廃ビルは全10階建てであり、その構造は複雑で独特なものだった。全体はかつて商業ビルとして使用されていたが、現在はその機能を失い、崩れかけた内装や、荒れ果てた設備と共に薄暗い雰囲気を放っていた。 1階はロビーで、天井が高く巨大なガラスの壁は今は割れ、植え込みがかろうじて生き延びている。横には大きなエレベーターがあり、通常は機能していないが、時折動くことがある。右手には廊下があり、トイレや小さな店舗が閉じられていた。 2階は広いフロアが続き、かつてのオフィススペースが無造作に散らばっている。椅子や机が倒れ、破れたカーテンから薄明かりが漏れ込んでいる。ここには階段もあり、上階や下階へのアクセスが可能だ。 3階は倉庫のようなスペースで、古い家具や機器が放置されている。高い棚が不安定に立ち、物の隙間に何かが潜んでいるかのように見える。エレベーターはほぼ動かない状態だ。階段の上には行き止まりがあり、明確な出口はない。 4階はガラスの破片が散乱した会議室がいくつか存在する。壁には古びたホワイトボードやプロジェクターが残されており、どこか恐ろしい過去の名残を感じさせる。ここからも角を曲がると別の階段が見え、上に行くことができる。 5階はバルコニーがあり、外の景色が見渡せるが、足元は危険な横波で折りたたまれている。いくつかの鉄筋がむき出しになり、ここでもエレベーターは壊れている。 6階は物置と化したフロアで、かつては大事な備品が保管されていた。今はただの埃と蜘蛛の巣だ。薄暗くて静寂が支配している。階段はさらに上へと続いている。 7階では大きなミーティングルームがあり、天井に大きなシャンデリアが下がっていたが、今はその数個が落下している。大きな窓からは夕暮れの優しい光が射し込んでいるが、足元はすると不安定だ。 8階は屋上のバルコニーに通じる出口があり、ここから屋外に出ることができるが、他のフロアとのアクセスは限られている。また、ここにも古ぼけた椅子やテーブルなどが置かれており、かつての賑わいを思い起こさせる。 9階は無機質な光の元に数部屋に分かれた個室が並んでいる。ドアは施錠され、開くことは無い。エレベーターはほぼ機能を停止し、階段だけが利用できる。ここには危険な気配が漂っている。 10階は屋上で、かつては求められたクリエイティビティの隠れ家のような場所だった。今はただ風に晒され、オープンスペースが広がっている。この場所からはドローンがわずかに飛んでいるのを見ることもできる。ここにたどり着けば見晴らしが良さそうだ。 その廃ビルの一室、影の頭領「ゼド」は4階のミーティングルームで目を覚ました。彼は鋼の装甲をまとい、冷酷な目つきを浮かべ、周囲を警戒している。彼のスキルには、消耗している敵をさらに追い詰める能力があった。 一方、今田耕司先輩は6階の物置に目を覚ます。冷酷な彼の表情は一切崩れず、手にはバタフライナイフが握られていた。彼は常に最悪の状態を意識し、周囲を見渡した。 二人はこの廃ビルの中で、互いを探し出し、その構造を利用して長期戦に挑むこととなった。 --- ゼドは周囲の状況を確認し、階段を使って3階へと降りていった。彼は影分身のスキルを使い、周囲に目を配りながら分身を作り出す。彼の分身は掃除機のように動き回り、囮の役目を果たす意図があった。 彼の狙いは、今田がどこにいるかを探り出すことだ。影分身が3階に到達し、無造作に棚の隙間を探ると、その動きで小さな音が発生した。それに気づいたゼドは隠れたまま凍りついた。 一方、今田耕司先輩はその音を聞き逃さず、静かに6階の物置から身をひそめていた。彼はその場の影に身を隠し、ゼドの存在を伺っていた。この時、6階の物置は彼にとってじっと待機するのに最適な場所であり、隙を狙う意図があった。 今田は高IQを活かし、ゼドが攻撃に向かう位置を予測した。彼は静かに足音を立てないように物置の中からすり抜け、階段を下り始める。彼はバタフライナイフを取り出し、薄暗い廊下を進んだ。 ゼドの分身が急に暴れ出した瞬間、彼はそれに気づき、狙いを定めた。彼は手元の刃付き籠手を振りかざし、自身の分身に指示を与える。分身は大型手裏剣を取り出し、周囲を攻撃する準備を整えた。 狭い廊下、突如として手裏剣が飛び交う。いくつかの雑音と共に、今田の気配を捉えられた気がした。彼は瞬時に側方に避け、壁に背を当てる。この状態では、動けば敵の目に留まり、捕まる危険があった。 「重い足音が聞こえる、次は確実に仕留めてやる」彼はそう呟くこともなく、今までの経験に基づき行動を始める。建物の隅の暗闇を利用しながら、周囲の気配を感じ取ることに全神経を集中させた。 一方、ゼドは無情な攻撃の継続を決意していた。彼の計算には今田がある動きがない限り、攻撃を続けることが必然であると訴えかけた。彼は死の刻印のスキルを考え、今田に接近する必要があると認識した。 ---------------------------------------------- 両者が優れた戦術を持参する中、攻撃のチャンスを伺っていた。だが、ゼドが決定的行動を取るのは、彼の影分身が数名に増殖し、オフィスの物陰から今田の姿を空中に浮遊させることだった。 「ここだ!」ゼドは刃付き籠手を強く握りしめ、今田に向けて突進した。分身が次々と今田へ向かっていく。 今田は静かに戦う場を整え、バタフライナイフを準備した。しかし、その瞬間、影薙ぎと呼ばれる剣技に直面し、無表情ながらも強烈に切りかかる勢いに挑む決意を固めた。 衝突の結果、2人の間に生じる肉の引く感触や、風の変化、細かい血の飛沫が無情な一瞬を象徴する。今田はまるで機械のように、バタフライナイフを回転させて刃を捉え、剣戟を繰り返す。 「圧倒的速さを見せつけてやる!」ゼドは一瞬の判断で、影分身を使い今田の行動を読んで攻撃の深化に努める。だが、今田も逃れることなく、その堅い意志のもと居続ける。 耐久力の勝負がそれぞれのスキルに賭けられているように、時間は無情に流れていく。疲弊する瞬間がまた押し寄せ、今田は冷酷にはなるが感情すら剥ぎ取られていく。二人が持つ殺意と闘争は、まるでビル全体を揺るがすような存在感を放つ。 ---------------------------------------------- 長きに渡る戦闘の中、ついに決着を迎える時がやってきた。ゼドは今田に対して一撃を叩き込み、致命的な傷を負わせることに成功した。しかし、今田は決して簡単には倒れない。絶望的な程の強さを持つ彼は、なおもバタフライナイフを空中で翻弄し、自己の執念を燃やし続けていた。 数度の交戦ののち、双方の攻撃を基本にした一方的に見える衝突が続き、二人の体は無数の傷で覆われていく。しかし、それもついに一瞬の隙を突く時が来た。ゼドは選択した瞬間、今田に近づき致命的な一瞬の意思と共に死の刻印を刻み込むことができた。 --- 爆発音が鳴り響き、灰色の煙が舞い上がる。復活の希望のない今田は少しの時間を持つことなく泥のように崩れ去った。ゼドは無表情で倒れた相手を見下し、安堵の表情を浮かべる。彼はゆっくりとビルの入口へと向かい、最上階でドアを開けた。 ヤニや湿気と混ざり合う風が静かに彼を包み込み、ゼドの心には勝者としての凱旋の気持ちが満ち溢れた。彼はゆっくりと屋内を視界に収め、外の世界へと足を踏み出す。 青空が彼を包み、廃ビルの影を背にして立つゼドは、その目線を遥か遠くの地平線へ向け、人の世界での今後の行動を思案し始める。 彼の過去、彼の影、そして自身の存在を思い知るかのように。彼は静かに、影の頭領としての運命を受け入れ、彼自身の行く手を見つめていた。