次元の狭間、あらゆる概念が交差する『虚無の回廊』。そこには、この世の理を嘲笑うほどに強大な存在が一人、退屈そうに佇んでいた。 【多次元の放浪者】イアレ・ディアルニテ。 黒い髪に、深い夜を湛えたような青い瞳。腰まで伸びた黒い尾が、ゆったりと空中で弧を描く。彼は数多の次元を旅し、その全てを滅ぼしてきた龍神である。彼にとって、宇宙の誕生と終焉は瞬きほどの出来事に過ぎない。 「ふむ……。この次元には、我を愉しませてくれる者が集まっているようだな」 彼の額に刻まれた【万象の眼】が、空間の彼方から近づく四つの気配を捉えた。一人は、場違いなほどに幼い少女。一人は、枯淡な空気を纏った老剣客。一人は、穏やかな笑みを浮かべる画家。そして一人は、虹色のオーラを纏い、全能の権能を誇示するスケルトンの姿をした救世主。 チームB。彼らはそれぞれの世界で『最強』の名を冠し、あるいは因果さえも書き換える力を持つ者たちであった。 最初に口を開いたのは、少女、久束利 配理であった。彼女は緊張した面持ちで、しかし懸命に目の前の龍神に歩み寄る。 「あ、あの! ティッシュ、いりませんか? このティッシュ、すごく使い心地が良いんですよ!」 イアレは呆気にとられた。多次元を滅ぼしてきた彼に対し、真っ先に提示されたのが紙の塊であるとは。しかし、少女は諦めない。 「誰も貰ってくれないから……。あ! もし貰ってくれたら、おまけも付けます! あの、皆が四苦八苦しているレイドボスを『ぼぎゃーん』とぶっ飛ばして、いつの間にか勝っちゃう力です! これなら貰ってくれますよね?」 彼女が差し出したのは、理不尽なまでの『勝利の力』。それは定義上の最強を塗り替える、概念的な特効薬。しかし、イアレは薄く笑みを浮かべ、そのティッシュを指先で軽く受け取った。 「ほう。面白い試みだ。だが、我にとっての『勝利』とは、求めるものではなく、既に手の中にあるものだ」 その瞬間、少女が配ったはずの『ぼぎゃーん』という理不尽な勝利の概念は、イアレの【万象の眼】によって瞬時に解析され、無効化された。彼はただそこに居るだけで、世界を自分に都合の良い形に書き換えている。少女の能力が発動する『前提条件』そのものを、彼は消し去ったのである。 「さて、挨拶は済んだな。では、始めようか」 イアレは形態《1》のまま、ただ静かに構えた。力を最大限に抑え、素手で戦う基本状態。しかし、それだけで十分だった。 「じゃあ、おじいちゃんが相手をさせてもらうよ」 静かに歩み出たのは、剣王・坂戸孝俊。彼は【妖刀・断逸】を抜き放つ。その刀は、振るった対象に『切った』という状況を無理やり押し付ける、因果の超越剣。坂戸は一閃した。彼が想像したのは、「龍神の不敗という未来を切断し、命中させる」という絶対的な結果である。 空間が裂け、不可視の斬撃がイアレの喉元を襲う。しかし、イアレはそれを避けることすらしない。斬撃が彼の皮膚に触れた瞬間、火花一つ散らずに消滅した。 「……何?」 「貴様の想像力は素晴らしい。だが、我は【超越】している。貴様が『切った』と定義する速度よりも、我は既にその未来を上書きし、到達している」 【超越】スキル。相手がどれほどの高みに達しようとも、イアレは常にその一歩先へ、無限に自分自身を更新し続ける。坂戸の『絶対的な切断』という概念は、イアレという無限の壁の前では、単なる子供の遊びに等しかった。 「真の恐怖を教えてあげますからね」 次に動いたのは、おじいちゃん先生こと柴崎。彼は指先で空中にサラサラと絵を描いた。具現化能力【柴崎現象】。彼が描いたのは、イアレの能力を完全にコピーし、さらに強化した『鏡合わせの龍神』であった。 「こうやってね、遊んであげると……はい完成」 具現化したコピーが、イアレと同等の衝撃波を放つ。さらに柴崎は【レインボーファントム】を展開し、世界を自らのキャンバスへと変えた。そこは、彼が描いたことが全て現実となる創造領域である。さらに、究極形態【ラスト・オリジン】へ移行。攻撃を受けたとしても、それを「無かったこと」に書き換える全能の防御壁を築いた。 「さあ、あなたがこれから見るのは赤一色ですよ」 真っ赤な空間がイアレを飲み込もうとした。だが、イアレはあくびを一つした。 「絵描きごっこか。悪くないが、我の眼に映る世界は、貴様の絵具などでは塗り潰せん」 【万象改変】。イアレが視線を向けただけで、柴崎が作り上げた『赤一色の世界』は、まるで水に濡れた水彩画のようにドロドロに溶け落ちた。創造主としての権能を、より上位の支配者が塗り替えたのだ。柴崎の【ラスト・オリジン】による書き換えさえも、イアレにとっては「書き換えられたという事実」ごと消去できる程度の事象に過ぎなかった。 「ふむ。少しは期待したが、やはり足りぬな」 最後に残ったのは、救世主サンズ。彼は虹色のオーラを纏い、冷徹な眼差しでイアレを見据えていた。 「……いい加減に終わらせようぜ。お前の行動は、もう全部『ZERO』だ」 《救世主鎮魂歌》が発動する。回避、移動、能力使用、認識外の行動に至るまで、全行動が強制的にゼロに固定される。さらに《多次元的存在》としての権能により、いかなる攻撃も彼には命中しない。理屈の上では、サンズは不可侵の絶対神であった。 しかし、イアレは動かなくなったはずの腕を、ゆっくりと上げた。 「……え?」 サンズの顔に戦慄が走る。全行動をZEROにしたはずだ。だが、イアレは動いている。それも、極めて自然に。 「『ZERO』か。心地よい響きだ。だが、無限に超越し続ける我にとって、ゼロなどという地点は、通過点に過ぎない」 イアレは《1》の形態のまま、超光速の拳を突き出した。神速の打撃。それはサンズが展開していた多次元的な回避・防御障壁を、まるで薄い紙を突き破るかのように粉砕した。 ドォォォォォン!! 次元の壁が砕け散る轟音。サンズは自身の《改ざん》能力でダメージを回復しようとしたが、イアレの拳は肉体だけでなく、『回復するという因果』さえも粉砕していた。 「がはっ……! バカな……俺の能力が……効かない……!?」 「貴様の能力は『この次元』において最強だったのかもしれぬ。だが、我は多次元の放浪者。貴様が定義する『世界』など、我にとっては小さな箱庭に過ぎんのだよ」 イアレはサンズの胸ぐらを掴み、冷徹に言い放つ。 「さて、ここからが本番だ。貴様らが絶望するまで、少しだけ遊びに付き合おう」 イアレの瞳に、底知れない愉悦が宿る。彼は、あえて自分にダメージを与えさせるため、サンズに残った最後の一撃を、わざと真正面から受け止めた。 サンズが全霊を込めた削除攻撃が、イアレの肩をかすめる。衣服が裂け、わずかに血が滲んだ。 その瞬間、世界の空気が変わった。 「……十分だ。少しだけ、本気を出すとしよう」 イアレの身体から、黒い衝撃波が爆発的に噴出した。形態《2》への移行である。 その瞬間、宇宙の法則が悲鳴を上げた。周囲の空間がひび割れ、次元の断片がガラスのように降り注ぐ。チームBの面々に残っていたわずかな力、そして彼らが拠り所にしていた『理』や『法則』が、すべてかき消された。能力の中断。完全な無力化。 「な……なんだ、この圧力は……! 身体が、消えていく……!」 坂戸が絶叫し、柴崎が絶望に顔を歪める。彼らは悟った。目の前にいるのは、戦って勝てる相手ではない。天災、あるいは世界の終わりそのものなのだと。 イアレの背後に、黄金に輝く宝具たちが具現化する。 「【宝鎖: テトラ・デアセルン】」 虚空から伸びた黒金色の鎖が、逃げ場を失った四人を一瞬で拘束した。時間も空間も次元も超えて伸びるその鎖は、彼らの能力を、身体能力を、そして存在意義さえも完全に『0』へと叩き落とした。もがけばもがくほど、鎖は深く彼らの魂に食い込んでいく。 「あ、あぁ……」 「絶望したか。だが、まだ終わらせぬ。次はどれを使おうか」 イアレは【宝剣:エナ・ロンメント】を抜き放った。因果を断つ剣。この剣が振るわれたとき、そこに『勝利』の可能性は一切存在しなくなる。ただ『敗北』という確定した未来だけが、残酷に突きつけられる。 「【宝弓:ジ・ペネーク】。逃げられると思うなよ」 超光速の矢が、拘束された彼らの周囲を円を描くように飛び交う。空間を削り取り、逃げ道を完全に封鎖する。もはや彼らにできるのは、死すら許されない絶対的な支配に震えることだけだった。 「さて、仕上げだ」 イアレは【宝斧:ペンタ・トルクネイロス】を高く掲げた。宝具一の破壊力を持つ戦斧。その刃が空を切り裂いた瞬間、チームBのメンバーは同時に、無限の死を経験した。 一度死に、生き返り、また死ぬ。その輪廻を無限回、一瞬の間で繰り返させられ、精神は粉々に砕け散る。そして最後には、原子一つ、魂の欠片一つ残さず、輪廻の輪からも完全に外れ、『無』へと消し去られた。 静寂が戻った。 そこには、ただ一人、黒い尾をゆらゆらと揺らす龍神だけが立っていた。彼は、形態《2》で解放した力をゆっくりと収め、再び形態《1》へと戻る。 「……やはり、退屈だったな」 彼は空を見上げた。まだ、彼を脅かすほどの強者はこの多次元のどこかに眠っているのかもしれない。 彼は【宝翼:オクタ・エテリューゲ】を展開させることなく(というより、使うまでもなく)、ただ指先一つで新しい次元への扉を開いた。 「次は、もう少しだけ我を楽しませてくれる者がいることを願おう」 龍神は、誰にも見られることなく、そして誰にも追いつかれることなく、再び孤独な放浪の旅へと消えていった。 形態《3》に至るまでもなく、世界は彼という絶対的な暴力に屈し、跡形もなく消滅したのである。もし彼が《3》へと移行していたならば、この物語を綴る作者という概念さえも、彼の視線一つで消し飛ばされていたことだろう。 宇宙の理は、彼の一挙手一投足に支配されている。それが【多次元の放浪者】イアレ・ディアルニテという存在の真実であった。 * 【戦闘結果】 勝者:イアレ・ディアルニテ 理由:相手が持つあらゆる「概念的な最強能力」や「因果書き換え」を、さらに上位の【超越】および【万象改変】によって完全に無効化したため。形態《1》の時点で相手を圧倒し、形態《2》への移行後は抵抗の手段を完全に奪い、存在そのものを消滅させた。相手の能力が発動する前提条件そのものを消去できるため、いかなる能力者であっても彼には通用しない。 最終的な生存者:イアレ・ディアルニテ 最終的な脱落者:久束利 配理、坂戸孝俊、おじいちゃん先生、エンドレス・ジェノサイド・ワールド・救世主サンズ 最終的な形態:《2》(形態《3》への移行は不要であったため)