空は鉛色に塗り潰され、太陽の光は厚い雲に遮られていた。かつて文明の象徴であった都市は、今やコンクリートの骸と、腐敗した肉の臭いが漂う墓場へと成り果てている。 世界を飲み込んだゾンビウィルス。それは単なる病ではなく、死者を歩かせ、生者を貪る地獄の呼び水だった。生き残った者たちは、絶え間ない絶望と疲労に身を削り、ただ「明日」という不確かな時間を買い戻すために戦い続けていた。 【荒廃したコロニー】 錆びついた鉄柵と、放置された輸送コンテナが乱雑に並ぶエリア。ここには比較的物資が残っているが、それゆえに飢えた死者たちが徘徊している。 「……あー、もう。最悪。なんで私がこんなところで泥にまみれなきゃいけないわけ?」 白石瑞希は、場違いなセーラー服の裾を払いながら、気怠げに呟いた。その手には、重量感のある対霊小銃が握られている。彼女の周囲には、皮膚が剥がれ落ち、白く乾いた骨が露出したゾンビたちが、喉を鳴らして集まってきていた。 「グガァ……アアアッ!」 一体のゾンビが、顎を外したまま猛然と飛びかかる。瑞希は視線すら向けず、流れるような動作で対霊拳銃を抜き、その眉間に弾丸を叩き込んだ。パァン! という乾いた音が響き、ゾンビの頭部が物理的かつ霊的に飛散する。 「仕事効率が悪すぎる。誰か、まともな人間はいないの?」 彼女が溜息をついたその時、物陰から一人の男が現れた。端正な顔立ちに、どこか人を食ったような薄笑いを浮かべた男。仙道ロウである。 「おやおや、お困りのようですね。お嬢さん。いや、その武装を見るに、かなり『専門的』な方だ」 ロウは戦う能力など一切持っていない。だが、その瞳は冷徹に瑞希を観察していた。(身体能力は最低。だが火力と回復力は最高。利用価値は十分だ。まずは懐に入り、盾になってもらう必要があるな) 「あんた、誰。死にたいの?」 瑞希が銃口をロウに向ける。だが、ロウは怯えるどころか、心地よい微笑みを湛えて一歩踏み出した。 「私はただの迷い人ですよ。ですが、この先のコンテナに大量の医薬品と食料が眠っていることを知っています。私に案内させてもらえませんか? もちろん、あなたの安全は私が『作戦』で保障しましょう」 ロウのスキルが発動する。瑞希の心にある「面倒くさい」という感情を絶妙に刺激し、「彼に従えば楽に物資が手に入る」という期待感へと誘導する。瑞希は不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、銃口を下げた。 「……いいわ。裏切ったら、その頭を墓石で叩き潰すから」 一方、都市の別の区画では、凄まじい衝撃波が空気を震わせていた。 「はああああっ!」 颶風嵐翠月が、その薙刀を鋭く一閃させる。刃から巻き起こった真空の嵐が、押し寄せていたゾンビの群れを文字通り「切り刻んだ」。肉片と黒い血が舞い、周囲の壁に塗り付けられる。 「ふぅ……。相変わらず、数だけは多いですね」 翠月は黒いスーツに返り血を浴びながら、上品に微笑んだ。彼女の直感が、背後に「異質な気配」があることを告げる。振り返ると、そこには大剣を構えた男、クリスが立っていた。 「……生き残っていたか」 クリスの言葉は短かったが、その眼光は鋭い。二人は互いに面識はない。しかし、この地獄において「生きて動いている人間」に出会ったことは、それだけで奇跡に近い。だが、彼らが合流しようとした瞬間、空間が歪んだ。 影から、一人の女性が静かに現れる。コレナだ。彼女の周囲には、物理的な光を飲み込むほどの深い闇が渦巻いていた。 「あなたがたが、この地の生存者か。……不浄なる死者が蔓延るこの世界、浄化が必要ね」 コレナの言葉と共に、地面から黒い棘が突き出し、周囲のゾンビたちを一瞬で串刺しにする。その威力にクリスが身構えたが、コレナは冷徹な視線を彼らに向けた。 「あなたが戦うのなら容赦はしないわ。だが、今は目的が一致しているようね」 【研究所】 生き残った五人は、ロウの(打算に基づいた)提案により、最終目的地である研究所へと集結した。ワクチンがあるという希望は、疲労困憊の彼らを動かす唯一の動機だった。 しかし、研究所の深部は地獄だった。そこにいたのは、ウィルスが変異し、筋肉が異常発達した「強化ゾンビ」の群れ。壁を走り、超人的な速度で襲いかかる怪物たちに、一行は包囲される。 「クソッ! 数が多すぎる!」 クリスがロードサインの能力で前線を維持し、翠月が風の斬撃で側面の敵を散らす。だが、強化ゾンビの皮膚は硬く、決定打に欠けていた。瑞希が対霊火器を乱射し、手榴弾で道を切り拓くが、弾薬が底を突き始める。 「いいですか、皆さん! ここでバラバラに戦えば全滅します!」 後方で安全に構えていたロウが、大声を張り上げた。彼の声には、人々の不安を煽りつつも、それを「団結」という形に変換させる魔力が宿っていた。 「クリスさん、あなたは正面で壁になってください! 翠月さんはその隙に右翼を潰し、瑞希さんは後方から最大火力で支援を! コレナさん、あなたには最後の一撃を、あの最深部の個体に叩き込んでもらいたい!」 ロウの指示は完璧だった。個々の能力を最大限に活かし、互いの死角を補い合う。絶望的な状況下で、人々は意識せずともロウという「軍師」に依存し、完璧な歯車として機能し始めた。 「いっけぇぇぇ!!」 瑞希が叫び、最終必殺奥義【警察比例の原則】を発動させる。空から要請された大量の重火器が降り注ぎ、研究所の廊下を火の海に変えた。爆炎の中を、クリスと翠月が突き進む。 そして、最深部の巨大な変異個体に対し、コレナが静かに右手を掲げた。 「魔力上昇……I、II、III……X(クロス)」 指数関数的に膨れ上がった絶大な魔力が、一点に凝縮される。それはもはや魔法ではなく、神の裁きに近い光の柱となった。 「――聖槍乱舞」 光の槍が数千本、同時に降り注ぎ、巨大ゾンビを、そして研究所の構造物ごと消滅させた。轟音と共に、長い戦いに終止符が打たれた。 それから、どれほどの時間が経っただろうか。 世界からゾンビの咆哮が消え、静寂が戻ってきた。ワクチンは回収され、散らばっていた生存者たち(あるいは彼らの意志を継いだ者たち)によって、世界はゆっくりと再生を始めた。 灰色の空に、久方ぶりに青い色が戻る。コンクリートの割れ目から、小さな、けれど力強い緑の芽が顔を出していた。 丘の上に立つ五人の姿があった。 瑞希はもう銃を構えていなかった。セーラー服はボロボロだが、その表情には、かつての気怠さとは違う、穏やかな空虚さが漂っていた。 クリスは静かに遠くの山々を眺め、翠月は風に髪をなびかせながら、失った仲間たちに思いを馳せていた。コレナは、もはや守るべき「境界」がなくなった世界で、静かに目を閉じた。 そして、仙道ロウは、隣で微笑む彼らを見ながら、心の中で毒づいていた。 (やれやれ。結局、最後まで生き残るには『善人』のフリをするのが一番効率的だということか) 口では「本当にお疲れ様でした」と、誰よりも心からの言葉のように告げながら、彼は心の中で、次なる世界でどうやってこの有能な駒たちを使い倒そうかと、密かに計算を始めていた。 緑が戻り始めた世界で、彼らはそれぞれの「明日」を想い、歩き出した。 * 【生存者】 ・仙道 ロウ ・白石 瑞希 ・クリス ・コレナ ・颶風嵐 翠月 【死亡者】 ・なし 【参加者の行動】 ・仙道ロウ:能力を用いて個々の参加者を統率し、最適な戦術を立案。生存率を最大化した。 ・白石瑞希:対霊火器による広範囲攻撃と火力支援を行い、前線を維持した。 ・クリス:前衛として敵の攻撃を受け止め、道を切り拓いた。 ・コレナ:究極の魔力上昇により、変異個体および研究所の敵を殲滅した。 ・颶風嵐 翠月:風の薙刀を用い、高速攻撃で敵の群れを分断・掃討した。