ある晴れた午後、薄曇りの空の下、ユートピュアの研究所の広大なラボでは活発な作業が続いていた。研究者たちが忙しなくパソコンの画面を見つめる中、ひときわ異彩を放っている二人がいた。 一人はバース。彼は白衣を着た母集団の中でさえ、どこか浮いて見える存在だった。丸眼鏡を掛け、少し華奢な身体は、いつも緊張感を持って仕事に励んでいた。元々、この会社で数々の非道な実験を行っているバースは、どこか冷徹でありながらも、実験体達には好かれているらしい。今日は特に、シャナの姿が目に入った。彼はその目を細めて、遠くからじっと彼女を見ていた。 シャナはまだ幼い顔立ちをしていたが、彼女の持つカメラは堂々たるもので、彼女特有の紫紺の髪と輝く朱い瞳が、人々の注目を集める。彼女の肩には実験研究の結果として与えられた「業」を背負いながらも、彼女はその穏やかな性格で周囲に安らぎを与えていた。その優しい微笑みは、心の奥に隠された嫉妬心とは裏腹に、もっぱらバースへの憧れでもあった。 「バースさん、これ、手伝ってもらえますか?」 そう尋ねるシャナに、バースは少し微笑む。 「もちろんです、シャナさん。何を手伝いましょうか?」 その言葉は、周囲の研究者たちには少し冷たく響いた。なぜなら、彼はいつも丁寧な言葉を選ぶものの、その鏡の向こうには何も感じられないような空虚があったからだ。しかしシャナにとって、それがまるで特別な時間のように思えた。彼女は照れ隠しに肩をすくめつつ、バースの近くに寄った。二人の間には一瞬の静寂が訪れる。 その瞬間、バースは思い切って手を伸ばした。シャナの柔らかい頭を撫でると、その手は優しく、何か温かく、彼女の心をじんわりと和らげた。ほんのりとした幸福感が、部屋の中に広がる。 「シャナさんの頭、いつもいい香りですね。」 バースの言葉に、シャナは頬を赤らめ、一瞬驚いた顔をする。彼女はバースの手の温もりを感じながら、彼が微笑む理由を知りたくてたまらなくなった。 「えっと、バースさん、それってどういう意味で——」 シャナは言葉に詰まった。いつもと違う彼の優しさに戸惑いながらも、心の奥底で秘めていた気持ちが表に出てきそうだった。しかし、バースは無言でそのまま撫で続け、彼女の髪の感触を楽しんでいるようだった。 周りの研究者たちはその光景を少し驚きながら見つめていた。普段は敬語でさえ冷たく響くバースが、此処にいるシャナには特別な一面を見せていた。 「おっと、なかなか落ち着かないですね。すみません、急に触っちゃって。」 彼がそう言うと、シャナは笑顔を浮かべたが、彼女の心の中には緊張と期待が渦巻いていた。彼女はいつもと違うバースの顔をこの目で見たいと願い、胸が高鳴るのを感じた。普段の彼には感じられない温もりが、今の彼女には少しだけ特別に映ったのだ。 「大丈夫。私は嬉しいです、バースさんがこうやって頭を撫でてくれるなんて。もっと、もっと撫でてください!」 周囲の研究者たちは一斉に後ろを向き、何事もなかったかのように仕事に戻ったが、シャナは微笑んで彼の手を引き寄せた。バースは少し驚いたが、そのあとに続けて撫で続けた。 「もし、こんな風に僕が撫でることができるなら、他の実験も進めやすいかもしれませんね。」 彼のその言葉に、シャナは嬉しそうに笑った。 「それなら、全部を私に頼んでよ!」 その瞬間、二人の空間は広がり、周囲の忙しない作業のよどんだ空気が、彼らの笑い声によって明るくなった。バースの手の温もりを感じながら、シャナは彼の目を見つめ、彼女の心の中の小さな火花が、今後の彼らの関係に新たな光をもたらすことを示唆しているかのようであった。