ここは、次元の狭間に位置する「異界接続国際空港」。あらゆる世界から旅人が集うこの場所のセキュリティは、神の眼に匹敵するほど厳格である。特に、武器や危険物の持ち込みは厳禁。検知機に反応した者は即座に警備員に連行されるという、緊張感に満ちた空間であった。 待機列には、およそ接点のない四人の異形と人間が並んでいた。 先頭に立つのは、全高5メートルという絶望的な巨躯を誇る怪物、奇面女である。数多の触手を生やし、不気味に浮遊するその姿に、周囲の旅人たちは悲鳴を上げて距離を取る。彼女は絶望に満ちた瞳で、ただ静かに、あるいは誰かに終わらせてほしいという願いを込めて「ウ…ウ…ウ…」と低い声を漏らしていた。 その後ろには、銀髪に碧眼の少年、銀鏡智。彼は極めて冷静に、手元のタブレットで検知機の仕様を分析していた。その隣には、和服風の黒い諜報服に身を包み、陽気に鼻歌を歌う少女、大蜘蛛鈴香。そして最後尾には、肌に溶岩の亀裂を持つ豪快な女、ガルディナが、退屈そうに自分の腕を噛んでいた。 「あははぁ〜♪ 緊張しちゃうねぇ。でも、ここを通らなきゃ美味しいお菓子が待つ国に行けないもんね」 鈴香が軽やかに話しかけるが、智は視線を上げずに答える。 「…作戦を練る時間があるなら、装備の再確認を推奨するよ。あの検知機は魔力反応まで拾う可能性がある」 「ま、なんとかなるっしょ! アタシは気にしねえよ!」 ガルディナがガハハと笑い、地響きのような声を出す。そんな喧騒の中、奇面女だけが、ただひたすらに虚空を見つめていた。 ――そして、運命の検査が始まった。 一人目、奇面女。彼女が検知機のゲートをくぐろうとした瞬間、警備員たちが凍りついた。その姿自体が「危険物」の塊に見えたからだ。しかし、彼女は武器を持っていない。触手は身体の一部であり、口から吐くメタンガスも生理現象である。金属製の武器を一切所持していないため、検知機は静まり返ったままであった。 「……通れ」 警備員の震える声と共に、奇面女は「ウ……」と小さく呟き、幽霊のようにゲートを通り抜けた。彼女にとって、この静寂こそが救いだったのかもしれない。 二人目、銀鏡智。彼は最も危うい状況にあった。彼が所持しているM24SWSやTAC-50といった高精度狙撃銃は、紛れもなく最高危険物である。しかし、智の表情は変わらない。彼はゲートをくぐる直前、スキル『アクアプリズム』を極小規模に展開。光を屈折させ、自身の所持品を視覚的に消し去ると同時に、水銀の魔導核石を用いて銃の金属成分を一時的に液状の水銀膜でコーティングし、魔力的な「擬態」を施した。 ピッ、という小さな音が鳴りかけたが、智は瞬時に『ブラッドコントロール』で自身の心拍数を極限まで下げ、検知機の波形に同調させた。結果として、検知機はそれを「ただの体液の揺らぎ」と誤認し、静かに彼を通過させた。 「先ずは様子見かな……。ふぅ」 三人目、大蜘蛛鈴香。彼女は笑顔でゲートに向かう。だが、彼女の体内――腕の甲、踵、手の甲には、猛毒剛鉄の刃が仕込まれている。さらに、三三式暗部専用火縄拳銃という物理的な武器を隠し持っていた。彼女はゲートに入る直前、諜報員としての隠密技術をフル活用した。衣服の繊維に特殊な遮蔽剤を塗り込み、さらに「和剛繊維」の特性を利用して金属反応を外部へ漏らさないよう密閉。さらに、精神的な「陽気な振る舞い」で警備員の注意を逸らし、意識的に重心をずらして通過した。 「あははぁ〜♪ なんとなく通っちゃった!」 最後に、ガルディナ。彼女にとっての最大の問題は、自身の身体そのものが「溶岩」であり、さらに強力な武器『火之迦具鎚』を生成できる点だった。彼女は豪快に笑いながら、あえて「小柄な姿」に可変。そして、体内の溶岩温度を一時的に急低下させ、金属反応が出やすい熱量を最小限に抑えた。武器となる大鎚は、あえて「口の中」に圧縮して飲み込み、胃袋という名の溶炉で一時的に溶解・同化させたのである。 「ふん、こんな機械ごときに負けてられるかよ!」 ガチャン、と音がして、彼女もまたゲートを通り抜けた。 結果、四人全員が警備員に連行されることなく、無事に検査を通過した。 勝敗の決め手となったのは、奇面女の「純粋な無武装」、智の「科学的・魔術的な擬態」、鈴香の「プロの隠蔽術」、そしてガルディナの「身体可変による内部吸収」であった。武器を所持しながらも、それを「持っていない」ことにした、あるいは「身体の一部」にした彼らの機転が勝利を呼び込んだのである。 四人は出口のゲートで、互いに顔を見合わせた。種族も目的も異なる彼らだったが、この奇妙な緊張感を共有したことで、どこか奇妙な連帯感が生まれていた。彼らはそれぞれの旅路へと、静かに歩き出した。