第一章:不運な招待状と黄金の野心 深夜。月さえも厚い雲に塗りつぶされた夜だった。深い森の奥にひっそりと佇む、古びた、しかし巨大なゴシック様式の屋敷。そこには、およそ釣り合わない面々が集まっていた。 「いやぁ……本当にここに入るんですか? 雰囲気が怖すぎるし、俺、やっぱり家に帰って勉強したいです……」 茶髪をマンバンに結った少年、蘭 咲龍は、震える手で聖なる定規を握りしめていた。彼は不運にも、ある種の「選ばれた人間」として、この奇妙な潜入ミッションに巻き込まれていた。彼にとっての正解は、教科書の中にあるはずだった。 「ふふん! 案ずることはございませぬわ、咲龍さん! 朕がついておりますですのぉ〜!」 快活に、そして尊大に笑ったのは、黄土色の軍服を身に纏った美少女、エントラである。金色の瞳を輝かせ、手には特注の狙撃銃『スターライファス』を軽々と担いでいる。見た目は可憐な少女だが、中身は機械傭兵団を支える天才経済学者であり、資産額は天文学的な数字に達している。 「お嬢様、あまり前へ出すぎないでください。夜道に足元を掬われれば、わたくしの心臓(ポンプ)が止まってしまいます」 冷静な声音でたしなめるのは、黒髪の美女、コルナだ。メイド服をベースにした機能的なスーツに身を包み、両手にはそれぞれ『ティータイム』と『コーヒー』と名付けられた拳銃を携えている。彼女の佇まいは完璧な淑女であり、同時に冷徹なプロの傭兵でもあった。 彼らの目的は単純だ。屋敷に眠るお宝を略奪し、合計15,000ゴールド以上を集めて脱出すること。集めた宝はそのまま個人の所有物となる。強欲な人間であれば、15,000ゴールドなど通過点に過ぎないだろう。 「いいですわ! 朕はここを征服し、ついでに屋敷の中にある価値あるものを根こそぎいただくですの! さあ、参りましょう!」 エントラの号令と共に、三人は重厚な扉を押し開け、闇に塗り潰された屋敷へと足を踏み入れた。 第二章:静寂と足音のワルツ 屋敷の内部は、外観以上に不気味だった。至る所に埃を被った調度品が並び、廊下からは湿ったカビの匂いが漂ってくる。しかし、エントラの目は金色の光を放っていた。 「あら、あそこにありま~す! あれは18世紀の貴族が愛用した金縁の燭台ですわね。価値は……ふむ、およそ2,000ゴールドといったところかしら」 エントラがひょいと燭台を拾い上げる。彼女にとって、金銭的な価値を見抜くことは呼吸をするよりも簡単だった。その後を追うコルナが、周囲を警戒しながら静かに囁く。 「お嬢様、あまりに派手に動かれますと、『お客様』が来ますよ。……ん? 何か聞こえません事か」 ドォォォン……。 地響きのような、重い金属音が廊下の奥から聞こえてきた。規則正しく、しかし圧倒的な重量感を持って近づいてくる足音。咲龍は顔を青くし、聖なる定規を強く握りしめた。 「な、なんですか今の音!? 誰か来る!」 「……ゼニスです。逃げなさい。あれに見つかれば、抗う術なく気絶させられます」 コルナの冷静な判断に、三人は即座に近くの大きなクローゼットへと飛び込んだ。隙間から外を覗くと、そこには漆黒の甲冑に身を包んだ巨躯の騎士、ゼニスがゆっくりと通り過ぎていく。その威圧感は、生きている人間が太刀打ちできるレベルではなかった。 (怖い……本当に怖い! でも、ここで諦めたら俺は……!) 咲龍は心の中で自分を鼓舞した。彼は誰よりもお人好しで、責任感が強い。自分がここで脱落すれば、この奇妙な二人をサポートできなくなる(あるいは、彼女たちが彼を置いていくかもしれないが)という強迫観念が、彼を突き動かしていた。 第三章:混沌の収集時間 ゼニスが去った後、彼らは再び探索を開始した。エントラは天才的な効率で「金になるもの」を嗅ぎつけ、次々とカバンに詰め込んでいく。 「見てくださいまし! こちらには宝石を散りばめた灰皿が3,000ゴールド! あちらの古ぼけた絵画は、実は失われた名作で5,000ゴールドですわ! 合計で10,000ゴールド達成ですのぉ〜!」 「お見事です、お嬢様。ですが、まだ目標まであと5,000ゴールド足りませんね。……おや、あそこに『ふしぎ箱』がございます」 廊下の突き当たりに置かれた、古びた木箱。コルナが慎重に蓋を開けると、中から飛び出したのは大量の……高級な紅茶の葉だった。 「あら? お茶ですわ」 「まあ! 幸運ですわね。ちょうどティータイムの時間でしたわ。皆様、どうぞ」 コルナが手際よく、その場で最高級の紅茶を淹れ、三人に振る舞う。極上の香りに包まれ、咲龍の緊張が少しだけ解けた。しかし、その安らぎは長くは続かなかった。 ギギギ……ッ。 背後の闇から、小さく、しかし鋭い音が聞こえた。振り返ると、そこには白いワンピースを着た人形のような少女、ルナがナイフを構えて立っていた。彼女の瞳には感情がなく、ただ一点、咲龍だけを凝視していた。 「ひいいいいっ!!」 「咲龍さん、走ってください! ルナは執拗に一人を追い詰める習性があります! 今はあなたがターゲットですわ!」 エントラの叫びと共に、咲龍の全力疾走が始まった。背後からルナが音もなく、しかし確実に距離を詰めてくる。逃げても逃げても、曲がり角を曲がれば必ずそこに彼女が立っていた。 「なんで俺なんだよー!!」 必死に走る咲龍。しかし、その逃走ルートの先に、最悪の出会いが待っていた。壁際でぼんやりと立っていたのは、ガラガラの骨だけになったガイコツ、ダイアスだった。 第四章:絶望の合唱と、理外の介入 「あ……」 咲龍が声を上げる暇もなかった。ダイアスは彼を見つけるやいなや、肺のない胸腔から最大級の叫び声を上げた。 ガァァァァァァァー!!!!! その咆哮は、屋敷中の空気を震わせ、合図となった。ルナが速度を上げ、どこからともなく死神サジーの鎌が空を切り、そして遠くで眠っていたはずの黒騎士ゼニスの足音が、猛烈な勢いでこちらへ向かってくる。 「最悪ですわ! 全員集まってしまいますわよ!」 エントラが慌ててスターライファスを構えるが、敵は攻撃不能。弾丸は虚しく空を切り、あるいは鎧に弾かれた。もはや逃げ場はない。 絶体絶命。咲龍は目を閉じ、聖なる定規を胸に抱いた。もはやここまでだ、と諦めかけたその時――。 (……?) ふっと、周囲の音が消えた。猛烈な勢いで迫っていたルナのナイフが、空中でピタリと止まった。ゼニスの足音も、サジーの唸り声も、すべてが「停止」したかのように静まり返った。 そこには誰もいなかった。気配もない。生命反応すらない。 しかし、世界の色がわずかに変質した。まるで誰かが現実というキャンバスに、見えない筆で上書きをしたかのような違和感。そこにいたのは、影ですらなく、「存在しないこと」そのもののような、謎の生命体だった。 その存在は何もせず、ただそこに「在った」。すると、襲いかかろうとしていた敵たちが、まるで磁石の同極に弾かれるように、自然と後方へ押し戻されていった。攻撃したわけではない。ただ、「ここにいてはいけない」という理(ことわり)が書き換えられただけだった。 「な……今のは一体……?」 コルナが呆然と呟く。しかし、その謎の存在は、一瞬にして霧のように消え去った。残されたのは、再び動き出した敵たちと、混乱する三人のみである。 「呆けている暇はありませんわ! 今の隙に、あそこの金庫を奪って脱出ですわよ!!」 エントラの鋭い指示に、三人は再び走り出した。 第五章:凱旋か、それとも…… 屋敷の奥深き大ホール。そこには、眩いばかりに輝く黄金の王冠が安置されていた。推定価値、10,000ゴールド。 「あれさえあれば、目標達成ですわ!」 エントラが王冠をひったくった瞬間、屋敷全体が激しく揺れた。敵たちが一斉に大ホールへと集結する。サジーの鎌が咲龍の鼻先をかすめ、ゼニスの巨大な剣が床を叩き割った。 「早く! 出口はあっちですわ!」 三人は互いの手を引き、地獄のような廊下を駆け抜けた。背後からはルナが、そしてダイアスが再び叫び声を上げている。もはや潜入ではなく、全力の逃走劇だった。 「くっ……もう、限界だ……!」 咲龍の足がもつれる。しかし、彼は隣で走るエントラの不敵な笑みと、コルナの冷静なサポートに支えられていた。彼の中に眠る「誰よりも強い心」が、恐怖を乗り越え、一歩前へと足を突き出させる。 「あそこです! 出口が見えましたわ!!」 目の前に、月明かりに照らされた屋敷の玄関が見える。三人は最後の一力を振り絞り、転がるようにして外へと飛び出した。 ガチャン!! 背後の扉が激しく閉まり、中の喧騒が遮断される。三人は芝生の上に大の字に寝転がり、激しく肩で息をついた。 「ふぅ……生き残りましたわね。あぶなかったですわ」 エントラが勝ち誇ったように、奪い取ったお宝を広げた。燭台、絵画、灰皿、そして黄金の王冠。 「計算しますわよ……合計、20,000ゴールド! 成功ですわ!!」 「お疲れ様でした、お嬢様。さて、帰宅してゆっくりとお茶を淹れ直しましょうか」 コルナが微笑む。咲龍は空を見上げ、深く、深いため息をついた。もう二度と、こんな屋敷には入りたくない。そう思いながらも、彼はどこか、この奇妙な仲間たちとの時間が悪くなかったと感じていた。 闇の中、彼らを見送るように、正体不明の「理」が静かに消えていった。 * 【ゲーム結果】 ■脱出成功者: ・エントラ ・コルナ ・蘭 咲龍 ■脱出失敗者: ・なし ■集めたお宝総額: 20,000ゴールド