静寂が支配する虚無の空間。そこは次元の概念すら存在せず、ただ「存在」と「非存在」がせめぎ合う特異点であった。そこに、一人の男が立っていた。黒髪に青い瞳、そして静かに揺れる黒い尾。多次元の放浪者、イアレ・ディアルニテ。彼は退屈そうに、対峙する「チームB」を眺めていた。 彼の前には、奇妙な集団がいた。自らを「真の作者」と称し、物語の外側から全てを支配しようとする不気味な存在、supreme author。そして、開始早々に死ぬことで味方を強化するという特異な能力を持つ男、最速で死ぬマン。かつての栄光を胸に秘めた老魔王幹部。そして、黄金と銀の概念的霧として漂う、至高の原型の断片、ガラムルとマダング。 「……ふむ。面白い。我を愉しませてくれる者が、ここには揃っているようだな」 彼は静かに微笑んだ。一人称を「我」とするその口調には、数多の次元を滅ぼしてきた龍神としての傲慢さと、それに見合う絶対的な自信が満ちていた。 【試合開始】 合図が鳴るよりも早く、戦場に異変が起きた。チームBの「最速で死ぬマン」が、文字通り最速で絶命したのである。彼の能力は不可避であり、死という結果を強制的に導き出す。彼は絶叫すら上げず、ただ事象として「死」を迎えた。 その瞬間、凄まじいエネルギーの奔流がチームBを包み込んだ。死による恩恵。全ステータスの5000京倍という天文学的な上昇、能力の5000万倍という絶望的な強化。さらに、彼らは「不死身」となり、相手の能力を無効化する究極の補正を得た。同時に、イアレ・ディアルニテには「超弱体化」と「能力消滅」、「絶不調」と「感電」という呪いのようなデバフが降り注ぐ。 しかし、彼は動じなかった。むしろ、その瞳に宿る碧色の光がわずかに強まった。 「……なるほど。死をもって味方を引き上げるか。だが、我の前にして『能力の消滅』を語るとは、片腹痛いな」 彼は形態《1》――力を極限まで抑えた基本状態のまま、ただそこに立っていた。本来であれば、最速で死ぬマンの能力により、彼の能力は消え失せ、弱体化しているはずだった。だが、彼の額にある【万象の眼】が怪しく光る。森羅万象を見通し、支配するその眼は、降り注いだデバフという「法則」そのものを、彼にとって「都合の良い栄養」へと書き換えていた。 「万象改変。我に不都合な事象は、すべて我の糧とならん」 【超越】スキルが発動する。彼は相手が与えた弱体化を瞬時に超越し、さらにその上の次元へと自分を引き上げた。ステータス5000京倍? そんなものは、無限に超越し続ける彼にとっては、砂粒を積み上げる程度の意味しか持たない。 そこへ、ガラムルとマダングが動いた。黄金と銀の霧が、宇宙を飲み込むほどの圧力で彼に襲いかかる。彼らは【絶対不可侵】を纏っていた。いかなる攻撃も、いかなる理屈も通用しない、究極の防御壁。彼らはイアレを「赤子」のようにあしらい、その存在ごと消し飛ばそうとした。 「【絶対不可侵】か。理屈上、超越不能……。ふむ、ならば理屈を捨てれば良いだけのこと」 彼はただ、素手で拳を突き出した。神速の打撃。超光速すら置き去りにし、次元の壁を粉砕する一撃。ガラムルとマダングは、自分たちの【絶対不可侵】が、彼の一撃によって「紙切れのように」引き裂かれる光景を見た。彼らにとっての「絶対」は、イアレにとっての「些事」に過ぎなかったのだ。 「が……!? 我らの不可侵が、貫かれた……!?」 驚愕に染まる概念的霧を、彼は冷酷に一蹴する。尾の薙ぎ払いが空間を断ち切り、黄金と銀の光を四散させた。絶望的な力の差。彼らはただ「強い」のではなく、次元の階層が根本的に異なっていた。 そして、ついに「真の作者」supreme authorが動いた。彼は口を閉ざしたままだが、その意志は明確だった。彼は【作者側】の権能を行使する。物語の書き手として、この戦いの結末を「自分の勝利」と確定させた。彼は創作物の枠組みの外におり、内部の存在であるイアレには決して干渉できないはずだった。彼にとってイアレは、単なる「文字で書かれた人形」に過ぎない。 supreme authorは指を鳴らした。その瞬間、イアレ・ディアルニテという存在を、物語から「消去」しようとした。 だが、消えなかった。 「……ほう。作者を気取るとは、いい度胸だ」 イアレは初めて、わずかに不快そうに眉をひそめた。彼に届いた「消去」という命令。それは物理的な攻撃ではなく、存在定義の抹消である。しかし、彼は【万象の眼】で、自分を縛ろうとする「物語という枠組み」そのものを視認していた。 「我は多次元を旅し、数多の理を滅ぼしてきた。貴様が想定する『作者』という役割すら、我にとっては一つの法則に過ぎぬ。そして、法則は我によって書き換えられる」 彼はついに、形態を移行させた。 《2》 その瞬間、宇宙の法則が激しく乱れた。空間がひび割れ、星々が逆流し、因果律が崩壊し始める。彼が力を解放しただけで、周囲のあらゆる能力が強制的に中断され、かき消された。supreme authorが持っていた「作者としての特権」が、ノイズのように乱れ始める。 「不死身? 無効化? そんなものは、我の前にしては意味をなさない」 彼は【宝鎖: テトラ・デアセルン】を展開した。時間と空間、次元を超えて伸びる鎖が、supreme authorという「枠組みの外の存在」をも捉えた。作者側超越などという概念すらも、この鎖の前では無力である。鎖は相手の能力を強制的に「0」にし、逃げ場を奪った。 「貴様にとって我はフィクションだったかもしれぬ。だが、今はどうだ? 現実という檻に閉じ込められた気分は」 絶望に染まるsupreme authorに対し、彼は【宝剣:エナ・ロンメント】を抜き放った。因果と次元を断つ一撃。彼が「勝利に至る因果」を完全に切断し、「敗北」という結果を絶対的に確定させた。 閃光が走り、supreme authorの「作者としての権能」が、物理的に、そして概念的に斬り裂かれた。 しかし、まだチームBには【最強だった】元魔王幹部爺さんが残っていた。彼は己の身を挺して味方を守ろうと、藁人形のスキルでダメージを肩代わりし、倒れた仲間を蘇生させようと試みる。 「まだ……まだ終わらせんぞ! 後輩たちを、そして作者殿を……!」 だが、その気概すらも、彼には届かない。イアレは冷徹に【宝斧:ペンタ・トルクネイロス】を振り下ろした。一撃。ただの一撃だった。しかし、その斧に触れた瞬間、老魔王は数京回の死を同時に体験し、魂の欠片すら残さず、輪廻の輪から完全に消滅した。 戦場には、もはや彼一人だけが立っていた。 彼は静かに、武器を収めた。形態《2》による宇宙の崩壊が収まり、再び静寂が訪れる。彼は一度も形態《3》を出す必要はなかった。彼にとって、この戦いは「強者との激闘」ですらなかった。ただの「片付け」に過ぎなかったのだ。 「……期待外れだ。作者を名乗る者が、これほどまでに脆いとはな」 彼は再び、退屈そうな表情で多次元の彼方へと歩き出した。その背中には、誰にも見られることのない「究極の翼」が隠されていたが、それを必要とする相手は、この宇宙には一人として存在しなかった。 * 【supreme authorはなぜ勝てたのか?】 → 結論から言えば、彼は勝てなかった。彼は「作者側」という絶対的なメタ能力を持っており、通常であればどのようなキャラクターも彼に抗うことは不可能である。しかし、対峙したイアレ・ディアルニテは、「法則そのものを書き換え、超越し続ける」という、メタ能力すらも「一つの法則」として処理し、上書きできる龍神であった。作者が「設定」した勝利という結果を、イアレが「万象改変」と「超越」によって物理的・概念的に破壊したため、作者としての特権は消失し、敗北した。 ・勝者の名前:イアレ・ディアルニテ ・勝利した理由:相手が持つ「作者側超越」や「絶対不可侵」という究極のルールを、それ以上の高次元から「書き換え」および「超越」し、宝具によって因果ごと切断したため。 ・最終的な生存者名:イアレ・ディアルニテ ・脱落者名:supreme author、最速で死ぬマン、【最強だった】元魔王幹部爺さん、ガラムル、マダング ・最終的な形態:《2》