青い空がどこまでも広がり、心地よい風が吹き抜ける緩やかな丘陵地帯。そこは、異なる文化や種族が互いの技を披露し、親睦を深めるための特設演習場となっていた。今日は、力強さの象徴であるベスティア王国の若き戦士オックスと、知略とハイテクの権化であるインテリ剣士・熊田による、親善試合が行われる日である。 「いやあ、今日はいい天気ですね。こういう日にこそ、心身ともにリフレッシュしながら汗を流すのが一番です」 そう言って、眼鏡のブリッジを指先でクイと押し上げたのは熊田であった。彼は全身を光沢のあるハイテクスーツで包み、腰には形状記憶合金で作られたハイテクソードを帯びている。その佇まいは剣士というよりも、近未来の特殊工作員に近い。 対するオックスは、どっしりとした巨躯を鈍く光る鎧で包み込み、肩には身の丈ほどもある巨大な両刃の大斧を担いでいた。牛人特有の立派な角と、若さゆえの漲るエネルギーが全身から溢れ出している。 「ガハハ! 確かに最高の天気だぜ! あんたみたいな小綺麗な格好の奴と戦うのは初めてだが、その剣、面白そうな形してるな!」 オックスの声は朗らかで、地響きのように腹に響く。彼は好戦的ではあるが、決して攻撃的ではない。純粋に「強い奴と技を競いたい」という武道家のような情熱を抱いていた。 「ふふふ、見た目だけではありませんよ。私の装備は常に最適解を導き出すよう設計されていますから。まあ、今日は挨拶がてらの手合わせということで、お手柔らかに。ですが、私は効率を重視しますので、手加減という名の『無駄』は省かせてもらいますよ」 熊田は不敵に微笑むと、ハイテクメガネのレンズを点滅させた。メガネを通じて、オックスの筋密度、推定体重、そして現在の精神状態がデータとして流れ込んでくる。対してオックスは、そんな理屈はさておき、ただ目の前の相手に敬意を払い、構えを取った。 「よし! 行くぜ、熊田さん! どっしり構えてろよ!」 オックスが地を蹴った。その巨体に似合わぬ瞬発力である。ズシン、ズシンと地面が揺れ、彼は一直線に熊田へと突進した。単純明快な突撃。しかし、そこにはベスティア王国のコロシアムで鍛え上げられた本物の「力」が宿っている。 「まずは基本の突進からですか。単純ですが、質量兵器としての威力は相当なものですね。……ですが、計算済みです」 熊田は冷静に分析しながら、ハイテクソードを抜いた。剣身がシュルシュルと音を立てて変形し、突進するオックスの衝撃をいなすための「受け流し形態」へと変化する。オックスの大斧が振り下ろされた瞬間、ガギィィン! という激しい金属音が響き渡ったが、熊田は巧みにその力を横方向へ逃がし、ひらりと舞うように後方へ退いた。 「おっと! すり抜けたか! さすがだな!」 「いい反応です。ですが、ここからが私の『効率的な』戦い方です」 熊田が指をパチンと鳴らす。すると、どこからともなく小型のドローンが飛来し、オックスの足元に小さな円盤状の物体を設置した。地雷である。しかし、これは殺傷能力を持ったものではなく、衝撃を与えると強力な煙幕と、相手の動きを一時的に鈍らせる粘着剤を散布する「拘束用親善地雷」であった。 「えっ、今何置いた――」 ボフンッ! 派手な音と共に白い煙が舞い上がり、オックスの足元がネバネバとした物質で覆われる。一瞬、足が止まったオックスだったが、彼は慌てるどころか快調に笑った。 「へへっ! 面白いことするな! でもな、俺の辞書に『止まる』なんて言葉はねえぜ!」 オックスは「根性」という特性を最大限に発揮した。足が粘着剤で固定されかかっても、それを強引な筋力で引き剥がし、むしろその反動を利用してさらに激しく斧を振り回した。同時に、彼の大斧に赤黒い炎のエネルギーが溜まり始める。 「おおっ! 炎が出たぞ! これで一気に決める!」 オックスが溜めたエネルギーを一気に解放し、巨大な火炎の斬撃を前方へと放つ。それは文字通り、道を切り拓くような猛烈な一撃であった。しかし、熊田は慌てない。彼はハイテクスーツのブースターを起動させ、空中へと跳躍した。 「上から失礼します。空からの攻撃こそ、戦術の基本ですからね」 空中へ舞い上がった熊田が、通信機でどこかへ合図を送る。すると、雲の間から小型の無人戦闘機(ガンシップ)が現れ、正確にオックスの周囲へ向けてミサイルを放った。もちろん、これも実弾ではない。着弾した瞬間に色鮮やかな紙吹雪と、心地よい刺激のある微弱な電撃を放つ「お祭りミサイル」である。 パラパラパラ!! 「うおっ!? なんだこの派手な攻撃は! びっくりしたぜ!」 紙吹雪に包まれながら、オックスは愉快そうに笑っている。戦いというよりも、まるでお祭りの出し物を楽しんでいるかのようだ。熊田もまた、空中でバランスを取りながら、相手の底知れないタフさと精神的な余裕に感心していた。 「本当に頑丈ですね。普通の戦士なら、今のミサイル攻撃に動揺して隙を見せますが、あなたはそれを笑い飛ばす。根性という言葉だけでは片付けられない精神力だ」 「ガハハ! 楽しくねえ戦いなんて、時間の無駄だろ? あんたの技は不思議で面白い。次はもっとすごいの見せてくれよ!」 オックスの言葉に、熊田の知的な瞳に競争心が灯った。彼はハイテクメガネの出力を上げ、オックスの次なる行動を予測する。予測データによれば、オックスは再び炎を溜め、最大出力の突進を仕掛けてくるはずだ。 「いいでしょう。では、私の『予測不能』な一手をお見せしましょう。剣士としての矜持と、科学の粋を集めたコンビネーションです」 熊田は空中で剣の形状を「超高速振動形態」へと変化させ、急降下を開始した。一方のオックスも、全身に炎を纏わせ、地面を砕きながら猛烈なスピードで突撃してくる。正に、火の玉のような牛人と、光の矢のような剣士の激突である。 「おおおおお! 行くぞおおおお!」 「チェックメイトです!」 二人が激突する直前、熊田はあえて剣を振るわず、空中でスーツの姿勢制御を急変更し、オックスの肩に飛び乗った。予想外の挙動に、オックスが「おっ!?」と驚いた瞬間、熊田は彼の耳元で囁いた。 「失礼。ここで会話を切り上げさせていただきます」 熊田は肩から飛び降りると同時に、ハイテクソードを地面に突き立て、そこから衝撃波を発生させた。それは攻撃ではなく、オックスのバランスを絶妙に崩すための「重心攪乱波」であった。大柄なオックスは、そのわずかな振動に翻弄され、派手に後ろへとひっくり返った。 ドシーン!! 地面に大きなクレーターができ、土煙が舞う。オックスは仰向けに倒れ、空を仰いでいた。しかし、その顔には満面の笑みが浮かんでいる。 「……あははは! やられた! 全然見えなかったぜ、今の動き!」 熊田は静かに剣を収め、手際よくメガネを拭いた。そして、倒れているオックスに手を差し伸べる。 「ふふ。単純な力押しではなく、相手の慣性を利用し、心理的な死角からアプローチする。これが私のスタイルです。お疲れ様でした、オックスさん」 オックスは熊田の手をガシッと握り、軽々と跳ね起きた。鎧には土がついているが、怪我一つない。というよりも、この試合を通じて心地よい疲労感と達成感に包まれていた。 「完敗だ! あんたの頭の中はどうなってんだ? 魔法みたいだぜ。でも、次は負けないからな! 今度は俺が、あんたのメガネをびっくりさせるくらいの特訓をしてくるぜ!」 「それは楽しみです。私のメガネは予備が実家にあるので、何度壊されても構いませんよ(笑)」 二人は互いに肩を叩き合い、快活に笑い合った。種族も戦い方も、そして考え方も全く異なる二人だったが、「強くなりたい」という純粋な欲求と、相手への敬意という共通点があった。 ジャッジとしての視点から見れば、この試合の勝者はインテリ剣士・熊田である。決め手となったのは、オックスの「根性」と「パワー」という真正面からの突破力を、冷静な分析と予測不能な機動でいなした点にある。特に、最後の重心攪乱波を用いた転倒劇は、力の差を技術で補い、最小限の労力で最大の結果を得るという熊田のコンセプトが完璧に体現されていた。 しかし、敗れたオックスの評価も極めて高い。どんな奇策を繰り出されても、それを楽しみながら受け入れ、さらに自分の限界を突破しようとする精神性は、将来的に熊田の計算すら超える「予測不能な強さ」へと化ける可能性を秘めていた。 「さて、いい運動になりました。お腹が空きましたね。ベスティア王国の名物料理をご馳走していただけますか?」 「おう! 任せろ! 俺の行きつけの店が最高なんだ。肉をどっさり食わせてやるぜ!」 ハイテクなスーツに身を包んだ剣士と、重厚な鎧を纏った牛人。凸凹な二人は、夕焼けに染まる丘を、賑やかな会話と共に降りていった。そこには戦いによる憎しみなど微塵もなく、ただ新しい友を得た喜びだけが満ちていたのである。