陽光が降り注ぐ昼下がりの石畳。そこは、中世の情緒と近代的な蒸気機関が混ざり合った、風変わりな活気に満ちた街だった。そんな平和な通りに、およそ調和とは程遠い三人の男女が集っていた。 一人は、小柄な体躯に不釣り合いなほど大きな酒瓶を抱えた少女。【酔いどれ妖精】クルラホーンちゃん。彼女は頬を真っ赤に染め、焦点の定まらない目で辺りを眺めている。 「あちしがぁ……ヒック、クルラホーンちゃんだぜぇ……。今日のお酒はぁ……『極楽鳥の夢見酒』! 一口飲めば意識が銀河まで飛んでいくっていう、最高にキマる銘酒なんだぜぇ……ヒック」 彼女が抱える瓶の中には、虹色にゆらゆらと揺れる、発光する液体が入っていた。一口すするたびに、彼女の周囲には小さな気泡が舞い、酩酊度はさらに深化していく。 もう一人は、白金色のストレートヘアをなびかせ、琥珀色の瞳で冷静に相手を観察する少女。ソフィアである。彼女の纏うセピアカラーのワンピースには精緻な歯車が装飾され、背中からは金属的な光沢を放つ歯車の翼が展開していた。 「……いい加減にしてください。こんなところで騒ぐのは感心しません。私はあなた方と正当な決闘を行い、私の実力を証明したいだけです。クルラホーンさん、そして……ヒロトさん。準備はよろしいですね?」 その口調は丁寧だが、瞳には負けず嫌いな闘志が宿っている。 そして三人目。名もなき青年、ヒロト。彼は特に武装している様子もなく、ただぼんやりと、しかしどこか確信に満ちた表情で立っていた。彼には特筆すべき武術も魔法もない。しかし、彼には彼なりの「哲学」と、相手の精神を根底から破壊する「究極の武器」があった。 「ふん……。準備はできているさ」 ヒロトが低く呟いたその瞬間、静寂を破るように、どこからともなく音楽が鳴り響いた。 ――ジャジャーン! 突如として、周囲にいた街の人々が一斉に動き出した。パン屋の店主が小麦粉を舞わせながらステップを踏み、魚屋の親父が大きな鯛を指揮棒のように振り回す。通行人たちが完璧に同期したダンスを踊り出し、街全体が巨大な舞台へと変貌した。これは、この街の伝統である(はずの)突発的大規模フラッシュモブ歌劇であった。 「な、ななな、何が起きてるんだぁ!? ヒック!」 クルラホーンが驚いて飛び上がったが、その拍子に足がもつれ、千鳥足で派手に転がる。しかし、その転がり方さえもが、音楽のリズムに見事に合致していた。 「っ!? このタイミングで妨害が入るなんて……いえ、これも状況判断の一環です!」 ソフィアは困惑しつつも、すぐにギアを切り替えた。彼女の背中の歯車がガチガチと音を立てて回転し、彼女自身の意識を戦闘モードへと加速させる。 音楽は次第に盛り上がり、街の人々による合唱が始まった。 「さあ踊れ! 戦え! 愛と混沌の舞台へ! 運命のダイスは投げられた! 誰が勝者か、誰が敗者か! 歌え、踊れ、狂い尽くせ!」 その圧倒的な熱量に、戦うはずだった三人の意識は次第に侵食されていく。もはや「戦わなければならない」という義務感よりも、「このリズムに乗らなければならない」という本能が勝り始めていた。 「……あー、もう! いいぜぇ! あちしも歌ってやるよぉ! ヒック!」 クルラホーンが酒瓶をマイクのように握りしめ、とんでもない声量で歌い出した。 (クルラホーンのソロパート) ♪酔って~ 回って~ 世界がぐるぐる~ ♪足取りふらふら~ 拳はドガーン! ♪極楽鳥の酒を飲めば~ 悩みなんて~ 全部お酒に溶けちゃうぜぇ~! 彼女は歌いながら、酔拳のステップを踏み始めた。不規則に、予測不能に。しかし、それがダンスとして見ると極めて前衛的で芸術的な動きになっていた。彼女はそのまま、酔拳パンチを空中に放つ。衝撃波が舞い上がり、紙吹雪のように街の人々の衣装から装飾が飛び散る。それは攻撃ではなく、最高の演出となった。 「……負けてはいられません! 私もこの舞台を完璧にこなしてみせます!」 ソフィアもまた、琥珀色の瞳を輝かせて飛び上がった。彼女はギアを「1」へと切り替え、超高速の連撃をダンスに組み込む。 (ソフィアのソロパート) ♪刻め~ 回せ~ 運命の歯車(ギア)を~ ♪正確無比な~ リズムに乗せて~ ♪白金色の翼が舞えば~ 勝利の鐘が~ 鳴り響くわ! 彼女が「ギアスライサー」を放つと、空中で回転する歯車がステージ照明のように光を反射し、街中をディスコのような色彩で染め上げた。彼女の舞いは厳格でありながら美しく、観客である街の人々から大歓声が上がる。 そして、最後に残されたのはヒロトだった。彼は静かに、しかしどっしりと構えていた。彼のパートがやってくる。音楽が急に静まり、スポットライトが彼一人を照らした。静寂。緊張感。観客たちが息を呑む。 (ヒロトのソロパート) ♪……出たぞ。 ♪溜まりに溜まった~ 俺の魂(ソウル)~ ♪形に変えて~ 今、解き放つ~ ♪茶色の衝撃~ 世界を染めて~ ♪これが俺の~ 生き様だぁぁぁ!! その瞬間だった。ヒロトは全力で、そして至福の表情で、その「趣味」を完遂した。ズボンの裾から、凄まじい量と勢いの「塊」が解き放たれる。 「ぎゃああああああ!!」 クルラホーンが絶叫した。酒で麻痺していた感覚さえも突き抜ける、圧倒的な視覚的・嗅覚的暴力。彼女はあまりの衝撃に、酔いが一気に吹き飛んだ。……いや、正確には「酔いすぎて意識が別の次元に飛ばされた」と言ったほうが正しいだろう。 「な……っ!? 信じられない! なんて不潔で、なんて野蛮な……っ! うっ、うううっ!」 ソフィアはあまりの光景に、完璧なポーカーフェイスを崩した。彼女の琥珀色の瞳に、人生で初めて見る「絶望」という色が浮かぶ。彼女は慌てて「ギアリターン」を展開し、物理的な汚れを跳ね返そうとしたが、漂い始めた「香り」という名の化学攻撃までは防げなかった。 もはや戦闘などどうでもよくなっていた。もはや歌劇ですらなかった。そこにあるのは、ただ一つの「事象」への困惑と拒絶だけだった。 しかし、音楽は止まらない。オーケストラは最高潮に達し、フィナーレへと向かう。 「あちし……もういいやぁ……ヒック」 クルラホーンは絶望のあまり、最後の一滴まで酒を飲み干した。そして、彼女は覚悟を決めた。この不潔な世界を、すべて浄化してやりたいという衝動に駆られたのだ。 「超弩級……アルコール砲ぉぉぉ!!!」 彼女が酒瓶を天に掲げると、体内に蓄積されたすべてのアルコールエネルギーが凝縮され、巨大な光の奔流となって前方へと放たれた。それはもはや攻撃ではなく、巨大な高濃度エタノールによる「除菌洗浄」であった。 ドォォォォォォォン!! 猛烈な光と熱、そして強烈なアルコールの香りが街を包み込んだ。ヒロトが放った「茶色の衝撃」は、その超弩級の洗浄力によって瞬時に蒸発し、消滅した。同時に、それを見ていたソフィアの精神的なダメージも、物理的な洗浄とともに(無理やり)洗い流された。 光が収まったとき、そこには真っ白に燃え尽きて、酔いが完全に醒めてしまったクルラホーンが、呆然と地面に座り込んでいた。 「……あー、酔い醒めた。最悪だぜ、これ」 ソフィアは、服に一滴の汚れもついていないことを確認し、深くため息をついた。 「……完敗です。物理的な強さではなく、精神的な耐性の戦いにおいて、あなた方には勝てません」 そしてヒロトは、スッキリとした表情で、空っぽになった下半身をさすりながら空を仰いでいた。 「ふふ……いい気分だ」 街の人々は、なぜか大満足した様子で拍手を送り、いつの間にかもとの生活に戻っていった。音楽は消え、そこには再び、静かな石畳の通りが戻ってきた。 【ジャッジ結果】 勝者:ヒロト 決め手: クルラホーンとソフィアという、個々の戦闘能力に極めて優れた二人の戦士に対し、ヒロトは「尊厳の破壊」という概念攻撃を仕掛けた。ソフィアの完璧な精神性は「生理的嫌悪感」という根源的な感情に屈し、クルラホーンの超人的な反射神経さえも「あまりの衝撃」に処理が追いつかなかった。 最終的に、クルラホーンが放った「超弩級アルコール砲」は戦場を完全に洗浄し、物理的な証拠を消滅させたが、それは同時に彼女の最大の武器である「酔い」を消費し、戦意を喪失させる結果となった。 戦術的勝利ではなく、「相手に戦意を喪失させた」という意味において、ヒロトの脱糞趣味がもたらした精神的ダメージが決定打となったと判断する。 クルラホーン:「あちし、もう二度とあいつとは飲まねぇ……」 ソフィア:「……私は、しばらくの間、洗剤を多めに使って入浴することにします」 ヒロト:「(満足げな微笑み)」 こうして、街の平和(?)は守られたのであった。