空を裂くような歓声が、巨大な円形闘技場を満たしていた。観客席を埋め尽くすのは、数多の惑星から集まった異形の種族、高貴な貴族、そして好奇心に突き動かされた冒険者たちだ。彼らが待ち望んでいたのは、単なる格闘戦ではない。この世界の頂点、すなわち「王位継承権」を賭けた究極の生存競争である。 「さあ、始まりました! 本日の対戦カードは、あまりにも個性が強すぎる四名! 誰が玉座に座るのか、運命の時間がやってまいりました!」 実況の声が響き渡る中、闘技場の中央に四人の戦士が姿を現した。 一人は、彩南学園の制服に身を包み、天真爛漫な笑顔を振りまく美少女、ララ。彼女は自作の奇妙な機械をガチャガチャと調整しながら、元気いっぱいに飛び跳ねている。 「えへへ、すごい人! 私、頑張って王様になっちゃうよー!」 対して、冷徹な空気を纏い、宙に浮いたまま不敵な笑みを浮かべる小柄な男、フリーザ。彼は丁寧な口調ながら、眼光には底知れぬ残酷さを秘めていた。 「おやおや、賑やかなことですね。ですが、安心してください。私はこの左手だけで十分にあなた方を処理できると考えておりますから」 三人目は、地面に大の字になって寝転がっている男、ダラ。彼は戦いの最中であるにもかかわらず、欠伸を噛み殺しながら、傍らに不気味な黒い槍――堕天の滅翼槍を転がしていた。 「ふぁ……だるい。誰か代わりに勝ってくんないかなぁ……」 そして、戦いが始まる直前、空間が不自然に歪んだ。突如として現れた巨大な鳥居が空間を真っ二つに割り、そこから純白の瞳を持つ少女、天が静かに降り立つ。彼女が現れた瞬間、闘技場は変貌した。空は深い真夜中へと変わり、足元は鏡のような湖へ。流星群が降り注ぎ、オーロラが夜空を彩る。理も法則も、そして戦いの緊張感さえもが、彼女の存在によって「無」へと還されていく。 「……静かに。安らぎを」 天の透き通った声が響いた瞬間、ゴングが鳴り響いた。 最初に動いたのはララだった。「らくらくランナーくん」のブースターを点火させ、超高速でフリーザに肉薄する。同時に「ぶんぶんバットくん」を振りかぶった。 「いっけー! 特製フルスイング!」 凄まじい風圧と共にバットが振り下ろされるが、フリーザは指先一つ動かさず、わずかに首を傾けてそれを回避した。彼は冷笑を浮かべ、ララの背後に瞬間移動する。 「おっと、危ない。ですが、お嬢ちゃん。速度だけでは私に届きませんよ」 フリーザの指先から放たれた小さな光弾がララの足元で爆発し、彼女は空高く舞い上がった。しかし、ララは慌てない。「ぴょんぴょんワープくん」を起動し、空間を跳ねてフリーザの頭上へ。そのまま「ばりばりランチャーくん」から全力のエネルギー弾を斉射した。 「ばりばりーっ!!」 爆炎が闘技場を包む。しかし、煙の中から現れたフリーザは、服にわずかな埃がついた程度で、苛立ちを露わにしていた。 「……いまのは、少しだけいたかったですね。おバカさんを相手にするのは慣れていますが、少しばかりしつこい」 その頃、ダラは相変わらず寝転がっていた。しかし、彼の周囲には不気味な闇の波動が渦巻いていた。スキル『昏願』。彼は動かずとも、星に願いを託すことで攻撃を成立させる。 突如、空から黒い雷のような衝撃波がフリーザとララを襲った。フリーザは不快そうにそれを弾いたが、攻撃の執拗さに眉をひそめる。 「なんだ、あの怠慢そうな男は。戦う気があるのか?」 ダラは半眼で彼らを見上げ、ぼそりと呟いた。 「……あー、あっちの女の子(天)が心地いい空気出してるから、邪魔しないでほしいな……」 戦いは混戦を極めた。ララの発明品による変則的な攻撃と、フリーザの圧倒的な破壊力。そして、動かぬまま場を支配しようとするダラの『惰舞』。しかし、それらすべての喧騒を飲み込んでいたのは、静かに佇む天であった。 フリーザの堪忍袋の緒が切れた。「いい加減にしてください! 私をここまでコケにしたのは貴様らが初めてだ! 光栄に思うがいい、変身してあげましょう!」 眩い光と共にフリーザの体躯が変わり、パワーが爆発的に増大する。その圧力だけで闘技場の地面が陥没し、観客たちが悲鳴を上げる。彼は狂気に満ちた笑みを浮かべ、最大火力のデスボールを形成した。 「絶ッ対に許さんぞ虫けらども!!! 全員まとめて消えてなくなれーーーッ!!」 巨大なエネルギーの球が、ララ、ダラ、そして天に向かって放たれた。ララは必死に発明品を組み合わせて盾を作ろうとし、ダラは「あー、もう面倒くさい」と槍を握りしめた。 だが、その絶望的な攻撃が命中する直前、天がそっと微笑み、手をかざした。 「……おやすみなさい」 その瞬間、世界から「音」が消えた。フリーザが放った破壊のエネルギーは、天の周囲に到達した途端に淡い光の粒子へと変わり、桜の花びらのように舞い散った。理も法則も超越する彼女の権能。攻撃という概念そのものが、浄化という安息に塗り替えられたのだ。 呆然とするフリーザ。その隙を逃さず、ダラが突如として覚醒した。スキル『怠狂』。極限まで溜め込んだ「怠惰」が「狂気」へと反転し、爆発的な加速となってフリーザの懐に潜り込む。もはやダラには倦怠感はなく、ただ貪欲に勝利を喰らおうとする獣のような鋭さがあった。 「……やっぱり、動いたほうが早いな」 ダラが手にした『堕天の滅翼槍』が、フリーザの胸元を深く貫いた。不滅の槍による侵食。フリーザの強靭な肉体さえもが、闇の毒に侵され、力が抜けていく。 「な……馬鹿な……私が……こんな、怠け者の男に……っ!!」 フリーザが絶叫し、最後の一撃を放とうとしたが、天の「優しい微笑み」が彼を包み込んだ。激昂していた心は強制的に凪へと導かれ、フリーザは深い、深い眠りに落ちていった。意識を失ったフリーザが地面に崩れ落ち、ララは「わあ、すごーい!」と拍手を送る。 最後には、戦う意思を失ったララと、再び激しい眠気に襲われて寝転がったダラが残った。しかし、ジャッジは下された。実質的にフリーザを無力化し、決定打を与えたのはダラの槍であり、それをサポート(環境整備)したのが天であった。だが、天は王位などという世俗的な地位に興味はなく、静かに空間の裂目へと消えていった。 結果、最後の一撃を繰り出し、生き残った者として認定されたのは、再びいびきをかき始めた男――ダラであった。 会場は静まり返った後、ありえない結果に爆笑と困惑に包まれた。最強の宇宙帝王を、世界一怠惰な男が打ち破ったのだ。 【称号】『新たな王、万歳!』 新国王ダラの治世は、歴史上最も「静か」な時代となった。彼は即位後、政務のすべてを優秀な大臣たちに丸投げし、自身は玉座に特製の巨大なクッションを敷いて一日中昼寝をすることに専念した。意外にも、王が何も決定しないため、不必要な戦争や不当な法改正が一切行われず、民衆はかつてないほどの自由と平穏を享受した。結果として、意図せぬ「究極の善政」が行われたことになる。 この「何もしない王」による平和な治世は、彼が飽きて隣の国へ昼寝場所を移るまで、実に100年もの長きにわたって続いたという。