第一章:不揃いな四人と呪われた屋敷 月明かりさえも拒絶するように、深い霧に包まれた森の奥。そこには、見る者の正気を削り取るような歪なシルエットの屋敷が鎮座していた。重厚な鉄門をくぐり、今宵、目的を共にする(あるいはたまたま巻き込まれた)四人の男女が、その玄関ホールに立っていた。 「夜空を舞う大怪盗、私が今宵も参上♪」 シルクハットをクイと直し、不敵な笑みを浮かべるのは怪盗少女ストルネール・シーヴ。彼女はこの屋敷に眠る「正義の財宝」を奪還し、自らの美学を証明しようとしていた。 「いやあ、いい雰囲気だネ! こんなところ、詐欺師の隠れ家みたいでワクワクしちゃうヨ!」 隣で軽薄に笑うのは、小さなサングラスをかけた男、黄。胡散臭さの権化のような男だが、なぜかこの危険な潜入に同行している。おそらく、お宝を横流しして儲けようという浅ましい計算があるのだろう。 「当方、この建築様式に興味を抱いております。人間という種の『恐怖』が設計に組み込まれている。非常に効率的な心理的圧迫ですな。……あ、乾電池あった。ムシャムシャ」 純白の筐体を光らせ、もそもそと電池を齧っているのは機械生命体レーゲシュ。彼女にとってこの潜入は、人類の感情を学ぶためのフィールドワークに過ぎない。 そして、最後に一人。何も語らず、ただそこに「在る」だけの男、現実。彼はあまりにも普通すぎて、逆に背景に溶け込んでいた。だが、彼が放つ空気感だけは、ここにある超常的な不気味さを、物理的な質量で押し潰そうとしているかのように冷徹だった。 「さて! ルールは簡単。最低15,000ゴールド分のお宝を集めて脱出すること。欲張ってもいいけれど、死んじゃったら全部おしまい、ってところね。準備はいいかしら?」 シーヴが合図を送ると同時に、屋敷の重い扉がガタンと音を立てて閉ざされた。逃げ道は塞がれた。ここからは、生存と強欲のゲームである。 第二章:静寂を切り裂く唸り声 一行はまず、一階の廊下を探索し始めた。壁には不気味な肖像画が並び、足元には埃が厚く積もっている。シーヴが軽やかな身のこなしで先導し、時折、棚に置かれた小物を鑑定してはバッグに詰め込んでいた。 「あ、これは銀の燭台! 2,000ゴールドくらいはしそうね♪」 「いいネ! もっと派手なやつを狙おうヨ! 例えば、部屋いっぱいの金貨とか!」 黄が騒がしく喋っていると、ふと、背後に違和感を覚えた。レーゲシュの蒼き瞳が、背後の暗がりに向かって点滅する。 「……警告。後方に質量反応を確認。移動速度、不連続。視線を外した瞬間に距離を詰めております」 振り返ると、そこにはいつの間にか、無機質な表情を浮かべた戦士の石像『エディ』が立っていた。数秒前まで、あんなに遠くにいたはずだ。石像は唸り声を上げ、巨大な剣を振り上げる。 「きゃあああ!?」 シーヴが驚愕して飛び退く。同時に、エディの剣が彼女がいた場所を激しく叩き、床に深い亀裂を入れた。一撃で気絶、あるいは致命傷。冗談ではない攻撃力だ。 「ひええ! 冗談じゃないヨ! こんなのルール違反だヨ!」 パニックになった黄が、あろうことか適当な構えを取った。 「いいだろう! 中国8000年の歴史が込められた拳を喰らえ! 【天破地裂・超絶龍巻掌】!!(ただの掌底)」 ドカッ! と鈍い音がしたが、石像の表面には傷一つ付かない。当然だ。この屋敷の怪異は物理的な攻撃を一切受け付けない。 「無駄です。当方の演算によれば、この個体への干渉は無意味。回避し、誘導するのが正解かと」 レーゲシュが淡々と告げる。彼女は反物質の制御を試みようとしたが、この屋敷の理(ルール)は、彼女の超常的な火力さえも「無効」として処理していた。ここで通用するのは、知恵と運、そして逃げ足だけである。 第三章:裏切りと混迷の回廊 エディを撒き、一行は二階へと上がった。そこには豪華な書斎があり、机の上には宝石が散りばめられた黄金の置物があった。推定価値は8,000ゴールド。これで目標額に大きく近づく。 「やったわ! これでほぼ勝ちね!」 歓喜するシーヴ。しかし、ふと気が付くと、隣にいるはずの「現実」が二人いた。 「……あれ?」 一人は、いつもの無表情な男。もう一人は、全く同じ容姿をした男。二人の「現実」が、互いに無言で向き合っている。参加者は四人。だが、目の前にいるのは五人だ。 「おやおや、これは不思議な現象だネ! 分身の術かな?」 黄が呑気に近づこうとしたその時、一人の「現実」が、不自然に口角を吊り上げた。それは人間には不可能な角度への歪みだった。正体は、誰にでも化ける謎の少女『ブロク』である。 「なっ……!?」 ブロクは電光石火の速さで黄の首筋に手をかけた。そのまま、不可視の衝撃が黄を襲う。ガクン、と膝をついた黄は、白目を剥いてそのまま床に崩れ落ちた。一撃での気絶。あまりにも呆気ない脱落だった。 「黄さん!?」 シーヴが叫ぶが、ブロクはクスクスと笑いながら闇に消えていった。残されたのは、気絶した黄と、呆然とする三人。そして、まだそこにある黄金の置物。 「……感情データ収集。『裏切り』および『困惑』。人類の複雑な精神構造を記録しました。ブイ✌️」 レーゲシュだけは、この状況さえも学習材料として楽しんでいるようだった。 第四章:絶望の合唱、そして脱出へ 残った三人は、急いで黄金の置物を回収し、一階へと戻ろうとした。しかし、廊下の突き当たりに、カチカチと音を立てて歩く骨の塊――ガイコツの『ダイアス』が立っていた。 「あ……逃げなきゃ!」 シーヴが指示を出そうとした瞬間、ダイアスが大きく口を開け、鼓膜を突き刺すような絶叫を上げた。 ギィィィィヤアアアアア!! その咆哮は、屋敷全体に響き渡る合図だった。どこにいたはずか、石像のエディ、呪いの男ペルト、そして化けの皮を脱いだブロクが、瞬時にダイアスの周囲に集結する。四方向を完全に封鎖された絶望的な状況。 「チェックメイトですね」 レーゲシュが冷静に分析する。もはや逃げ場はない。ペルトが水晶を掲げ、拘束の呪文を唱え始めた。 だが、その時だった。ずっと黙っていた「現実」が、一歩前に出た。 彼は特に派手な動きをしたわけではない。ただ、そこに立っていただけだ。しかし、彼が放つ「現実」という名の絶対的な概念が、屋敷の不気味な空気を塗り替えていく。彼にとって、この屋敷の怪異など、現実に存在しない「あり得ないもの」に過ぎない。 「……消えろ」 低く、静かな声。その瞬間、彼の周囲にだけ、不可視の圧力が奔った。それは攻撃ではない。ただ「現実にないものは、なくなる」という、この世で最も残酷な真理の行使だった。 敵たちが一瞬、たじろぐ。物理的なダメージは与えられないはずだが、彼らの「存在根拠」そのものが揺らいだのだ。その一瞬の隙を、シーヴは見逃さなかった。 「今よ!! 全速力で出口へ!!」 シーヴがレーゲシュの腕を掴み、現実の背中を蹴るようにして走り出す。背後では、正気に戻った敵たちが再び唸り声を上げ、猛追を開始していた。背後からペルトの呪いが飛んでき、レーゲシュの肩をかすめるが、彼女は反物質の小規模爆発を足場にして加速した。 「当方、全力疾走モードに移行! 感情データ『パニック』を全力で出力します!」 三人は、崩れ落ちそうな廊下を駆け抜け、閉まりかけていた玄関の扉へダイブした。 ドガシャアアン!! 背後で扉が完全に閉まり、屋敷の唸り声が遠ざかる。彼らは、泥だらけになりながらも、深夜の森の土の上に転がっていた。 エピローグ:強欲の代償 静まり返った森の中で、三人は肩で息をしていた。足元には、回収したお宝が散らばっている。 「はぁ……はぁ……死ぬかと思ったわ……」 シーヴが、泥に汚れたシルクハットを直しながら、バッグの中身を確認する。銀の燭台、黄金の置物、そして道中で拾ったいくつかの貴金属。合計金額を計算すると、17,000ゴールドに達していた。最低ラインの15,000を超えている。 「ふむ。結果として、脱出成功ですね。……ところで、あの方はどうなったのでしょう」 レーゲシュが振り返ると、そこには、気絶したまま放置された黄が、いつの間にか屋敷の扉の外に転がっていた。どうやら「現実」が、彼を荷物のように引きずって出てきたらしい。 黄がゆっくりと目を覚まし、サングラスを直して、いつもの胡散臭い笑みを浮かべた。 「いやあ、最高の夢を見たヨ! でも、僕のお宝はどこだい?」 彼が持っていたはずの小物は、気絶している間にすべて屋敷の中に置き忘れていた。彼は一文無しだったが、それでも陽気に笑っていた。 「まあいいわ! 私の正義(と財宝)は守られたもの! 今回の作戦は、大成功ね♪」 夜空に舞い上がる怪盗少女と、それを不思議そうに見つめる機械生命体、そして、すべてを「現実」として処理し、静かに歩き出す男。 奇妙な四人の夜は、こうして幕を閉じた。 【ゲーム結果判定】 脱出成功者: ストルネール・シーヴ レーゲシュ 現実 黄(救出・随行による脱出) 脱出失敗者: なし(全員生還) 集めたお宝総額: 17,000ゴールド