空は鉛色に淀み、かつて文明の象徴だった摩天楼は、いまや巨大な墓標と化していた。地上を埋め尽くすのは、腐敗した肉体を無理やり動かす「飢えた死者」たち。彼らはもはや人間ではなく、ただ食欲という本能だけを突き動かされる生物学的災害であった。 空気には鉄錆と腐肉の臭いが混じり合い、絶望が霧のように世界を覆っている。 【エリア:荒廃したコロニー】 静寂を切り裂いたのは、重厚なディーゼルエンジンの咆哮だった。履帯がコンクリートの残骸を粉砕し、鋼鉄の巨躯が街道を突き進む。ロシア製自走式対空砲、パーンツィリSM-SVである。 「車長、前方1.2キロに大規模な群れを感知!数は数千、いえ、万単位です!」 操縦手が叫ぶ。車内には、極限の疲労で目の下に隈を作った熟練の乗員3名がいた。彼らは数週間にわたり、不眠不休でこの地獄を走行し続けていた。 車長が冷徹に命じる。「対空は不要。30mm機関砲、地対地モードへ移行。目標、前方の肉塊ども。掃射しろ」 ガガガガガガッ!! 砲塔から放たれた30mm弾が、猛烈な速度でゾンビの群れに突き刺さる。一撃で肉体が弾け飛び、血飛沫が黒い雨となって降り注ぐ。しかし、ゾンビたちは恐怖を知らない。仲間が肉片に変わろうとも、彼らはただひたすら、鋼鉄の壁に向かって絶叫しながら走り寄る。その姿はもはや人間ではなく、皮膚が剥がれ落ち、骨が露出し、顎が外れたまま口をパクパクとさせる異形の怪物だった。 「クソッ、数が多い!装甲に張り付こうとしてやがる!」 ゾンビの一匹が、跳躍して車体側面へ飛びついた。鋭い爪が15mmの装甲をガリガリと削る。不気味な呻き声がハッチ越しに聞こえる。だが、彼らには「ソビエトバイアス」という概念的な加護があった。物理法則をねじ曲げ、絶望的な状況すらも「勝利」へと書き換える不屈の精神。彼らは疲労困憊しながらも、その銃口を緩めることはなかった。 【エリア:市街地・廃ビル街】 一方、コロニーから離れた崩落したビル街では、絶望的な孤独の中を歩く者たちがいた。 吉沢香音は、肩で息をしながら壁に背を預けていた。彼女の服は汚れ、瞳には深い疲労が宿っている。しかし、その手からは淡い光が漏れていた。 「……まだ、生きなきゃ」 その時、路地の角から「それ」が現れた。皮膚がどす黒く変色し、異常に長い腕を持つ変異種。それが地を這うような速さで香音に襲いかかる。 「っ!……眠れ!!」 香音が放った睡眠の波動が、弾丸のごとき速度でゾンビの頭部を撃ち抜く。一瞬、怪物の動きが止まり、深い眠りに落ちた。しかし、それは罠だった。背後の瓦礫から、さらに十数匹のゾンビが、関節を不自然に曲げながら這い出してくる。 「しつこい……!」 彼女は即座に麻痺の活性化へ切り替え、電撃のような不可視の弾丸を連射し、前方の敵の足を止める。だが、彼女の魔力と体力は限界に近かった。 その光景を、ビルの屋上から冷徹に見下ろす瞳があった。カノンである。彼女はナックルを締め直し、合理的に戦況を分析していた。 (生存率、低下中。介入して救う価値があるか……いや、死守すべきは自分だ。だが、あの女が時間を稼げば、私は裏から回れる) カノンは飛び降りた。凄まじい衝撃を膝で吸収し、そのまま地面を蹴る。彼女の動きは最小限でありながら、最大効率の破壊力を秘めていた。襲い掛かるゾンビの腕を、戦術的思考で完璧に読み切り、カウンターの一撃を叩き込む。 ドシュッ!! 骨を砕き、頭蓋を粉砕する一撃。しかし、ゾンビの血が彼女の頬に飛んだ。カノンはそれを忌々しげに拭う。彼女にとって、この世界はただの「生存ゲーム」に過ぎない。 その戦場に、さらに異質な気配が混じり合う。 「全ては諦めろ」 低く、感情の欠落した声。トウがそこに立っていた。彼の周囲には、血の霧が立ち込め、空からは絶え間なく血の雨が降り注いでいる。ゾンビたちはその精神を削る霧に当てられ、一瞬たじろいだ。 「……罪深いな、貴様らは」 トウが闇の銃を構える。放たれた黒い弾丸は、物理的な肉体だけでなく、ゾンビが持つ「飢餓」という概念さえも貫通し、後方の壁ごと敵を消し飛ばした。だが、彼は孤独だった。誰とも交わらず、ただ罪を浄化するように引き金を引き続ける。 そして、その影から――。 「刺すー!」 空間が裂けた。可愛らしい犬の姿をしたさすけが、闇から飛び出した。その口にくわえたナイフが、空間そのものを切り裂く。斬撃は直線上のゾンビたちを、まるで紙のように両断した。 さすけは再び「陰」へと潜伏する。視認不能。不可視の死神が、戦場を縦横無尽に駆け巡り、ゾンビの背後から喉笛を切り裂いていく。その在り方は、救済ではなく、ただの破壊だった。 【絶望の合流】 運命か、あるいは生存本能か。パーンツィリSM-SVが街へと進入し、そこにいた香音、カノン、トウ、さすけの5組が、偶然にも一つの広場で合流することとなった。 彼らは互いに面識はない。不信感と疲労が渦巻く。しかし、彼らの周囲を、数万のゾンビが完全に包囲していた。ゾンビたちは、もはや単なる死体ではない。互いに連結し、巨大な肉の壁となって押し寄せてくる。 「……おい、そこの連中!死にたくなければこの装甲車に近づけ!」 パーンツィリの車長がハッチから叫ぶ。熟練兵たちの精神力と、圧倒的な火力。そして、状態異常を操る魔導、合理的な格闘術、概念を消し去る闇、空間を裂く牙。 バラバラだった個の力が、生き残るためだけに一時的に結集する。 しかし、彼らが向かうべき先は一つ。この地獄の根源、【研究所】である。そこには抗体があるという。だが、そこへ辿り着くまでに、彼らはさらに強化され、凶暴化した「死者の軍勢」を突破しなければならない。 空気感染率80%。一歩踏み込めば、そこは完全なる死の世界。 絶望的な高難易度の旅が、今、始まった。 【生存状況】 ・パーンツィリSM-SV:生存(弾薬消費:15%) ・吉沢 香音:生存(疲労:深刻) ・カノン:生存(軽傷) ・トウ:生存(精神汚染:低) ・さすけ:生存(空腹) 【世界の状態】 崩壊進行中(ゾンビの強化レベル:上昇中)