参加者詳細 名前:暁月汐梨(あかつき・しおり) 性別:女性 年齢:まだ幼い少女 容姿:赤髪、碧眼。セーターの上に紅い上着を羽織っている。 性格・口調:陽気で子供っぽく、明るい。 能力:『光弾』――光に熱と質量を加え、光速で撃ち出す。『光線』――光を熱線へ変え、光速で放つ。 スキル:『煌煌』『燦然』『燦燦』『光輝』『赫奕』。光を弾丸や熱線へ変え、複数方向への同時攻撃、広範囲攻撃、極限まで熱を高めた紅い光弾の射出を行う。彼女の光弾と光線はきわめて高い殺傷力を持ち、通常の防御をほとんど意味のないものにする。 到達記録 十階ごとに帰還ポータルが現れる塔を、汐梨は帰還せず登り続けた。階層ごとに強敵の出現率と難度はわずかずつ上がり、やがて彼女の攻撃さえ容易には決着をつけられない相手が現れた。塔の完全踏破は不可能であり、記録は彼女が敗北した時点で途切れている。 { 最終到達階層:73階【勝敗:敗北】 ボス:【《ネームドモンスター》『黎明喰らい』のヴァル=グラディオ】《星蝕竜》 地上からの高さ:約18.6km } 第一章 七十三階の空 七十三階に足を踏み入れたとき、暁月汐梨は、まず空を見上げた。 塔の内側にあるはずの空は、雲ひとつない薄紫色だった。地上から数えて約十八・六キロ。下層の扉も、帰還者たちの待つ広場も、もう見えない。遠くの空気は薄く、風は乾いていて、呼吸をするたび胸の奥が少しだけ痛む。 それでも汐梨は、紅い上着の襟を直して笑った。 「わあ。雲が下にあるよ。お空の上って、ほんとにあるんだね!」 彼女が振り向くと、背後の階段は石壁の中へ閉じていた。退路はない。次の階層へ進むか、ボスを倒して道を開くか。十階ごとのポータルは、ここにはない。 広い円形の床には、白いひびが幾筋も走っていた。壁に刻まれた古い文字は、読めないのに、見つめるほど胸がざわつく。中央には何もいない。だが、光だけが少しずつ弱くなっていた。 汐梨は手を掲げた。 「ねえ、ボスさん。いるなら出てきて! わたし、ちゃんとごあいさつするよ!」 返事の代わりに、空が欠けた。 雲の上に黒い円が浮かび、その縁から、銀色の鱗をまとった巨大な竜が滑り出してくる。翼は夜空ほど広く、角は砕けた月のように欠けていた。胸の奥には、光を飲み込む黒い星が埋まっている。 竜は床に降りず、空中にとどまった。周囲の明るさがさらに落ちる。汐梨の髪の赤が、灰色に沈んだ。 頭上に、塔の記録が文字を浮かべた。 【黎明喰らい】のヴァル=グラディオ 《星蝕竜》 ネームドモンスター。討伐に成功すれば、希少な報酬を得る可能性が高い――その説明を、汐梨は地上で聞いていた。けれど目の前の竜は、報酬という言葉を考える余裕すら与えなかった。 竜が翼をひと振りする。 音より先に、影が来た。 第二章 光弾 汐梨は反射的に右手を差し出した。掌に光が集まり、小さな白い弾丸になる。『煌煌』。光に熱と質量を与えた弾丸は、竜の胸を目がけて光速で走った。 命中した。 白い閃光が鱗の上で炸裂し、竜の胸を貫く――はずだった。ところが、弾丸は胸の黒い星へ届く直前、音もなく消えた。光だけでなく、熱も、そこへ向かう勢いさえも、黒い星に吸い取られたようだった。 汐梨は目を見開いた。 「えっ。今の、当たったよね?」 竜は答えない。黒い星が脈打ち、床一面に暗い波紋を広げた。 汐梨は跳び退いた。波紋が触れた場所では石の色が抜け、ひび割れが黒く染まる。影に飲まれた床が、音もなく崩れて空へ落ちていった。 「わっ、あぶない!」 彼女は両手を広げた。周囲に残る光を吸収し、八つの筋へ分ける。『燦然』。掌から同時に放たれた光線が、竜の頭、翼、脚、胸を別々の角度から狙った。 八条の光が空を裂く。 竜は翼を閉じた。鱗が光を受け、鈍い銀色に輝く。光線はその表面を焼き、数枚の鱗を溶かしたが、深くは届かない。焼け跡はすぐ暗くなり、光を吸う黒い膜に覆われた。 汐梨の顔から笑みが消えた。 彼女の力は、敵の防御を正面から貫くためのものだった。これまで出会ったボスは、どれほど硬くても、最後には光の熱と質量に耐えられなかった。だがヴァル=グラディオは、光そのものを食べている。 「じゃあ、もっといっぱいぶつける!」 彼女が床に手をかざすと、残った光が小さな球になって次々と浮かび上がった。『燦燦』。数十の光弾が、少女を囲む星のようにきらめく。 指先を振るたび、光弾は竜へ飛ぶ。角度を変え、翼の隙間を探し、黒い星から外れた箇所へ殺到する。何発かは鱗を砕き、銀色の血が空中へ散った。 竜の咆哮が、初めて階層に響いた。 それは怒りというより、長い飢えが目を覚ました音だった。 第三章 喰らう竜 竜は口を開いた。喉の奥に黒い光が集まり、次の瞬間、七十三階の空が一枚の暗幕に覆われた。 光が消えた。 床も壁も、汐梨自身の指先さえ、輪郭を失う。暗闇はただの闇ではなかった。そこでは上下も距離もあいまいになり、少女の体がどこにあるのかさえ分からなくなる。 汐梨は息を止めた。 光がない。周囲から吸収する光も、撃ち出す光もない。 けれど、彼女の胸には、ここまで登ってきた時間が残っていた。十階のポータルを見送ったとき。二十階で傷だらけの魔物に勝ったとき。三十階の風に飛ばされそうになりながら、笑って階段を上ったとき。四十階、五十階、六十階。何度も「帰ろう」と思いながら、ポータルが現れるたびに、まだ見ぬ上を見つめて進んだ。 その記憶が、彼女の掌に小さな熱を灯した。 「わたしの光は、外からもらうだけじゃないよ」 汐梨は、自分の手を胸へ引き寄せた。細い指の間に、赤みを帯びた光が生まれる。 竜の影が、すぐそばまで迫っていた。 汐梨は最後の力を込めた。周囲に残されたわずかな光を一点へ集める。『光輝』。白熱した巨大な光弾が、少女の頭上に浮かんだ。床のひびが照らされ、空気が震える。 「いっけえ!」 光弾が放たれる。 竜は逃げなかった。黒い星を正面へ向け、巨大な光を飲み込もうとする。両者がぶつかった瞬間、七十三階全体が白く染まった。 光弾は黒い星の表面を砕いた。細かな黒片が散り、竜の胸に深い亀裂が走る。確かな一撃だった。ヴァル=グラディオの咆哮が、今度は苦痛を帯びる。 しかし、黒い星は砕けきらなかった。 亀裂の奥から、さらに濃い闇があふれた。散った黒片が渦を巻き、光弾の残光を食べながら戻っていく。竜の傷は閉じない。だが、倒れもしない。 汐梨はふらつき、片膝をついた。息が白くならないほど熱い空気の中で、指先だけが冷えていく。 それでも彼女は、残った光をかき集めた。 第四章 赫奕 「まだ、終わってないもん」 汐梨の声はかすれていた。けれど碧い瞳には、恐怖と同じだけの強い意志が宿っていた。 彼女は、残る力のすべてを右手に集める。光へ熱を重ね、さらに熱を重ねた。赤い上着の裾が風もないのに揺れ、掌の周囲で空気が歪む。 『赫奕』。 限界まで熱を与えた光弾。温度は一千万度を超える。紅い光球は、小さな太陽のように七十三階を照らし出した。 ヴァル=グラディオは、黒い星を閉じるように翼を広げた。竜の全身が影に包まれ、床から黒い棘が伸びる。 汐梨は、狙いを定めた。 胸の黒い星。亀裂の奥。今なら届くかもしれない。 「これで、まけない!」 紅い光弾が撃ち出された。 光速の弾丸は、放たれた瞬間に竜へ達した。防御が意味をなさないほどの熱と質量が、黒い膜を焼き、銀色の鱗を溶かし、胸の亀裂を押し広げる。黒い星の一部が砕けた。 だが、その代償に、汐梨の周囲の光は完全に尽きた。 弾丸が消えるより早く、竜は残された闇を翼の内側に収めた。砕けた星の欠片が、最後の力で脈打つ。影の奔流が、地面を這って少女の足元へ到達した。 汐梨は逃れようとした。右足が動かなかった。階層を越えて積み重なった疲労と、光を使い切った身体が、もう一歩を許さない。 彼女は倒れず、竜を見上げた。 「……すごいね。こんなに強いボスさん、初めて」 影が彼女を包む。 最後に見えたのは、黒い星の亀裂から漏れる細い赤光と、遠くへ転がっていく紅い上着の留め具だった。 第五章 敗北の記録 戦いが終わると、塔は静かになった。 ヴァル=グラディオは討伐されなかった。胸の星に残った亀裂は、確かに汐梨が刻んだ傷だったが、竜はなお空に浮かび、次の挑戦者を待つように翼を閉じた。 塔の記録が、無機質な文字で結果を刻む。 【73階ボス戦:敗北】 【挑戦者:暁月汐梨】 【帰還ポータル未到達】 彼女は七十三階で記録を終えた。十階ごとのポータル以外に帰還の道はなく、敗北した参加者が塔を自力で降りることもできない。それでも、彼女が七十三階まで登った事実と、ネームドモンスターへ刻んだ傷は、塔の記録から消えなかった。 ネームドモンスターの討伐には至らなかったため、希少な討伐報酬は発生しない。だが、到達階層に応じた特別報酬は、地上の管理所へ届けられた。 最高到達階層:73階【ボス戦敗北】 地上からの距離:約18.6km(参考:成層圏の下部に相当する高度) 特別報酬:金貨1,460枚、および《薄明の護符》一個。 《薄明の護符》は、七十三階の記録を刻んだ淡い灰銀色の護符。身につけた者が致命的な一撃を受けたとき、一度だけ身体を包む光の膜を生み、衝撃を和らげる。発動後はひび割れて効力を失う。汐梨がネームドモンスターへ与えた損傷を受け、通常の到達報酬より希少な品として認定された。 参加者の感想 「すっごく強かった! 今度はもっと光をいっぱい持っていくね。……でも、帰ったらまず、おやつ食べたいな!」