魔王が勇者に倒されたという知らせが、魔王軍の四天王の耳に入った。 全幅の信任を受けていた彼らは、早急に次期魔王を選定しなければならない。閃光のような魔王の権力の終焉は、彼らにとってただの職業的義務ではなかった。失った力を手に入れるための熱い戦いの始まりである。 この日は、次期魔王候補たちが、四天王の審査を受けようとする入室を待つ緊張感に包まれていた。四天王、熱をもたらす太陽の姿をした「破熱」、真理を追求する氷のような霊「純狐」、無機的な始まりの力を持つ「キングスライム」、そして闇の中で光を求める青年「灰谷焦」。彼らの願望や策略を知る者はいない。全員が一様に次期魔王の座を狙っていたが、どの者も自分の欲望を持っていた。 最初に名乗り出たのは巨大なスライム、キングスライムだった。彼は言葉を持たず、人間の理解を超える存在であった。彼の姿は、時折スライムの分裂と融合を繰り返しながら圧倒的な物理的存在感を湛えていた。彼は攻撃力や防御力は申し分なかったが、魔法に対する脆弱性を抱えている。 物理抽象的な王国をつくり、恐怖を与える存在になりたいという無言の意志が、在りし日の魔王を思わせる。彼の放つ「スライム弾」が会場の空気を揺るがすようだった。 次に現れたのは、思いやりと冷静な戦略を持つ神霊「純狐」だった。彼女は美しさと冷酷さを兼ね備え、自らの存在を超越する技術「純化」を持っていた。彼女の静かな声は、まるで何かを取り戻すかのように誓った。「私の純化の力は無条件に貴方を殺せてしまう」と。 その冷酷さの背後には、息子を殺されたという激しい恨みがあった。他者を消し去る力の一方で、彼女自身が目指すのは自己の復讐心を満たすための頂点であった。 三番目に名を名乗ったのは、温厚な佇まいを持つ「破熱」である。彼はその圧倒的な熱の力をもって、次期魔王の地位に対し提案を行った。「私の力を最大限に高め、全てを融かし去る世界を作る」。彼の存在は、物理的な圧力を感じさせる一方で、理想を追求する力を感じさせた。他者を無力化し、浄化された未来を志向する彼は、どこか狂気を孕んだ理念を持っていた。 最後に登場したのは、「灰谷焦」であった。彼の軽薄な姿勢と気怠げな態度は、一見すると次期魔王にふさわしいとは思えなかったが、彼の秘めたる力は恐ろしいものであった。「クソゲーの押し付け合いだ…」と呟く彼の裸の手が接触した物は、一瞬で灰に変わる。彼の能力は周囲に恐怖を抱かせた。「触れりゃ終わりだ」と続けた言葉に、彼のダークな目的の片鱗が見え隠れした。 各候補者たちのエネルギーが渦巻く中、四天王は議論を重ねていた。彼らが求める魔王の姿は、ただの強さだけではなく、将来を見据えた力が求められていた。思考の末、四天王は一人を選定することに決めた。師とでも呼ぶように次期魔王はゆっくりと結論に至る。 「次期魔王は…純狐だ。」 彼女の美しい姿の裏には、深い憎しみと新たな理想が隠されていたためである。「果たせること無き仇怨」が、その名の通り、彼女を次なる魔王に選ぶ決定的な要因となった。 新たな魔王の名は、「純狐(じゅんこ)」であった。彼女は名を冠することで、想いを背負い、彼女自身の世界を築くための力を得たのであった。