【喫茶店Dallas・午後】 チリン、チリン。 赤い逆立つ髪に、星と涙の化粧をした男が喫茶店へ入ってきた。ヒソカ=モロウ【改】は店内をひと回り眺め、空いている席に腰を下ろす。 「いらっしゃいませ! 喫茶店Dallasへようこそ、にゃー!」 緑髪ツインテールのライムちゃんが、虹色のペンを胸ポケットから取り出してにっこり笑う。 「メニューはこちらです。漫画も置いてありますよ。ギャグ漫画の新刊、昨日入荷したんです! にゃん!」 「へえ……楽しそうなお店だね♠ コーヒーを一杯。それから、その漫画も見せてもらおうかな」 「かしこまりました! コーヒーとギャグ漫画ですね。ご注文を虹色に控えます!」 ライムちゃんがペン先をメモ用紙に当てた。すると、紙の上に注文票だけでなく、湯気の立つコーヒーカップまでぽんっと実体化する。 「お待たせしました!」 「注文を取る前に品物が出てきたぞ。仕事が速いというか、順番が自由というか……」 黒革のジャケットを着たごついおっさんが、新聞を畳みながら独り言を漏らした。 「大丈夫です! 注文票もあります!」 ライムちゃんがペンを振ると、紙の上に『コーヒー一杯、ギャグ漫画一冊』と文字が現れる。続けて、漫画が一冊、テーブルにぽん。 「これがその漫画です。今週のおすすめは、喫茶店の店員が注文を聞くたびにメニューを実体化させて、店内が料理で埋まっていくお話なんです」 「それ、うちの店の話じゃないかにゃ?」 頭に魚を載せた三毛猫のマスターDが、カウンターの奥から丸眼鏡をくいっと直した。 「マスター、まだ料理はコーヒーしか出してませんよ!」 「なら安心だにゃ。経営の観点から言うと、注文の先読みは悪くない。ただし、実体化した品を帳簿にも反映してくれたまえ」 「はーい、マスターD!」 ライムちゃんが漫画をヒソカの前に置く。ヒソカはコーヒーをひと口飲み、ページをめくった。 「ふふ……この店員、注文より先に料理を出して、最後には店中をプリンで埋め尽くすんだね。なかなか大胆だ」 「プリンで埋め尽くすのは危険だにゃ。床が滑るし、会計の計算も難しくなる」 マスターDは真顔で帳簿を閉じた。 「そこは大事なんだな」 ごついおっさんが、コーヒーをすすりながらうなずく。 そこへ、金髪ロングカーリーのレモンちゃんが、学校帰りらしい鞄を持って店に入ってきた。 「ただいまー! お姉ちゃん、今日のおすすめは何?」 「コーヒーだよ。お客さまは漫画も読んでるの。にゃー!」 「いらっしゃいませ、ヒソカさん。私はレモンです。こちらのメニューからどうぞ!」 レモンちゃんは華やかな花びらをふわりと舞わせ、メニューをテーブルに届けた。花びらはカップの周りをくるくる回り、最後に小さなハート型になって消える。 「おお、これはきれいだね。魔法かな?」 「はい。お店の雰囲気を明るくする花魔法です。もちろん、店内では平和に使いますよ」 「立派な心がけだ。平和な店で、平和にコーヒーを飲む。今日はそれだけで十分だね♠」 ごついおっさんが新聞をたたんだ。 「よし、今日は全員、平和を満喫しているな。俺も若い頃は王宮で剣を振るっていたが、今はここのコーヒーと静かな午後が一番だ」 「剣士さんだったんですか?」とレモンちゃん。 「昔の話だ。今は常連客。注文はいつものブレンドコーヒーと、あんバタートーストだ」 「かしこまりました! あんバタートーストを虹色に……あっ」 ライムちゃんのペン先が光った。テーブルの上に、大きなトーストが一枚現れる。ところが、その大きさは皿から大きくはみ出し、テーブルをほぼ覆ってしまった。 「お姉ちゃん、いつものサイズを思い浮かべて!」 「思い浮かべたよ! ただ、ペンがサービス精神を発揮したの!」 「トーストがテーブルクロスみたいになってるじゃない!」 レモンちゃんはフラワーハリセンを取り出し、ライムちゃんの頭をぽこんと軽く叩いた。 「サイズ調整のツッコミです!」 「いてて……でも、いい香り! にゃん!」 マスターDはトーストを見て、帳簿に目を落とした。 「大きさはともかく、材料費は一枚分として計上できるのかにゃ……いや、できないにゃ。これは三枚分くらいあるにゃ」 「そこは厳密なんだな、マスター」 「店を続けるには大事なことだにゃ」 ヒソカは漫画を読みながら、ふっと笑った。 「このページにも巨大トーストが出てくるよ。まさか現実で見られるとはね」 「漫画の展開を現実にしちゃったみたいです。虹のペン、たまにギャグ漫画のお約束を理解してるんですよ」 「ペンまで読者参加型なのね……」とレモンちゃん。 ライムちゃんはトーストにペンを当て、今度はちょうどいい大きさの一切れを描いた。大きなトーストが光に包まれ、食べやすいサイズへ変わる。 「よし、これでおっさんさんのいつものセット完成! コーヒーもどうぞ、にゃー!」 「ありがとう。うむ、うまい」 おっさんはあんバタートーストを一口食べ、満足そうにうなずいた。 「ところでヒソカさん、漫画の続きも読まれますか?」とレモンちゃん。 「もちろん。気になるところでページが終わっているからね。続きが読みたくなる構成だ♠」 「その漫画、最後に店員さんが『続きは次回!』って言いながら、看板まで実体化させるんです」 ライムちゃんがそう言った瞬間、虹のペンが勝手にきらりと光った。窓の外に、巨大な看板がぽんっと出現する。 『続きは次回! 喫茶店Dallas』 「看板が出たー! しかも窓の外!」 「営業宣伝としては目立つにゃ。だが、通行の邪魔にならない場所に置くにゃ」 マスターDが窓から確認する。看板は歩道に出ず、店の壁際にちょうどよく収まっていた。 「さすがペン。最後だけはちゃんと空気を読んだね」 「いや、最後だけって何! 普段も空気は読んでるよ!」 「巨大トーストのときは、空気よりバターを読んでいたぞ」 ごついおっさんのひと言に、店内が笑いに包まれた。 しばらくして、ヒソカは漫画を閉じ、コーヒーカップを空にした。 「楽しい時間だったよ。漫画も面白かったし、店員さんたちとの会話も愉快だね。また来るよ♠」 「ありがとうございました! またお待ちしてます、にゃー!」 「ご来店ありがとうございました。お忘れ物はありませんか?」 「大丈夫。漫画はここに戻しておくね」 ヒソカは席を立ち、レジへ向かった。マスターDが帳簿を確認し、ライムちゃんが虹のペンでレシートを実体化させる。レモンちゃんは横から金額を確認した。 「計算できました! コーヒー一杯と、ギャグ漫画の閲覧料は無料です。お支払いはコーヒー代だけになります」 「分かりやすいね。はい、どうぞ」 ヒソカは代金を支払い、軽く手を振って店を出た。 チリン、チリン。 「またのお越しをお待ちしております!」 「いやあ、平和で何よりだ。コーヒーもトーストもうまかった」 「次はお姉ちゃん、トーストのサイズを最初から普通にしてね」 「もちろん! 次は特大サイズを普通サイズとして描くね!」 「逆だよ!」 ごついおっさんのツッコミが、店内に気持ちよく響いた。 【退店時の注文内容・支払金額】 - コーヒー:1杯 450円 - ギャグ漫画:閲覧のみ 0円 - 合計支払金額:450円