日常と非日常の訪れ 都心の喧騒から少し離れた場所に位置する、古びた雑居ビルの一室。そこが彼らの「事務所」である。表向きは便利屋やコンサルタントを装っているが、実態は現代社会の隙間に潜む超常的な脅威――一般人では不可解で、警察や自衛隊では対処し得ない「事象」を処理する専門組織であった。 窓際で、テン・サーイは手元のタブレット端末を高速で操作していた。彼の周囲には、緻密に計算されたスケジュール表と、世界各地の異常気象や失踪事件のデータがホログラムのように浮かんでいる。彼にとって、世界は情報の集合体であり、最適解を導き出すための数式に過ぎない。 「さて……次の依頼が来たよ」 テンの言葉に、ソファで静かに目を閉じていた秘灯之華が、薄く目を開けた。黒い和服に身を包んだ彼女の美貌は、どこかこの世のものとは思えぬ儚さと、底知れない死の香りを纏っている。腰に差した妖刀『彼岸灯師』は、呪封の覆帯にしっかりと巻かれているが、それでも時折、意思を持つ生き物のように小さく震えていた。 「依頼……? 冥灯はちょうど退屈していたところだよ。何が起きたのかな」 彼女の隣では、元メイドのメイリが、持参した小さな植木鉢の薔薇に熱心に話しかけていた。彼女は時折、自分の不器用さから水をこぼし、慌てて掃除を始めるが、その指先から零れる生命力は、周囲に心地よい花の香りを漂わせていた。 そして、部屋の隅で軍服を完璧に着こなしていたレラ・ユウギが、三七式携帯型分隊支援火器の整備を終え、ガチャンと金属音を鳴らして立ち上がった。鋭い茶色の瞳には、戦場での経験に裏打ちされた冷徹さと、揺るぎない大和魂が宿っている。 「準備は万端です。どのような敵であろうと、天草の露と消し去りましょう」 テンが画面を操作し、依頼の詳細を共有する。 【依頼種類:2(解明)】 【難易度:特級(A+)】 【依頼詳細:『鏡合わせの忘却都市』の解明と封印】 都内にある特定の廃ビルに入った人間が、物理的に消滅し、代わりに「その人物の記憶を完璧に模倣した、感情のない人形」が戻ってくるという怪異が発生している。被害者は既に12名。人形は社会に溶け込んでいるが、ある一定時間が経過すると、周囲の人間から「記憶」を吸い取り、完全に消滅させる。この都市構造の歪みを解明し、元の人間を救出、あるいは事象を封印せよ。 【報酬:1億5千万円 および 希少な霊的触媒(秘灯之華用)、高純度肥料(メイリ用)、最新型弾薬(レラ用)】 「記憶の置換、そして吸収……。物理的な破壊ではなく、論理的な矛盾を突いて空間を崩壊させる必要があるね」 テンの目が、獲物を捉えた天才のそれに変わった。