静かな闘技場、四方を囲む観客の熱気を感じながら、こんにゃくはじっと立ち尽くしていた。周囲の鋭い視線を受けても、その表情は変わらない。彼女は「食材としての存在」を全うするために、ただ静かに存在し続ける。表面には「乙」の焼印が燦然と輝いている。その様子は、まるで普遍的な静けさそのものであった。 一方、対する「絶世孤独の傭兵」アッシュは、鋼鉄の大剣を手にしていた。彼の瞳は鋭く、戦う意志を隠し持っている。そして、周囲の空気を切り裂くような重厚な構えを見せる。父の遺した大剣は、彼にとって誇りそのものだった。 「食材よ、覚悟はできているか?」アッシュが語りかけた。 「味わってもらえるよう、努力するのみ。」こんにゃくは無言でそのまま立ち続ける。何も語らず、その存在を証明しようとしているのだ。アッシュは彼女の返事に少し驚いたが、すぐに気を取り直し、剣を振りかざした。 「行くぞ!」 アッシュは猛然と大剣を振り上げ、その勢いを乗せて一撃を放つ。しかし、こんにゃくはその攻撃をつるりとかわす。表面の滑りやすさが、驚くほどの防御力を発揮したのだ。攻撃を外したアッシュは、その瞬間に無駄に終わったことを悟った。 「つるつるだな、まったく!」 こんにゃくは静かに、その存在の重みを示し、立ち続ける。アッシュは次第に焦りを感じ始めた。彼の動作には、戦闘経験からくる洗練された技術があったが、こんにゃくの意志を屈服させるには至らない。新たな戦略を練りつつ、大剣を振るう彼の姿は、まるで先に進むことができずにいるように見えた。 「どうした、まだ本気を見せていないのか?」アッシュは声を荒げた。言葉に圧を感じながらも、こんにゃくは何も返さない。その静けさは、逆にアッシュの心に重くのしかかった。 「まだやれるはずだ!」再度、アッシュは溜めを入れた。彼の周囲に渦巻く気を堪えるようにすると、彼は一気に大剣を振り下ろした。凄まじい風圧とともに、こんにゃくの周囲は一瞬で切り裂かれ、地面に亀裂が走る。 しかし、こんにゃくはまたもやその一撃を滑るようにかわした。この時点でアッシュの心の内に苛立ちが募る。 「そんなにも動かないのか!?」 「食材としての運命を受け入れるのみ。」こんにゃくの声は静かに響いた。彼女を前にして、アッシュは見えない壁にぶつかるようだった。 絶望感と共に、アッシュはブラフを使う決断をする。「振りかぶると見せかけて、次の溜めに移る。」彼は意図的に剣を放り出して空振りを装い、次の一撃への土台を作った。 しかし、こんにゃくは静かに立ち続け、その場から動こうとはしなかった。アッシュは混乱し、次に何をしたらよいのか答えが見つからなかった。その瞬間、アッシュは彼女に動かない存在として立ち続ける不屈の意志を感じた。 アッシュは心の限界を迎え、最後の一撃を決意した。彼は全力で剣を振り上げ、集中した気を一点に集め、鬼のような勢いで振り下ろした。 その一撃がこんにゃくを打つ瞬間、彼女はそのまま静かに立ち続け、何事もなかったかのように、崩れることなく立ち続けた。 アッシュは呆然とした。断固とした存在なこんにゃくは、その存在感を証明したかのように、微動だにしなかった。アッシュの力強い一撃は、無情にも通り過ぎてしまった。 「終わりだ、これでは……。」 そして、アッシュは剣を地面に突き刺し、観客の視線を受けながらそのまま立ち尽くした。彼の心には敗北感が広がり、反論の余地も無い静かな決定的敗北を受け入れざるを得なかった。 勝敗は決した。こんにゃくは、彼女の存在でアッシュを打ち負かしたのだった。