酒場の外観と思い出の味わい 北風が肌を刺す夜、街の一角に灯りをともす酒場「ヴェスタの炎」があった。石造りの外壁に木製の重厚なドアが街の面影を残し、古き良き時代を思わせる静かな佇まい。内部は柔らかなろうそくの光で包まれた暖かな空間だった。壁には冒険者たちの武具や記念品が飾られ、長居したくなるような居心地の良さが漂っている。 扉を押し開いた一番手は、どちらとも言えぬ中性的な姿の足立ハレだった。薄青の病衣に包まれた姿は、この場にまるで緊張感を持たずに歩み入ると、丁寧に周囲を見渡した。定位置となりそうな角のテーブルに座ると、彼は赤い目を輝かせてメニューを見る。「おすすめは何でしょうか?」彼が訊ねると、親しげなウェイトレスがレモン風味のソーダと軽いサラダを勧めた。微笑を浮かべたハレはそのまま注文し、しばし一人の時間を楽しむことにした。 個性豊かな面々の集い 次に扉を推し開けたのはリザードマンのブトリカだ。彼が姿を見せると、その薄灰色の鱗がろうそくの光で風格を増した。茶色いジャケットの内側に隠された毒薬の容器がかすかに音を立てる。ハレに気づいたブトリカは、無言でテーブルの向かいに腰を下ろす。彼の飲物は少し特別だ。毒の研究家の彼が選ぶのは、刺激的な味わいのジャングルフルーツの発酵飲料、ハバネロスムージーだ。「安全だとは思いますが、何か起きても無害化できますからね」と冷静に話す。 喧嘩煙管を口に挟み、橙色の毛皮を揺らしながら、遂にカンがやってくる。狐耳と尻尾を持つカンは煙管を愛用し、そのジト目で周囲をじっと見据える。わざとらしく足元を叩くと、そのままカウンターでビールを頼んだ。「しっかり冷えてるといいんだが」と彼は呟いた。好みの焼魚の燻製も注文し、テーブルに戻るまでの間に、体躯の大きいブトリカと軽く目礼を交わす。 最後に入ってきたのは、黄金の髪に狐耳と尻尾を持つエレミー・メルボンド。その高貴なドレスは外の寒さから離れた暖かさを醸し出している。彼女はテーブルに向かうや否や、「皆様、お待たせいたしましたわ!」と健気さを見せる。彼女の注文は、紅茶と共に、特に好きなトマトとバジルのパスタだ。エレミーは柔らかく微笑むと、貴族の気品を漂わせつつも気取らず、すっと椅子に掛ける。 酒宴の始まりと小さなエピソード それぞれの個性が点として集まったテーブルは、やがて話題に花が咲き始めた。足立ハレは、紅茶の涼やかな香りに興味を示し、「紅茶にも色々と深みがあるのですね」とエレミーに問いかけた。エレミーは熱弁を振るう。「本当に奥深いものですわ。特に保管の仕方で全く別物になりますの」。その言葉に耳を傾けつつも、ハレは優雅に頷いていた。 一方、ブトリカとカンは言葉少なに飲み交わしていた。カンがぼそっと、「その毒、飲んでも大丈夫か?」とハバネロスムージーを指摘する。ブトリカは少しの沈黙を置いてから、「まぁ、一種の嗜好ですから」と答え、薄紫の瞳が意味深に光る。リザードマンの彼にとって、そのスムージーは毒と言うよりも調査の一環だ。カンは得意げに笑みを見せ、「さすが理解が深いな、お前は」と茶化し、煙管を咥える。 甘い夜の終焉を告げる戯曲 酔いが回り始めると、みなそれぞれささやかな変化を見せる。足立ハレは特段アルコールに強いわけではなく、あまり進めてないはずのソーダにも酔った様子を見せ、「温かいですね…皆さんといると」と少し顔を赤らめた。カンは酔いの中で少し陽気になり、尻尾をふさふさと揺らし始める。彼は酔っ払いながらも尻尾に他のものが触れるのを嫌うようだ。 温かい光の包まれた中、一番しっかりしているように見えたブトリカですら、やや高揚感を持った面持ちで静かに尾を振り、仲間達の笑いを誘った。エレミーは、酒の影響で少しだけ陽気さを増しつつ、その気品を失うことはない。「こういう時間も大切ですわね」と、彼女は誇らしげに語って、微笑む。 --- 勘定の時間 1. 足立ハレのレモン風味のソーダとサラダ:600円 2. ブトリカのハバネロスムージー:750円 3. カンのビールと焼き魚の燻製:800円 4. エレミーの紅茶とトマトとバジルのパスタ:1000円 合計:3150円 それぞれが財布を開く音が穏やかな夜の終わりを告げ、温かな酒場から暖かく穏やかな一夜が静かに過ぎていくのだった。