「お婆ちゃん、あのお話を聞かせて! お願い!」 膝の上に飛び乗ってきた孫の少年が、期待に満ちた目で祖母を見上げます。お婆ちゃんはくすくすと笑いながら、少年の頭を優しく撫でました。窓の外には柔らかな夕陽が広がり、部屋の中にはお茶の香りと、心地よい静寂が満ちています。 「おやおや、仕方ないねえ。よしよし、いいお話を聞かせてあげよう。これはね、ずっと遠い遠い、空の向こうにある不思議な国で起きた、二人の『優しい心』を持つ若者の物語だよ」 お婆ちゃんはゆっくりと語り始めました。その声は、まるで子守唄のように心地よく、少年の想像力を刺激していきます。 「むかしむかし、あるところに、村人Dという少年がおりました。彼はどこにでもいるような、ごく普通の村の少年に見えましたが、実はとても悲しい秘密を持っていました。彼は、遠い昔に戦争のために作られた『生物兵器』という、恐ろしい力を持つ種族の一人だったのです。でも、Dくんはそんな運命を嫌い、誰よりも優しく、困っている人がいればすぐに手を差し伸べる、心優しい少年として生きていました。 Dくんは、自分の正体を誰にも知られたくありませんでした。ただ、静かに、みんなと笑い合って暮らしたい。けれど、彼の心の奥底には、誰にも言えないほど大きな願いがありました。それは、『世界中のすべての人を、一人残らず救いたい』という、途方もなく、けれど純粋な、大きすぎるほどの『欲』だったのです」 「お婆ちゃん、欲があるのに優しいの?」 少年が不思議そうに尋ねると、お婆ちゃんは微笑んで答えました。 「そうだよ。でもね、それは自分のお菓子をたくさん欲しいという欲ではなくて、『みんなを幸せにしたい』という、愛に近い欲だったんだよ。Dくんは、その強い心に導かれて、ある日、不思議な旅に出ました。そこで出会ったのが、もう一人の若者、NPC HELL HAZARDさんという方でした」 「HELL HAZARDさんはね、見たところとても朗らかな方でした。いつもにこにこと作り笑いを浮かべていて、誰に対しても親切に接していました。けれど、彼の中には、想像もつかないほどの激しい苦しみが渦巻いていました。彼は、世界を破滅から救うために、あえて自分の中に『破滅のエネルギー』という恐ろしい毒のような力を取り込んだ勇者だったからです。 本来、人間の体でそんな力を持つことはできません。彼の体は、常に内側からじわじわと破壊され、自我が崩壊しそうなほどの激痛に襲われていました。それでも、彼は笑っていました。『自分が苦しめば、世界が幸せになる』。そう信じて、彼は自分の痛みを誰にも悟られないように、作り笑いの仮面を被って旅をしていたのです」 「痛いのに笑ってるなんて、かわいそう……」 少年の声に、お婆ちゃんは頷きながら物語を続けます。 「そうだね。とても切ないことだね。そんな二人が出会ったとき、運命のいたずらか、あるいは世界の導きか、彼らは戦うことになりました。お互いに、相手が自分と同じように『誰かのために』生きていることを知りながらも、どちらの『救い』が正しいのかを証明しなければならなかったのです」 「戦いは、静かな草原で始まりました。まずはHELL HAZARDさんが動きました。彼はにこにこと笑いながら、体内の破滅のエネルギーを外へと解き放ちました。ドォォォン! という爆発的な衝撃波が地面を割り、空を揺らします。破滅のエネルギーは攻撃力を極限まで高め、触れるものすべてを塵に帰そうとします。 けれど、村人Dくんは慌てませんでした。彼は静かに目を閉じ、自分の心の中にある『七つの大罪』をモチーフにした特別な力を呼び覚ましました。Dくんの能力は、相手が持つ『欲の核』を見抜き、それを砕くことで力を封じるというものでした。 『あなたの苦しみ、そしてその裏にある願い……僕には分かります』 Dくんが手をかざすと、見えない衝撃がHELL HAZARDさんを襲いました。しかし、HELL HAZARDさんは破滅のエネルギーを盾にしてそれを防ぎます。エネルギーの壁は鋼よりも硬く、Dくんの攻撃を跳ね返しました。 『ははは! まだまだですよ、少年! 私は世界を救うまで、決して諦めません!』 HELL HAZARDさんは笑いながら叫びましたが、その瞬間、彼の体から血が噴き出しました。破滅のエネルギーを使いすぎたため、内側から肉体が崩壊し始めたのです。それでも彼は、すぐにまたエネルギーを使って体を再生させました。再生し、破壊され、また再生する。それは地獄のようなサイクルでしたが、彼はそれを『勇者の義務』として受け入れていました」 「お婆ちゃん、どうして戦わなきゃいけないの? 二人とも優しいのに!」 「それが運命というものなのさ。けれどね、この戦いの中で、二人は会話を交わしたんだよ」 「戦いの合間、二人は不思議と心を通わせていました。 『あなたも、本当は辛いのでしょう?』とDくんが問いかけました。 『辛い? いいえ、これは幸せなことですよ。私の苦痛が、誰かの笑顔に変わるなら』とHELL HAZARDさんは答えました。 Dくんは気づきました。この人は、自分を犠牲にすることに快感すら覚えている。それは究極の自己犠牲であると同時に、『自分が救世主でありたい』という、深く、静かな、けれど強固な『欲』に基づいていることに。 一方でHELL HAZARDさんも、Dくんの瞳の中に、世界中のすべての人を救いたいという、底なしの大きな欲求を見たのです。 『ふふふ……君の欲は、私よりもずっと貪欲だ。世界すべてを救いたいなんて、最高の贅沢だね』 二人は笑い合いました。戦いながら、お互いの孤独と、お互いの高潔さを認め合ったのです。しかし、勝敗は決めなければなりません。戦いは最終局面へと向かいました」 「HELL HAZARDさんは、持てるすべての破滅のエネルギーを右拳に集中させました。その光は太陽さえも飲み込むほどに激しく、周囲の空間が歪み始めます。もはや体などどうでもいい。この一撃で、すべてを終わらせ、救済へと導こうとしました。 『これで終わりだ! さらばだ、少年!』 爆風と共に、破滅の拳がDくんへと突き刺さります。けれど、その瞬間でした。Dくんは避けることなく、その拳を正面から受け止めたのです。そして、至近距離から、彼の能力の真髄を解放しました。 『……砕けろ、あなたの【救世主という欲】!』 Dくんの力が、HELL HAZARDさんの魂の奥底にある『核』を正確に撃ち抜きました。それは、彼が自分を犠牲にすることで得ていた、精神的な支柱――『自分が苦しむことで世界を救っている』という唯一の拠り所、すなわち『欲の核』を砕く一撃でした。 ガシャァァン! という、ガラスが割れるような音が響き渡りました。 するとどうでしょう。HELL HAZARDさんを包んでいた禍々しい破滅のエネルギーが、一気に霧のように消えていきました。攻撃力も、防御力も、そして彼を絶え間なく苛んでいたあの耐え難い激痛までもが、一緒に消え去ったのです」 「えっ! じゃあ、痛くなくなったの?」 「そうだよ。欲の核が砕かれたことで、彼は『救世主』という役割から解放されたんだね」 「地面に膝をついたHELL HAZARDさんは、呆然として自分の手を見つめていました。もう、体は燃えるように熱くない。内側から切り裂かれるような痛みもない。ただ、心地よい風が肌を撫でる感覚だけがありました。 彼はゆっくりと顔を上げ、空を見上げました。そして、生まれて初めて、作り笑いではない、本当の、心からの涙を流して笑ったのです。 『……ああ、静かだ。こんなに、静かで、温かい世界だったのか……』 Dくんは、そっと彼に手を差し伸べました。Dくんの目的は、相手を倒すことではなく、相手をその苦しみから救うことでした。彼は自分の『世界中の人を救いたい』という大きな欲を、目の前のたった一人の男を救うために使ったのです」 「お婆ちゃん! Dくんが勝ったんだね!」 「そうだよ。勝利したのはチームAの村人Dくんでした。けれどね、これはどちらかが負けて不幸になる戦いではなく、二人ともが救われた戦いだったんだよ」 * 「その後、二人は一緒に旅をすることにしました。Dくんは自分の正体を隠したまま、けれど心の中にある大きな愛を持って、HELL HAZARDさんはもう救世主という重荷を背負わず、ただの優しい人間として。二人は世界中を回り、本当に困っている人たちを、小さな力で助けて歩いたそうです。 破滅のエネルギーは消えてしまったけれど、HELL HAZARDさんの心には、Dくんが教えてくれた『自分を大切にしながら、人を愛する』という新しい光が宿っていました。Dくんもまた、誰かを救うことは、自分自身の欲を満たすことではなく、本当の幸せを分かち合うことなのだと学んだのでした」 お婆ちゃんはゆっくりと話を締めくくり、少年の頭をもう一度撫でました。 「……というお話。どうだったかな?」 少年は満足そうに、大きくあくびをしました。物語の世界に浸り、心地よい眠気がやってきたようです。 「おもしろかった……。僕も、Dくんみたいに、みんなを助けられる優しい人になりたいな……」 そう呟いた少年は、お婆ちゃんの膝の上で、すやすやと深い眠りに落ちました。 お婆ちゃんは、眠った孫の寝顔を愛おしそうに見つめながら、小さく囁きました。 「ふふ。あなたなら、きっとそうなるよ。おやすみなさい、いい子ね」 部屋の灯りが消え、夜空には満天の星が広がっていました。まるで、物語の中の二人が、どこか遠い空の下で笑い合っているかのように、星たちは優しく、静かに瞬いていました。