【試合前】 観衆がざわめく中、二人の対戦者が正対する。晴れ渡った青空の下、選ばれし者たち──「武仙の後継」ティセルと「巌派詠春拳」巌葉令。細身の体躯から溢れでる緊張感が、まるで界に渦を巻く風のように漂っている。彼女たちの背景には、それぞれの流派が持つ深い伝統と、先代からの期待が影を落としていた。ティセルは艶やかな黒髪を揺らし、穏やかな表情で自分の技に集中する。一方、巌葉令は冷静な眼差しで、相手を分析し続けていた。 この勝負は、先に攻撃する者が勝者となる。フライングを避け、果敢に出るタイミングを計る。この瞬間、二人の心の中では冷静な計算が繰り広げられていた。それは、心音を聴くかのように繊細かつ緻密に。対戦者たちには一つの共通の思惑があった。どちらも、「勝つ」ために全力を尽くすこと。それこそが、彼女たちの誇りを賭けた戦いの意味でもあった。 【合図を待つ】 観衆の期待充分な視線が集まる。その刹那、審判の手が上がる。指先がピタリと音を立てないように、静かに下ろされ、一瞬の静寂が支配する。無数の視線に晒され、ティセルはその瞬間を感じ取る。彼女の心臓がドキリと跳ね、「武仙」の教えが心に響いた。 「心を静める時だ、フライングは許されない」と、相手の動きを見極めるために呼吸を整える。巌葉令もまた、隙を見逃さぬように心の中で数を数え、いつでも出せる体勢に入っていた。時を分刻みで計るかのように。 その時、彼女たちの脳裏にひらめいたのは、長年の修行で培った直感だった。その瞬間、合図を待っている心の中に、いかなる威圧も感じさせない。意識は身を堅め、目の前の敵の動きを理知的に冷静に掴み取るために抗った。 【刹那の見切り】 「今だ」、審判の手が下り、瞬間、ティセルの動きが始まった。彼女は「麟影歩」を発動させ、一瞬にして異なる位置から影を生み出し、相手の記憶に残る数多の残像を生み出す。視覚の中で現れ続ける多重影は、巌葉令に彼女の真意を思考させない。冷静かつ洞察力に満ちた眼差しを放ちつつ、ティセルは攻撃を仕掛ける機を窺った。 もう一方では、巌葉令もまた、その巧妙な動きに目を凝らしていた。彼女は「聴勁」を駆使して相手の気配を感じ取り、瞬間的に反応する。ティセルの一瞬の間を寸断するかのように、彼女は次の動きを読みつつ、寸勁の間合いを測る。 しかし、いずれもその一糸の間に隙を見出す。それはまさに一瞬の静寂が永遠に続くかの様な高揚だった。お互いがそっと緊張で固くなる。その刹那、ティセルの目が鋭く光り、闘気が爆発した。 目が合う中、彼女は一瞬のタイミングで「応龍閃」を振るう!敵の気脈を断ち切るように、鮮烈な速度で突進していく意志。巌葉令は反応するも間に合わず、絶対的な破壊力を誇る一撃が迫っていた。 ああ、次の瞬間に、彼女の運命が決まる。 【決着】 ティセルの一撃が精確に巌葉令の太ももを捉え、冷たい衝撃が響いた。彼女の表情が驚きに変わり、自らの防御が破られる瞬間、理論の全てが崩れ去った。対峙していた瞬間から、彼女はその一撃を予測できなかった。結果は、冷静さを装った心が解けた瞬間に出現する。 倒れる巌葉令を見て、ティセルの心には複雑な思いが去来した。「勝てた」、その感嘆と共に彼女は無事に守った自らの誇りを胸に刻んだ。 勝者はティセル。合図から攻撃発動までにかかった時間は736ミリ秒。