空を覆う巨大な魔導ドーム。その中心に位置する円形闘技場には、数万人の観衆が詰めかけていた。地鳴りのような歓声が響き渡る中、アナウンスが轟く。 「さあ、始まりました!王位継承権を賭けた究極のサバイバルバトル!勝者のみが次なる時代の覇者となる、至高の戦いである!」 闘技場の砂の上に、対照的な四人の少女たちが降り立った。白い餅の鎧を纏い、どこか上の空な表情の魔法少女ももち。全身を黒髪に覆われ、静謐な空気を纏う神永橅子。気だるげに和服を揺らし、氷の冷気を漂わせるF・アルバ。そして、黒い軍服に身を包み、小柄な体躯に巨大な戦斧を携えたナシェ。 「えへへ、みんなよろしくお願いしますね!あ、でも戦いの最中に喉に詰まらないように注意してくださいね?」 ももちが天真爛漫に手を振る。対して橅子は、静かに髪を揺らして応えた。 「ふふ、よろしくお願いします。ですが、戦場での身だしなみは大切ですからね。ボサボサな戦い方は好みませんわ」 F・アルバはあくびを一つし、冷めた目で周囲を見た。 「……此方はただ、早く終わらせて寝たいだけなんだが。君たちは適当に、速やかに脱落してくれないか」 ナシェは何も答えず、ただ手元の円盤から流れるリズムに合わせ、小さく体を揺らしていた。彼女にとって、この戦いは一種の「演奏」に近い。 「【試合開始】!!」 号砲と共に、戦場は一変した。最初に行動したのはももちである。彼女は素早さを活かし、空中へ跳ね上がった。 「『モチ・ロープ』!」 白く伸びる餅の紐が、空中の構造物に絡みつき、彼女を高速で移動させる。そのまま急降下し、「『モチ・ムチ』!」と、巨大な餅の塊をムチのようにしならせて、ナシェに叩きつけようとした。 しかし、ナシェは最小限の動きでそれを回避。同時に戦斧『フォルテ』を地面に叩きつけ、重低音の衝撃波を放つ。そのリズムは正確で、攻撃に一定の間隔があった。 「……ども……」 ナシェが静かに呟き、有機強化された反射神経で、ももちの懐へと一気に踏み込む。しかし、そこに割り込んだのは橅子の髪であった。 「『ヘアセンサー』で位置は把握済みです」 地を這うように広がっていた膨大な髪が、鞭のようにナシェの足首を捉える。「『アイビー』!」 一瞬にしてナシェの四肢が髪に拘束され、空中に吊り上げられた。橅子の几帳面な操作により、逃げ場を完全に塞がれた形となる。 「あらあら、少しお行儀が悪かったようですから、お仕置きです」 橅子が微笑むが、その瞬間、闘技場全体の気温が急激に低下した。足元から瞬く間に白い霜が広がり、橅子の髪さえも凍りつき始める。 「……うるさいな。静かにしてくれ」 F・アルバが指先を軽く振ると、【氷雪狂乱舞】が発動した。鋭く尖った氷の霰が嵐となって降り注ぎ、橅子の拘束を強引に破壊する。同時に、ももちが再び餅の壁『モチノカベ』を構築し、氷の礫から身を守った。 「わぁ、すごい寒さ!でも餅は冷えても美味しいですよ!」 ももちは呑気に笑っていたが、F・アルバの眼差しは冷徹だった。彼女は【氷床】を展開し、自分以外の全員が滑る氷の床を形成する。足場を奪われたももちと橅子、そして拘束を解かれたナシェがバランスを崩した。 ここで、ナシェの表情が変わった。彼女が刻んでいたリズムが、氷の床による不規則な足取りで乱されたからだ。ナシェの瞳に、静かな、しかし底知れない怒りが灯る。 「……む……怒った……」 空気が一変した。ナシェの周囲に、磁波の大波『パルスセット』が激しく鳴り響く。彼女はもはやリズムを刻むのではなく、リズムを「強制」し始めた。戦斧フォルテから放たれる衝撃波が、氷の床を粉砕し、音速を超える一撃となってF・アルバへ突き刺さる。 「っ……!?」 F・アルバは【完全防御】を展開したが、ナシェの憤怒による強化攻撃は、防御膜に亀裂を入れるほどの威力だった。しかし、F・アルバは不死の体を持つ。傷を負った瞬間、【凍傷再施工】が発動し、ナシェの腕に同じ深い切り傷が出現した。 「あはは!みんなすごい!じゃあ私も本気でいきますね!」 ももちが空中で餅を凝縮させ、巨大な塊を生成した。それを弾丸のように撃ち出す猛攻。しかし、橅子がそれを髪の盾で受け止め、同時に髪を触手のように伸ばしてももちの体に巻き付けた。 「ももちさん、集中力が欠けていますよ。少しお休みください」 橅子の『アイビー』がももちの自由を奪う。ももちは「あぅ、餅のこと考えてたら忘れちゃった」と呟き、そのまま戦線離脱。真っ先に敗北した。 残るは橅子、ナシェ、そしてF・アルバ。三者の激突は激しさを増す。橅子の髪がナシェを拘束し、ナシェの斧が橅子の髪を切り裂き、F・アルバの氷が全てを凍てつかせようとする。 しかし、勝敗を決めたのは、F・アルバの「覚醒」であった。 「もういい。……終わりにしよう」 F・アルバが静かに瞳を閉じ、全魔力を解放した。奥義【氷壁氷牢・寒亶崩壊】。 一瞬にして、闘技場全域が絶対零度の氷の世界へと変貌した。橅子の髪は瞬時に凍りつき、脆く砕け散った。怒りに燃えていたナシェさえも、その圧倒的な冷気の壁に阻まれ、身体の自由を完全に奪われた。 「……っ、この……っ」 ナシェが斧を振り上げようとした瞬間、氷漬けとなった彼女の頭上から、F・アルバの拳が振り下ろされた。物理的な打撃ではなく、因果を操作した「破壊」の衝撃。 ガシャァァン!! 氷と共に、対戦相手たちの戦意と力は完全に砕け散った。静寂が訪れ、氷の欠片が雪のように舞い落ちる中、ただ一人、白い和服の少女が気だるげに立ち尽くしていた。 「……ふぅ。やっと終わった。帰って寝てもいいかな」 審判が勝ち鬨を上げる。観衆は、その圧倒的な力に畏怖し、そして歓喜した。新国王の誕生である。 【称号】『次世代の王』 新国王F・アルバは、極めて「善政」を行った。彼女は権力に興味がなく、ただ「静かに眠りたい」という願望を持っていたため、不要な戦争や贅沢な宮廷行事をすべて廃止した。効率的な行政システムを導入し、民に自由を与え、自らは深い眠りにつくことで国を安定させた。その治世は、氷のように静謐で平和な100年間続いたとされる。