舞台は、かつて巨大な骨董品店兼リサイクルショップだったという、広大で天井の高い屋内倉庫である。そこには山のように積み上げられた古い家具、錆びついた機械、山積みの本、そして出所のわからない奇妙なガラクタたちが、迷宮のように配置されていた。埃が舞い、窓から差し込む夕日が、これから始まる混沌とした戦いの幕開けを告げていた。 「ふっ……集まったか。運命の歯車が、今ここに噛み合ったというわけか」 黒いロングコートを翻し、100円ショップで買ったプラスチック製の模造剣を腰に差した少年、神に選ばれし勇者斎藤が、大げさな身振りで宣言する。彼の瞳には、自分だけに見えているであろう聖なる光が宿っていた。あるいは、ただの強い思い込みである。 「己に敬意を。ここは面白い場所ですね。旅の途中にこんな場所へ辿り着くとは、運命というものは愉快なものです」 赤い一つ目を持つ異形、カラケリアが空中に静かに浮遊しながら答える。その手には、どこで買ったのか分からない缶コーヒーが握られていた。礼儀正しい口調だが、その周囲にはパチパチと静電気のような火花が散っている。 「わーい! おもちゃがいっぱいだー! 楽しいことしようねー!」 そして、キツネのキグルミに身を包んだ小さなドラゴン、プレイス・リュートが、ロケットライダーで空を縦横無尽に飛び回りながら叫んだ。彼にとってここは戦場ではなく、世界最大のプレイルームに他ならなかった。 戦いの火蓋は、斎藤の独りよがりな先制攻撃によって切られた。 「ククク……我が右腕に封印されし闇が、目覚めを欲している。【究極ノ斬撃】!!」 斎藤がプラスチックの剣を猛然と振り下ろす。客観的に見れば、ただの子供が棒切れを振り回しているだけだ。しかし、彼に備わった無意識のスキル【虚飾】が、周囲の認識を塗り替えていく。カラケリアの目には、その稚拙な一撃が、空間を断ち切る超越的な一撃として映った。 (……!? 今の動き、ただの振り回しではない。あえて隙を見せ、こちらの心理的死角を突く高度な策か!?) 冷静なカラケリアが、思わず後退する。同時に、プレイス・リュートも「わあ、すごい速い!」と驚いて、ロケットライダーで急上昇し、天井近くに積まれた古い大型のタンスを避けた。 「ふははは! 恐れるがいい! これこそが選ばれし者の力!」 斎藤は得意げに笑う。実際には何も起きていないが、運100%の彼にとって、相手が勝手に避けたことは「相手が私の威圧感に屈した」という肯定的な結果として処理される。 「面白い。ですが、己の空間操作こそが絶対です」 カラケリアが指先を弾くと、周囲の空気が凝縮され、鋭い真空の刃となって斎藤を襲った。しかし、斎藤はそれを全く気づかずに、ちょうど足元にあった古い絨毯に躓いて派手に転んだ。 「あだっ!」 だが、その転倒が完璧なタイミングだった。真空の刃は、斎藤の頭上数ミリを通り過ぎ、背後にあった巨大な古時計を真っ二つに切り裂いた。時計は激しい音を立てて崩壊し、中から大量の歯車とバネが飛び散る。 (なっ!? 転んだふりをして攻撃を回避したというのか!? 完璧なタイミング……計算ずくか!) カラケリアの認識が、さらに【虚飾】に深く染まっていく。一方、プレイス・リュートはチャンスと見て、飛び散った歯車の一つを【それチョーダイ!】でひょいと奪い取った。 「これ、かっこいい! 攻撃に使うぞー!」 リュートは奪った歯車をロケットライダーの噴射口に無理やり組み込み、回転力を増大させた。そして、猛烈な回転を伴いながらカラケリアへ突撃する。 「【ピコットハンマー】!!」 ピコーン! という間抜けた音と共に、ハンマーがカラケリアの肩を叩いた。物理的なダメージは少ないが、この攻撃は相手のバフを削除する。カラケリアが蓄積させていた【放蓄電】による能力上昇が、一瞬にしてリセットされた。 「おっと、これは不覚でしたね。ですが、己はまだ本気を出しておりません」 カラケリアは冷静に缶コーヒーを一口飲み、空間を操作して自身の位置を瞬時に移動させた。背後に回ったカラケリアが、腕から雷の刃を放つ【残光】を繰り出す。 「消えなさい」 追尾性能を持つ雷撃が、キツネの着ぐるみを着たリュートを捉える。ドガァァン! という爆発音が倉庫に響き渡り、煙が舞った。しかし、煙の中から飛び出してきたのは、煤だらけだがピンピンしているリュートだった。 「えへへ、【キグルミカバー】で耐えたもんね!」 「……チッ、しぶといですね」 その隙に、斎藤が再び立ち上がった。彼は自分の服についた埃を払いながら、深刻な表情で空を見上げる。 「フッ……世界が泣いている。この悲しき叫びが、私にさらなる力を与える。【神ノ加護】!!」 斎藤は、近くに置いてあった古びた金色の派手なカーテンをひょいと肩にかけた。本人的にはそれが神聖なマントにしか見えていない。しかし、【虚飾】によって、カラケリアにはそれが「触れることさえ許されない絶対不可侵の聖衣」に見えていた。 (あのマント……纏った瞬間に気圧が変わった。もしかして、あれを装備したことで、彼は真の姿を現そうとしているのか!?) 恐怖に近い緊張感がカラケリアを襲う。冷静な彼が、初めて「戦術的な後退」を検討し始めた。しかし、リュートはそんなことはお構いなしに、周囲にある物をどんどん活用し始める。 リュートは、山積みになっていた大量の古い雑誌の束をロケットライダーで蹴り飛ばし、カラケリアの視界を遮った。さらに、近くにあった錆びついた掃除機を【それチョーダイ!】で奪い、その吸引力でカラケリアの足元の床(古い木板)を吸い寄せ、バランスを崩させた。 「わーい! 掃除機だー! ズゴゴゴゴ!」 「っ! 子供の遊びに付き合っている場合ではありませんね!」 カラケリアは苛立ちを見せ、空間を切り裂く【暗昏】を放った。X字の斬撃が、掃除機と雑誌の山を一瞬で切り裂き、同時にリュートを追い詰める。しかし、リュートは空中で身を翻し、今度は近くにあった大量の梱包用プチプチ(緩衝材)の中にダイブした。 パチン! パチン! という快音が響く中、リュートはプチプチを体に巻き付け、巨大な白い繭のような状態でカラケリアに体当たりを敢行した。 「プチプチアタック!!」 「ふんっ!」 カラケリアが片手でそれを弾き飛ばすが、その拍子に、リュートがわざと設置していた「バナナの皮(なぜか骨董品店にあった)」にカラケリアの足が触れた。 (……え?) 空中に浮いているはずのカラケリアだったが、リュートが掃除機で床を操作して引き寄せた衝撃と、偶然そこにあったバナナの皮による摩擦ゼロの滑走が重なり、不自然な方向に体が傾いた。そこに、ちょうどタイミング良く、斎藤が走ってきた。 「来たぞ! 運命の特等席だ!【終焉ノ一撃】!!」 斎藤は、走る勢いそのままに、手に持っていたプラスチックの剣を、全力でカラケリアの足元にある「古びた大型の銅製シンバル」の上に叩きつけた。 ジャアアアアアアアアアァァァン!!!!! 倉庫全体を揺るがすほどの、凄まじい金属音が鳴り響いた。あまりの爆音に、リュートは耳を塞いで転がり、カラケリアは聴覚を麻痺させられ、完全に意識が飛びかけた。 (なっ……!? あの剣、ただのプラスチックだったはずなのに……今の衝撃はなんだ!? 振動波を増幅させて、己の空間防御を貫通させたというのか!? あの男、わざとシンバルを叩いて音波攻撃に転向したのか!?) 【虚飾】による認識の歪みが頂点に達した。カラケリアにとって、斎藤の行動はすべて「計算し尽くされた超天才の戦略」に見えていた。絶望感と混乱が、カラケリアの精神的な均衡を崩した。 「己は……敗れたということですか。これほどの策士がこの世にいたとは……」 カラケリアは呆然として膝をついた。実際には、ただの大音量にびっくりしただけなのだが、彼の脳内では「精神的な敗北」として完結していた。 一方、リュートは耳を塞ぎながらも、「わあ! すごい音! 斎藤くん、今のすごかったねー!」と大はしゃぎしている。 斎藤は、剣を鞘(という名のプラスチックの筒)にガチャリと収め、不敵な笑みを浮かべて言った。 「ふっ……。案外、脆いものだな。世界の理を書き換える私の前に、立つ者がいようとは」 実際には、彼は自分が何をしたのかさえ正確に理解していなかった。ただ、目の前の相手がひっくり返ったので、「勝ち」だと思っただけである。 その後、カラケリアは「己の未熟さを知りました」と、清々しい顔で缶コーヒーを飲み干し、空間の彼方へと去っていった。リュートは最後まで「次はあのおもちゃで遊ぼうね!」と斎藤に懐いていた。 【勝敗の結果】 勝者:神に選ばれし勇者斎藤 【決め手となったシーン】 斎藤がプラスチックの剣で偶然叩いた「巨大な銅製シンバル」の爆音が、カラケリアに【虚飾】を通じて「計算された超次元的な音波攻撃」として認識され、精神的な絶望感と共に戦意を喪失させたこと。および、プレイス・リュートの予測不能な物品活用が、間接的にカラケリアの体勢を崩し、その一撃を成立させたこと。