もちもちの森と遍在の幻影 深い森の奥、霧が立ち込める古い広場に、二つの影が対峙していた。一方は、黒髪のボブカットに白いワンピースを纏い、うさ耳がぴょこんと揺れる小さな女の子、長餅もっち。赤い目が好奇心と悪戯心で輝き、彼女の周囲にはすでに不思議な木々が地面からにょきにょきと生え始めていた。もちもちの木――柔らかく粘つく、餅でできたような奇妙な植物が、広範囲に広がり、足元をベタベタと絡め取ろうとしていた。対するは、花鳥風月。姿は朧ろげで、花の香りを纏い、鳥の翼のような幻影が背に揺らめき、風のように流れるローブが月の光を反射する。彼女の目は全てを見透かすような深淵を宿し、静かな威圧感を放っていた。 「わーい、遊ぼうよー! もっちの木で、くっついて動けなくなっちゃうかなー?」もっちが天真爛漫に笑いながら手を叩くと、地面からさらにもちもちの木が無数に湧き上がった。木々は柔らかく白く、触れる者をベタベタと捕らえ、粘着力で動きを封じる。もっち自身は軽快にその間を駆け抜け、うさ耳を揺らして花鳥風月の周りを回り始めた。攻撃手段はない――彼女の戦いは、逃げ回り、挑発し、相手を木の罠に誘い込むものだった。 花鳥風月は静かに微笑んだ。彼女の「花」の力、情報超越操作が発動する。瞬時に、もっちの全てを読み取った。幼い少女の独特な感性、勘違いから真理に辿り着く謎のセンス、もちもちの木の性質――粘り強く、何でも張り付くベタベタの特性。そして、攻撃がない代わりに、逃げ回る軽快さ。花鳥風月の洞察眼が輝き、無礙自在の思考力が弱点を瞬時に探り当てる。「ふむ、君の木は厄介だね。でも、根源は単純。無効化するよ。」彼女の声は穏やかだが、絶対的な自信に満ちていた。 もっちは木の隙間から顔を出し、舌を出した。「えへへ、捕まえてみてよー! もっち、すぐ逃げちゃうもん!」彼女は飛び跳ね、もちもちの木をさらに増やした。木々が広場を埋め尽くし、花鳥風月の足元に迫る。ベタベタの枝が絡みつき、わずかに彼女のローブを汚した。花鳥風月は動じず、風の力を呼び起こす。「風」の因果律超越――過去への干渉から自由に脱却し、運命を操作する。彼女は手を振るい、木々が近づく因果を逆転させた。まるで時間が巻き戻るように、もちもちの木の成長が止まり、枝が萎れ始める。「君の木は、過去に遡ればただの種。そこから脱却させるよ。」 「わわっ、木がしなっちゃう! でも、もっちの木はもちもちだもん、へこたれないよー!」もっちは慌てて木の間を駆け、挑発を続けた。彼女の赤い目が輝き、悪戯好きの笑みが広がる。木の隙間から小さな石を投げ、花鳥風月の注意を引く。石はベタベタの粘液を纏い、命中すれば動きを制限するはずだった。花鳥風月は「鳥」の時空の超越を発動。時空間を完全支配し、敵の行為を不発化する。石が空中で凍りつき、時間が止まったかのように静止した。彼女の周囲に鳥の幻影が舞い、未来視がもっちの次の動きを予見する。「逃げても無駄。君の時間は、私が固定する。」 戦いは激しさを増した。もっちは木の森を盾に、軽快に跳ね回る。もちもちの木が次々と生え、広範囲を覆い、花鳥風月の進路を阻む。木の一本が彼女の足に絡みつき、ベタベタの粘着力で引きずり込もうとする。もっちは木の陰から叫んだ。「くっついたー! 今度はもっとベタベタにしちゃうよー!」彼女の戦略は完璧に機能し始めていた。花鳥風月が木を振り払おうと手を伸ばすと、枝が倒れ、もちもちの体が彼女の腕に張り付く。動きが制限され、精度の低い攻撃を強いられる状況――まさに、もっちの狙い通り。 しかし、花鳥風月は動じない。「月」の概念の超越が目覚める。根源にある原理や概念そのものに干渉し、消滅させる力。彼女の目が輝き、もっちの木の「粘着」という概念を歪め始めた。「このベタベタは、君の力の根源。でも、概念として消却する。」空気が震え、もちもちの木全体が概念レベルで崩れ始める。木々が溶けるように消え、ベタベタの粘液が霧散した。もっちの目が見開かれる。「ええー! もっちの木がなくなっちゃった! どうしてー?」彼女は慌てて新しい木を生やそうとするが、花鳥風月の「源泉を枯渇させる」力が介入。木の生成そのものが阻まれ、もっちの魔力が急速に削がれる。 「君の感性は面白いよ。勘違いから真理に辿り着くなんて、天才的だ。でも、私の力はそれを上回る。」花鳥風月が一歩踏み出す。もっちは必死に逃げ回るが、時空固定により足が重くなる。彼女のうさ耳が悲しげに垂れ、天真爛漫な声が震えた。「もっち、負けたくないよー! もっと遊ぼうよ!」木の残骸がベタベタと絡みつくが、もっち自身が今度は粘着の餌食に。彼女の勘違いのセンスが、皮肉にも自分の木に捕らわれ始める。 勝敗の決め手は、戦略的撤退の瞬間だった。花鳥風月の四つの異能が集結する。花の洞察で弱点を貫き、鳥の時空で動きを封じ、風の因果で運命を確定させ、月の概念で存在を消却。彼女は静かに手を翳し、もっちの意識を狙う。「これで終わり。君の木は、もう生えない。」無数の光の糸がもっちを包み、彼女の体が輝きを失う。もちもちの木の最後の残骸が崩れ落ち、広場に静寂が訪れた。もっちは地面に倒れ、赤い目が閉じられる。「うう…もっち、負けちゃった…」小さな呟きが、風に溶けた。 花鳥風月は静かに立ち、幻影のような姿を霧に溶かす。戦いは終わった。遍在の力が、もちもちの森を飲み込んだのだ。