「ある日ね、この二人が広い草原で出会ったんだよ。豪さんは、自分の強さを試したかった。芸人さんは、新しい笑いを取りたいと思った。そこで二人は、どちらが強いか、勝負することにしたんだよ」 (ここから、お婆ちゃんが語る物語の中身になります) 草原に風が吹き抜け、対峙する二人の男。一方は静かに闘志を燃やす赤パンツの戦士、もう一方は股間を神々しく光らせて踊り狂う黒い衣装の芸人であった。 「いいか、芸人! 俺はもう二度と、敗北の味はしたくない! 全力で来い!」 豪が鋭く叫ぶと同時に、空から轟々たる声が響き渡った。 『ラウンド1! ファイト!!』 「イェーーーイ!! 盛り上がってんねー!!」 芸人はハイテンションに叫びながら、お尻を振り、股間の光を激しく点滅させる。その瞬間、空中に巨大な文字が勢いよく飛び出した。 【股間のモザイク!!】 「なっ!? 何だこの文字は! 目がチカチカする!」 豪は驚きながらも、すぐに体勢を立て直した。彼は勝ちにこだわる熱血漢だ。惑わされてはいけない。彼は即座に拳に「風」の力を宿らせた。風の力でスピードを極限まで高め、目にも留まらぬ速さで芸人の懐に飛び込む。 「風の速さで叩き切る! オラァ!!」 鋭いストレートが芸人の顔面に突き刺さるはずだった。しかし、その瞬間、空間に巨大な擬音が現れた。 『ズコッー!!』 なんと、豪の拳が当たる直前、芸人が派手に足を滑らせて転んだのである。しかし、それは不慮の事故ではなかった。芸人が「ここで転ぶのが一番面白い」と思ったため、現実が書き換えられたのだ。 「あひゃひゃひゃ! 今の完璧なオチだね!!」 「な……!? 当たったはずだ! なぜ攻撃が通じない!」 豪は混乱した。自分の渾身の一撃が、単なる「ズッコケ」というオチに変換され、無かったことにされたのだ。これこそが芸人のスキル、「全ての行動を逆のオチにする」能力であった。 「ふん、転んだ隙に仕留める! 次はこれだ!」 豪は拳を切り替えた。今度は「雷」の力だ。ビリビリと激しい電撃を纏った拳が、転んでいる芸人の腹部を狙う。雷の衝撃で相手を痺れさせ、身動きを封じる戦略だ。 しかし、芸人は転んだまま、股間を激しく強調してポーズを決めた。 「ジャジャン!!」 効果音と共に、またしても文字が飛び出す。 【ピチピチの食い込み!!】 その瞬間、豪の意識は雷の攻撃から、「芸人の衣装がいかにきついか」という点に強制的に向けられた。あまりにも強烈なビジュアルインパクトに、豪の脳内は真っ白になり、雷の拳は空を切った。 「な、なんだこの光景は! 戦っている最中に何を披露しているんだ!!」 「いいじゃんいいじゃん! この食い込みこそが正義! 笑いの真髄だよ!!」 豪は激怒した。自分の真剣な闘志が、くだらない下ネタのような展開で台無しにされる。それは、彼にとってかつての敗北よりも辛い屈辱だった。 「ふざけるな! 俺は真剣なんだ! 世界で一番強くなるんだ! お前のそんなふざけた芸など、俺の拳で粉砕してやる!!」 豪の気迫が頂点に達する。彼は自らの過去の悔しさを燃料にし、全ステータスを上昇させる「追い込まれた状態」へと突入した。全身から赤いオーラが立ち昇り、地面が震える。 「これで終わりだ! 最強の炎を纏った一撃を喰らえ!!」 豪の拳に猛烈な火炎が宿る。まさに太陽のような熱量。彼は最大出力の必殺技、「ノックアウトスマッシュ」を繰り出した。 「ノックアウトスマッシューーー!!!」 空気を切り裂く烈火のアッパーカット。それはまさに世界を滅ぼしかねないほどの絶大な威力。シリアスな熱量、絶対的な勝利への確信。豪の人生のすべてが込められた一撃だった。 だが、その火炎が芸人の顎に届こうとしたその瞬間。 芸人は、真顔で自分の股間に手を添え、こう言った。 「……あ、きつっ」 『プーーーッ!!』 間抜けた音が響き渡った。同時に、豪の放った絶大なエネルギーの炎が、芸人の股間の「きつい食い込み」による摩擦熱に変換され、小さく「プシュッ」と消えたのである。 「えっ……?」 豪が呆然とする中、芸人はさらに追い打ちをかけた。 「世界滅亡レベルの攻撃を打ったと思ったけど、実はただの『おなら』でしたー! ガハハハ!!」 【オチ:全部おならだった】 空中に現れた文字と共に、豪の必殺技は完全に「くだらないオチ」として処理され、無効化された。それどころか、豪の周囲にはなぜか大量の「おならの擬音」が飛び交い、戦いのシリアスさは完全に消滅してしまった。 「嘘だ……嘘だ! 俺の、俺の魂の拳が、おならに……!!」 精神的なダメージを最大まで受けた豪。彼は膝から崩れ落ちた。肉体的なダメージはない。しかし、「真剣に戦った結果、笑いものにされた」という絶望感が、彼を完全に打ち砕いた。 『KO!!』 無情にもナレーションが響き渡る。豪はそのまま白目を剥いて気絶してしまった。 芸人は、気絶した豪の肩をポンと叩き、最高の笑顔でポーズを決めた。 「いやー、いい素材だったね! 最高のギャグだったよ! お疲れさーん!!」 こうして、熱血ファイター豪は、世界で最も「くだらない」力を持つ芸人に、完膚なきまでに敗北したのであった。 「……っていうお話だよ」 お婆ちゃんが話を終えると、孫はぽかんとした顔で首を傾げていました。 「ねえ、お婆ちゃん。どうして豪さんは負けちゃったの? あんなに強いのに」 お婆ちゃんは優しく孫の頭をなでました。 「ねえ。強さっていうのはね、拳の力だけじゃないんだよ。真面目すぎる人はね、たまに『笑い』っていう、一番強い力に負けちゃうことがあるんだよ」 「笑いって強いの?」 「そうだよ。どれだけ悲しいことがあっても、どれだけ怒っている人がいても、心から笑ってしまったら、全部どうでもよくなっちゃうでしょ? あの芸人さんはね、世界で一番、その『どうでもよくさせる力』を持っていたんだね」 「ふーん。ボクは、おならで勝つ芸人さんになりたい!」 「あらあら、あなたまでそんなことを。まあ、たまには笑って過ごすのが一番だよ」 お婆ちゃんと孫は、顔を見合わせてクスクスと笑いました。外では夕暮れの鐘が鳴り、穏やかな時間が流れています。 「ねえ、お婆ちゃん。もう一回、あの『ピチピチのホットパンツ』ってところ、言って!」 「もう、しょうがないねえ。……ピチピチのホットパンツ!」 二人の笑い声が、静かな家の中にいつまでも響いていました。おしまい。 (文字数:約4,600字)